糸井 「ほぼ日」は素人出身だから、
最初、言えばできると思って、
こういうのがほしいんですよねって言ってました。
だっけど、そうはいかないんですよね。
大橋 やっぱり、わたしもずっと素人で、
イラストはちょっともしかしたら
長いことやってたから、
あれは一応プロと自分でこう、
線引いてますけれども、
その他でやってきたことは、素人。
自分がいいなぁと思ったことが仕事に、
たまたまなってきたみたいなところで、
それはそれですごい面白かったですけども、
でもそれだからできた、っていうのも
またあったんじゃないかなと思う。
糸井 うん、まずは怖いもの知らずで
スタートできますね。
大橋 そうです、そうです。
糸井 で、うまくいかないなっていう部分については、
ちゃんとガッカリできますよね。
プロだったら、「しょうがないよね」
って言っちゃいますよね。
大橋 ああ。
糸井 そういう、素人とプロのね、
自分の中でのやり取りみたいなのが
結構面白いんですよ(笑)。
大橋 なるほど。
糸井 苦労なんだけど。
「ほぼ日」のプロジェクトも、
昔に比べて考え出してから実現するまで
2年ぐらいずつかかるようになっちゃった。
「ほ+(ほぷらす)」もそのくらい。
ーー 足かけ3年かかりました。
湯のみとごはん茶わんの店というのを
作り手を8人集めてひらいたんです。
大橋 すっごい。
糸井 つまり、すっとやればできるかもしれないんだけど、
できないんですよ、やっぱり。
大橋 そうなんですか。
ーー やればできそうなところを1回やめたんです。
いちどあつめたものを、やめよう、と。
糸井 それじゃつまんないからと。
「しょうがシロップ」も2年かかってる。
考えてはじめてからだったら
10年、20年経ってますよ。
大橋 え(笑)? えー!
糸井 ぼくは人がホラにしか聞こえないときから
言ってますからね。
おれはしょうが王になるんだって(笑)。
ーー 「やさしいタオル」も3年かかりました。
大橋 すっごーい。私、わりとそういうの難しいかも。
田中 (笑)。
大橋 不安ですよね(笑)。
糸井 それもなだめながら。
大橋 ああ。えー!
糸井 面白いでしょ。考えられないでしょ。
大橋 わたし、それ、足りないかも。
糸井 つまりぼくらもせっかちですから、
今言ったら今見たいぐらいですから。
大橋 そう、ね。
田中 せっかちなんだけど、それぐらい、ぐっと。
糸井 そうです。
せっかちだけど、それは我慢とかじゃなくて、
納得できるんだよね。
田中 あるとき、すーって。
糸井 で、それはまだ出せないっていうのが
わかるんですよ、やっぱり。
お客としての自分が、
やめとこう、って言うんです。
大橋 すごーい。
糸井 面白いですよ、それ!
大橋 へぇー。
糸井 長生きしたくなっちゃうんですよ、だから。
田中 大橋さん、そのうち食べ物も
作り始めたりとかすることもあるんですかね。
大橋 食べ物を? わたしが?
糸井 いや、何でもあると思いますよ。
家具であろうが、家であろうが。
だってたとえば椅子ができますよって
言われたときに、
「だったら、私、ほしい椅子があるの」
って思うでしょ?
大橋
田中
ああー!!
