糸井 | 今、何年目ですか、「a.」? |
大橋 | まだ1年です。 2010年の8月から出たので。 |
糸井 | 全部で数えられるくらいの 枚数じゃないですか、 ひょっとしたら? |
大橋 | そうです、そうです。 でもね、服作るって何がたいへんかっていうと、 パタンナーさんが、やっぱり重要なんですよ。 「こういうもの作りたいんですけど」 って言って絵を渡しても、 解釈が違うと全然違うものに なってきちゃうんですね。 |
糸井 | はい。 |
大橋 | で、たまたま偶然なんですけど、 この人はちゃんと通じるっていう人に 巡り会ったんです。 |
糸井 | よかったですねー。 |
大橋 | わたし、気が強いくせに、 面と向かっては違うよって 言えなかったりするんですよ。 たとえばこのカット、違うのにな、 違うのになと思っていても、 そうですね、って ニヤニヤっと笑っちゃうんです。 ちょっと弱気なところがあるんですよ。 |
田中 | でもそれはお洋服だけじゃないですよね。 |
大橋 | そうなの。 |
田中 | (笑)。 |
大橋 | で、あとから、しまった、と思ったり、 ぐちぐち悩んだりとか、 ぶつぶつ言ったりする、いけない性格で、 そのときちゃんと言えばいいのに。 そういうことがあったので、 なかなか、パタンナーさんにも 自分のやりたいことを伝えることが 伝え切れなかったんですね。 向こうも、推し量れなくて これでいいのかな、これでいいのかなって 悩まれたと思うんですね。 で、結局今の人は、 じーっと見て、的確に、 近いものを出してくださる。 |
糸井 | よかったですねー。 |
大橋 | すごいでしょ。 波長が似ていたのね。 ちょっと波長が違うと、 わたしも何か「うん?」と思い、 向こうも「うん?」と思って (おたがいの意図を理解しないままに) できてきちゃうじゃないですか。 でも、今度の人は、 「あ、いいみたい!」 「よかった!」みたいなことが多い。 向こうも別に無理してるわけではなくて。 そういうたまたま巡り合わせ。 |
糸井 | わかります、わかります。うん。 人と組む仕事は全部そうですよね。 |
大橋 | そうなんですよ。人と組むということは そういうことなんです。 |
糸井 | 言わなくてもわかる人がいるしね。 |
大橋 | そうなんですよね。だから今後は さらに変わってゆくかな。 もしかしたらば、 もう一段上がってくかな、 っていうのはなくはないです。 |
糸井 | 何でもそうですよ。 ぼくらがゲーム(『MOTHER』)を 作ってたときに 「この人と組めば!」って思ったのは、 「プログラマーはノーと言ってはいけないんです」 と言った人がいたんですよ。 つまり、ぼくらがアイデア出したときに 「それはできません」て言うプログラマーは いけないんだと。 その話をしてくれたプログラマーは、 今、任天堂の社長ですけれど、 その言葉を聞いたときに、 「え、好きなふうに言っていいの?」 って言ったら、 「もちろんだってそれが糸井さんの仕事ですから」 って言ったの。 |
大橋 | いいですね。 |
糸井 | 「できないことはできないって言うのは、 最後に言うことです。 何とかそのアイデアを生かすのが ぼくらの仕事ですから」って言ってくれて、 ほんとに楽になりましたよね。 ぼくら、絵を描くでも字を書くでもそうですけど、 空気みたいなものを作ってる。 でも、服作るってなったら、 ほつれましただの、首が入りませんだの、 色が出ませんだの、 具体的な話と戦うじゃないですか。 |
大橋 | そうですね。 |
糸井 | それは、やらずに、 もしかしたら一生送れたかもしれないんですね。 せいぜい印刷屋さんと戦ってるぐらいで。 だけど、「物体」を作ると 急に足腰というか、 ほんとに実(じつ)の部分ていうのが。 |
田中 | 大橋さん、戦ってますよね、今ね。 見てるとすごく戦ってると思います。 |
大橋 | 戦う。ふふふ(笑)。 |
糸井 | 何かあったときに人は 傍目八目(おかめはちもく)で 「こうすればいいのに」とかって言う。 それを、大橋さんは今だと、昔よりも、 何も分かってないくせに! って思うでしょ。 |
大橋 | (うなずきながら、笑)。 |
