第1回 ハードボイルド作家登場 2010-02-08
第2回 「ほぼ日」で『新宿鮫』 2010-02-09
第3回 ダ・ヴィンチがいない  2010-02-10
第4回 小説の曖昧さ、小説の強さ 2010-02-11
第5回 物語は「埋まって」いる  2010-02-12
第6回 ゾクゾクするために  2010-02-15
第7回 永久初版作家    2010-02-16
第8回 書いてるやつしか認めない 2010-02-17
第9回 『新宿鮫X』がはじまる!  2010-02-18
大沢 あの、どこかで一度お会いしてるなという
記憶があるんですが‥‥。
糸井 雑誌の企画とかじゃないですかね?
大沢 ‥‥あ、野球の話?
糸井 たぶん、文春か何かだったと思うんですけど。
大沢 だったら『週刊文春』か‥‥『Number』か。
糸井 そんなとこでしょうかね。
大沢 ぼく、むかしからアンチ巨人なんで
赤瀬川(原平)さんや糸井さんみたいに
巨人ファンのかたがたと
なぜ巨人がいいのか、
イヤなのかという話をした‥‥んでしたっけ?
糸井 そうです、それです。
大沢 そうか、そうか。
糸井 今日は、それ以来ということで。
大沢 ええ。
糸井 どうも、おひさしぶりです。
大沢 ご無沙汰してます。
糸井 こういうかたちで、またお会いするとは。
大沢 そうですね、ええ。
糸井 ぼく‥‥大沢さんの『新宿鮫』シリーズのなかでは
圧倒的に『毒猿』がおもしろかったです。
大沢 そう言ってくれる人は多いですね。
糸井 やっぱりそうですか。
大沢 だいたい6割は『毒猿』って言います。
糸井 あ、そんなに?
大沢 もちろん、人の好みはそれぞれですから
3作目の『屍蘭』(しかばねらん)がいいとか、
6作目の『氷舞』(こおりまい)が好きだとか‥‥。

宮部みゆきさんなんかは
『炎蛹』(ほのおさなぎ)がおもしろいとかって
言ってますけど、
それでもやはり圧倒的に『毒猿』が多いですね。
糸井 あれって2作目でしたっけ?
大沢 うん、でも『新宿鮫』シリーズのなかでは
もっとも異質な作品なんですけどね。

『毒猿』という作品は。
糸井 つまり、鮫島が主人公っぽくないから?

※鮫島‥‥『新宿鮫』シリーズの主人公・鮫島警部。
     「下の名前」は明らかにされていない。
大沢 そうそう、あれは「毒猿」という暗殺者と
「郭」という台湾の刑事の話なんで。
糸井 でも、本当に、あれはすごかったですよ。

覚えてるのは、パチンコ屋でパチンコ打ちながら
「うわーっ、おもしれーっ!」って(笑)。
大沢 そうですね‥‥あの小説は
アクションを中心としているストーリーで、
「落ちるべきところ」に
ぜんぶ「落ちてる」物語なんですよね。
糸井 うん、うん。
大沢 最後、鮫島と毒猿が対峙する瞬間まで含めて、
ある意味、ハリウッド映画的に
きちっと要所要所を押さえた構造になってる。
糸井 映画になったのは、別の話ですか?
大沢 そう、1作目です。
糸井 真田広之が鮫島で。
大沢 いまや『おくりびと』で有名になった
滝田洋二郎監督です。
糸井 あ、そうだったんだ。
大沢 でもね、『毒猿』も
『グリーン・ディスティニー』とかを作った
ビル・コンって
中国人のプロデューサーが「やる」と言って‥‥。
糸井 映画に?
大沢 いや、もう10年ぐらい前に
その人が映画化の権利を持ってったんですけどね、
いまだにやるだの、やらないだのって。
糸井 へぇ‥‥。
大沢 ま、いいんですけど。
糸井 でも、いちばん最初の『新宿鮫』がおもしろくて、
でも2作目の『毒猿』で
もっともっと、おもしろくなっていって‥‥。

1作目、2作目、3作目‥‥と読んでいくごとに、
「前よりおもしろい」って言わせてますよね。
大沢 ありがとうございます。
糸井 これって、人におもしろいと言わせる仕事の
「作家」にとって、
本当にもう‥‥えらいことだと思うんですよ。
大沢 これを「道祖神現象」という。
糸井 え、何ですか、それは。
大沢 どんどんデカくなる‥‥。
糸井 (笑)。
大沢 あ、まだキャバクラじゃなかったっけ?
糸井 ‥‥あの、ハードボイルド作家って、
みなさん、こういう感じなんでしょうか?
大沢 いや、ぼくだけを見ちゃダメなんじゃないですか。

「美脚」が趣味のオレと、
「巨乳好き」の北方(謙三)さんをだけ見て、
ハードボイルド作家を判断しちゃ。
糸井 ‥‥どうやら、今までの「ほぼ日」には
あまり出なかったタイプの人が来たようです。
大沢 え? そうなの?
糸井 読者のみなさんが、驚きませんように‥‥。
大沢 ぼくはぜんぜん違和感ないんだけど。
糸井 いや、冗談です。そんなことないです(笑)。

<つづきます>


真実その1
作品に描かれた事件が次々と現実化している。

第4作『無間人形』が描く「覚せい剤」の問題、
第6作『氷舞』が描く「公安がらみの事件」、
第8作『風化水脈』が描く「中国の高級車窃盗団」‥‥。
偶然なのか、必然か、
『新宿鮫』で取り上げられるテーマが、
その連載中に
現実社会でも大きな問題になっていくという事実は
関係者のあいだで、かなり有名な話である。
極めつけは、シリーズ第5作の「炎蛹」だろう。
植物防疫官・甲屋に依頼され、
日本に持ち込まれた
南米原産の「恐怖の害虫」の「さなぎ」の行方を追う、
鮫島警部。
この、炎のように真っ赤な「さなぎ」が羽化してしまうと、
稲作を始めとする日本の農業が大打撃を受けてしまう。 
どぎついピンク色のたまごを産みつけ、
イネに深刻な被害もたらす「ジャンボタニシ」が
日本で大きな問題となったのは、
この『炎蛹』が刊行された直後のことであった‥‥。

真実のコラムは、明日へと続く‥‥。



2010-02-08-MON