糸井 同じことですよ。
で、これですか? って言われたら、
それじゃないって思うじゃないですか。
大橋 うん、うん。
糸井 そしたらそれは売れないじゃないですか。
大橋 なるほどね。
糸井 じゃあどうするんでしょうね、と、
こういうことを繰り返していくと
やっぱり2年かかるんですよ。
大橋 すごーい。
私がたとえばほら、最初に
『アルネ』を作ろうと思ったときに、
もちろん半年ぐらいは出せませんでしたけど、
でも、そんなに客観性がないんですよ。
これではお客さんがだめだろうっていうのは
ひとつの客観性でしょ。
それがわたしには全くないので、
とにかく好きなように何かを作れば
きっと少しは好きな人いるかもしれない
という望みで出しちゃうんですよ。
だからもしもそういう形で
『アルネ』を考えてたら、
きっと、ずっと出せなかったかもしれない。
糸井 そうでしょうね。
そこはぼくも同じですよ。
実はどっかでばくちっていうか、
自信ていうか、勇気っていうか、
何か向こう見ずっていうか。
大橋 わたしは向こう見ず。
糸井 うん。だってそれは『アルネ』以上に
「ほぼ日」はひどかったですからね。
絶対、1銭にもならない状態から
始まるわけですから。
稼ぎ方知らないで始めてますから。
大橋 はい(笑)。
糸井 『アルネ』だったら
一応本屋さんでいくらっていうの、あるけど。
大橋 あります、あります。
糸井 ネットは、ないですから。
大橋 何にも入ってきませんもんね。
糸井 それでも「こういうのがあったらいいな」
っていうのが作れるまでは
スタートはできないんですよね。
それがどんどんひどくなっていって、
並行してみんながいくつもの仕事をやってるのが
いまの「ほぼ日」です。
大橋さんの「a.」もきっと、そうなると思う。
もっと欲が出るし。
大橋 ああ!
糸井 シンプルの中でもいろんなシンプルあるし。
大橋 そうですよね。
そう、シンプルの中にもほんとに、
襟ぐりひとつでもいろいろあるわけだし、
シンプルといっても、いろいろですよね。
糸井 うん、だから100人しか
わかってくれない面白さもあるし、
100人しかのように見えて
1万人のものもあるかもしれないし、
そしたらそれはその都度
全部面白さが違いますから、
大橋さんも、面白いですよ、きっと。
大橋 すごーい、仕事って、
聞いてると面白そう(笑)!
何か突然の感想だけど。
仕事してることがちょっと
嬉しくなってきますね、何か。
ね?
田中 ふふふ。
糸井 「a.」、大橋さんはスタートしちゃったんだ、
っていう面白さを
ぼくはひとごとながらワクワクして見ています。
遊びのままより面白いですよ、
仕事になっちゃった方が。
大橋 でも実際にはすごく苦しむんですよ。
糸井 いや、わかりますよ、それは。
「趣味の同好会でかわいいお洋服作ったの」
って言っても、
人はそんなに着てくれないですもん。
「あげるわ」じゃ来ないもん。
大橋 そうですね。確かに。
糸井 そこはね、仕事っていいんですよー。
大橋 ね。確かに。
糸井 『アルネ』も同人雑誌じゃだめで、
一見ね、好き勝手やってるんだけど、
やっぱりどっかでね、
「いらっしゃいませ」
って言ってるみたいなところ、
サービス精神が結構旺盛なところがある。
田中 (笑)。
大橋 喜んでもらいたい!
みたいなところも、あります。
糸井 でしょう?
大橋 もう必死でそこを
やっちゃったりするのはありますよね。
糸井 そうなんです、そうなんです。
それが面白いんですよ。
そして、そのときやってることは
やっぱりそういう運命なんですよね。
田中 うん、うん。
大橋 そうですねー。
── 大橋さんは、70になられたから
洋服作ってみようって思ったって
おっしゃってましたけど、
大橋 それもあるんです。
糸井 じゃ、60のときには
思わなかったんですよ、きっと。
大橋 そうです、全然思いませんでした。
そのときは必死に『アルネ』だったから。
でもやっぱり、やっぱりね、
楽しくないとできないものなんですよ。
楽しくないことは
どんな何かがあってもできませんね。
糸井 うん。そして、やっぱどっかでね、
仕事のかたち取ったり、
臆せずにお金のことっていうのを
ちゃんと考えたりしてると
長持ちするんですよ。
(おわり)