糸井 | おれははっきりそうですよ。 銀行のコマーシャルやるにしてもね、 昔だったら、こうしてこうしてこうすれば もっとみんなが喜ぶのにって思って 平気でそう言えたけど、 今、銀行の側にもなるわけじゃないですか。 |
大橋 | ああ、なるほどね。 |
糸井 | そうしたら、 そんな簡単に分かるわけがないっていう。 だって、いい加減に建てた家じゃ、 倒れちゃうんだもん。 |
大橋 | そうですよ、ねぇ(笑)。うーん。 |
糸井 | で、ものをつくるのに 大事なことって3つあるんですよ。 ひとつは「考える」、 コンセプトを考えたり、 アイデア考えたり、 イメージを作るっていう、 全くこう、脳とか心に関係ある部分。 ふたつめは、 「実際に具体的にものを実現していく」。 そしてみっつめは、大事なの、 「お客さん」なんですよ。 |
大橋 | ね。 |
糸井 | 使ってくれるお客さんが この3つの三角形の循環なんですよね。 お客さんがわかってくれないと どんなに何してもだめなんですよ。 それはね、コピーライターだけやってるときにはね、 わかんなかった。 |
大橋 | なるほど。 わたし、昔々、すごい若いころに 『平凡パンチ』の仕事してるとき、 たまたま、後ろに表紙の言葉っていうのを 書いてたんですよ。 いい加減なことばっかり書いてたんですけど、 なぜか、どこだっかのレコード会社の人が それを気に入ってくれて、 歌の作詞をしないかって言われたんですよ。 |
糸井 | はい、はい。 |
大橋 | わたし「嬉しいー!」って思って、 |
田中 | (笑)。 |
大橋 | それで、もう力入れて書いたんですね。 そしたら「あなたのこの歌はだめだ」って。 つまり、歌っていうのは、 お客さんに届くまでに、 もちろん詞もあれば、曲があって、 いずれもパーフェクトじゃなくて、 そこに歌い手が歌い込むっていうことで 初めて届けることができるから、って。 すみません、全然違うかもしれないけど思い出した。 |
糸井 | 同じですよ。 かたちにしたときには こういうのがあればいいのになっていうのと 違うものが必要になる。 |
大橋 | そうなんですね。 |
糸井 | で、なおかつお客さんに届いて、 作詞家としてはすっごくよくできた、 っていうところが お客さんは全然気付いてくれなかったとか、 実はすごく考えたところは気付いてくれて、 ぴょんぴょん飛び跳ねて喜んだとか、 そういう人がいるかいないかで、全然。 |
大橋 | 違いますよね。 |
糸井 | で、それが循環するんですよ。 |
大橋 | そうかもしれない。 それと、それって作ってるひとって あんまりよくわかりませんよね。 わたし、わかんないんです。計算できない。 |
糸井 | もうすぐわかりますよ。 |
大橋 | あ、そうですか! わかりますか? |
糸井 | わかりますよ。 |
田中 | お(笑)! |
糸井 | あの、何よりも自分──、 もともと最初に 自分が着たいものを作ったから大丈夫ですよ。 |
大橋 | はい、それしかないんですけど、基本が。 |
糸井 | 要するに「私と同じような人」がいるのが 見えるから、やってるわけだから。 |
大橋 | ああ。 |
糸井 | お客さんの気持ちがわかんないっていうのは、 もうどんなにいいデザイナーでも やっぱりあとが大変ですよ。 「どうすればいいんだ?!」 ってなっちゃいますよね。 ぼくは、大橋さんは大丈夫だと思う。 生地でいちばんいいのがないのよとか、 縫製が今度の工場がだめだったのよ、 とかっていうのが 実はいっちばんたいへんなことで。 でも、どうやらそこんとこ、 今、クリアしてるみたいだから、 どんどん面白くなりますよ。 |
大橋 | いやあ、わからないですけど(笑)。 |
糸井 | かたちあるものっていうものも、 かたちないものに似てるんですよ。 この言い方、変か。 |
大橋 | いや、わかります(笑)。 |
糸井 | かたちないものを仕事にしてる人は かたちあるものをばかにする。 工場に入れるだけでしょ、 なんて言うんですよ。 でもそこんところで、 ほんとにいいものをずーっと見てるというか、 できるまで見てるみたいな目がないと、 ダメなんですよ、やっぱり。 |
大橋 | なるほど。 |
糸井 | あ、おれ、今、ちょっと先輩ぶったな! |
全員 | (笑)。 |
(つづきます) |