糸井 大橋さんはファッションや
モードも大好きなんですよね。
絵を描くときには、最先端のっていうか、
モードどころじゃありませんていうような、
アバンギャルドまで描くじゃないですか。
極端に言えば。
大橋 うん、まあね、そうですね。
糸井 で、そこと自分との距離をね、
ずーっと平行して保ってるっていう感じがします。
大橋 わたしは、やっぱりそれは
仕事としてやっていたんですよ。
昔のことちょっと思い出すと
あの当時、こんな(肩が大きく、髪がつんつん)
ふうなこういうっていうのを、
描いてましたけれども、
やっぱりそれはそれだったんですね、
きっとね、たぶん。
ピンクハウスの仕事をしていたときは
そのなかから選んで
比較的楽なものを着たりもしましたが、
なかなかやっぱり、仕事と実際っていうのとは
ちょっと違うかもしれませんね。
糸井 で、今「a.」をお作りになってるベースは
仕事のほうじゃなくて、
何か自分の生活の場のほうに
軸足があるように思います。
大橋 あのね、いろんな服を
その時代時代で着てきたでしょ。
そうすると、今、ちょうど、
何もないものの方が
着やすいような気がしたんですよ。
というのはいろんな組み合わせができるので、
ご自分の持ってらっしゃるのとも合わせられるから。
それに、おばおばスタイルっていうのか、
わからないけれど、
いろいろデコラティブなものもありますよね。
突然豹の顔がこうやってなってたりとか、
田中 (笑)。
大橋 そういうことによってそういう人たちは
元気にはなれたんですけど、
「もういいんじゃない?」
っていうような気持ちもあって、
もうちょっとベーシックなものに戻りたい、
もともとの原型みたいなものに戻って、
それで着やすければいいんじゃないかなって。
あんまり飾りなしに。
糸井 ほんとは「ふつう」も
「原型」もないはずなのに、
そう見えるっていうのが
理想なんですね、きっと。
大橋 そうですね、確かにそうです。
ふつうって何? みたいな。
糸井 なのに「それがしたいんですよ」って言い続ける。
こないだ、ぼく、ブータンに行って
帰ってきたばっかりなんだけど、
あそこは民族衣装が決まりなんですよね。
制服が民族衣装ですから、
空港の係員がみんな、
どてらみたいなものを着て、
黒いハイソックスをはいて、革靴履いて、
荷物持ったりしてるわけですよ。
大橋 そうなんですか!
糸井 ガイドさんも。好きで着てるというよりは、
そうしましょうっていうふうに着てる。
で、あれはあれで大したもんだっていうか。
大橋 すごいですよね。
糸井 すごい。
あそこで育つ何かがあるんだけど、
前からあるような色とかっていうのは
だんだんと出しにくくなるんですよ。
技術が進歩すると、
もっと派手に染められたりするじゃないですか。
だからさまざまな民族衣装って
蛍光色にやられちゃうんですよ。
どうだーって見せたかったっていうところから
始まってるわけだから、
そんときに外国から蛍光色の技術が来たら、
蛍光色入れたくなっちゃうわけで。
ブータンもそんな予感はありますよ。
化学繊維もそうだし、
たぶん変わってくと思うんですね。
「ふつうのブータンの柄」っていうのだって、
ブータンで織ったものっていうのの数って
そんなにはないわけで、
そうするとぼくらが
これはブータンらしいよねっつって
お店で選んでるのが実は
インドのチェックなんですよ。
大橋 そうなんですか。
糸井 インドから輸入したものを
ブータンの人たちがセレクトして、
これはブータンらしいよねっつって着てる。
だから、みゆき族のころの
マドラスチェックなんかに
ちょっと近かったりするんですよ。
だから、実は「今らしい」とか
「ふつう」とかっていうものは
動いてるんだなあと。
大橋 やっぱり動いてるんですね。知らなかった。
糸井 動いてる。大橋さんの「a.」も
きっとちょっとずつ動いてくんだろうなと思う。
田中 そうですね。
大橋 Tシャツひとつでも、いろいろありますものね。
糸井 湯村輝彦さんなんか
Tシャツについてもーのすごくうるさい人だけど、
あの人はもののいいTシャツは
だめだっつってましたからね。
ぺらっぺらのやつじゃないと。
これはだめ、よすぎる、って。
田中 あ、首とかが。
糸井 伸びてきちゃうのがいいんだとか。
それは、普遍化はできないですよね。
だから「ここにふつうはある」って、
ある何年か思えたらもうそれは勝ちですよね。
田中 ああ、そうですね。
一生ものって、ね、ない。
そう思っても、ない。
糸井 ない。あるようでない。
大橋 確かに。
糸井 けれど「a.」には
そう予感させるところがありますよね。
大橋さん、古い服着ます?
大橋 古い服ね、大事に持ってますね(笑)。
捨てられなくて。
でも実際にはなかなか着ないかな。
糸井 難しいですよね。
大橋 コム デ ギャルソンでね、
タグに年代が書いてあるようになったのは、
80年の終わりぐらいで、
それより昔のは付いてないんですよ。
でもそのぐらいのも持ってます。
糸井 「今着たらいいのにな」
って思いながら着ないでしょ?
大橋 着られません、やっぱり(笑)。
糸井 たまにぼくね、
無理して着るときがあるんですよ。
大橋 どうですか?
糸井 あのね、本人は悪い気しないんだけど、
ちょっと悪目立ちするかもしれない。
大橋 あー(笑)。
糸井 何にせよデカいですね、昔のは。
大橋 ああ、そうですよね。
あれって不思議ですよね。
糸井 生地ものすごくいっぱい使ってますね。
田中 今、もう、パツンパツンですからね(笑)。
糸井 だから、もうちょっと経ったら
オッケーなのかなって思って、
二周りも三周りもしてるんです。
田中 でも違うんですよね。
糸井 ただ色落ちなんかは
やっぱりものすごくいいですよね。
大橋
田中
ああ!
糸井 黒だったはずのものが、
茶系みたいに見えてくる。
そういうのは捨てたくない。
で、「a.」はそうなると思うんですけどね。
どうなるだろう。
大橋 これはもう着て、着て、
捨ててっちゃうっていう
部類だと思うんですけれどもね。
(つづきます)