大橋さんはどうやって
服を選んでこられましたか。
大橋 わたしは、やっぱり、
人にどう思われるっていうことも
あるかもしれないけど、
自分が元気になるために
服を選んでると思います。
元気になる。
それがすごく強いかもしれない。
それはずっと若い頃から?
大橋 そうですね。基本的には、
その服を買う時には、
その新しいものを買ったことによって、
自分になんだかパワーが出てきちゃうみたいな、
元気を貰えるみたいなことなんです。
毎年新しいものを買うことによって、
なんとなく世の中の動き──、
例えば、わたしは川久保玲さん
(コム デ ギャルソン)がすごく好きだから、
その川久保さんの前向きなところに、
ちょこっとでもついて行けるのかしらみたいな。
そういうところはすごくありました。
同性に何か思われるというよりは。
わたし、友達のほとんどが、
高田喜佐さんを別にして、
コム デ ギャルソンの服を着てる人が、
ほとんどいなかったんですよ。
ほとんど自分のためだったかも。
そういう大橋さんは
珍しいほうだったんでしょうか。
大橋 いや、もしかしたら、
仕事を頑張ってしなくちゃ
いけないと思ってる人は、
案外、そんなところ。
鶴田 わたしも、自分が着る服っていうのは、
大橋さんがおっしゃったみたいに、
そのデザイナーの持っている
フィロソフィーに憧れて、
その一部を自分に取り込みたくて、
という感覚がすごくあると思います。
なので自分が、時を過ごしていく中で、
最初はこんな感じが好きだったけど、
今の自分はもうちょっと
力が抜けてきたな、と思えば選ぶ服も自然と変わっていく。
例えば、最初は、
ジャケットをよく着ていたとしますよね。
“ちゃんと形があるもの”を着ていた。
けれどいまは、自分というものが削げた、
シンプルな自分でありたいと思う。
そんな時には、やっぱり自然と、
ワードローブも変わってくる。
その時の自分の内側と
すごくリンクしてる気がしますね。
それは、人の目を気にしてるというよりは、
今の自分はどんな気分なのかな、
っていうところで選んでるような気がします。

大橋 すごく昔ね、
コム デ ギャルソンのコレクションで
鶴田さんをお見かけしたことがあるんです。
そうか、こういうものも興味がおありなんだと思った。
だったら今回、こういうお話に加わっていただく時に、
感覚的に離れないでお話しができるだろうから、
お願いできてよかったなと思ったんですよ。
鶴田 そうですか、ありがとうございます!
その頃は、大橋さんと同じように、
川久保さんの前向きなエネルギーとか
哲学みたいなものに、すごく憧れていた時です。
周りの大人たちが、
それこそ大橋さんくらいの大人たちが、
すごくカッコよく見えていて、
その方たちがみんな川久保さんに注目をしていて。
そこで聞いて覚えた知識を、
実際にコム デ ギャルソンに行って、
確認してみたり(笑)、
そういう感じだったと思います。
田村 川久保さんの服は、
時々あまりにもインパクトが強くて、
わからなくなることありますけどね。
これは何なんだろうって(笑)。
鶴田 わたしも、みんながあまりにも、
「今回の、素晴らしいわぁ」
って言ってるのを聞いて、
そうなんだ、と思って見に行ってみると、
よくわからなかったこともありました。
「そうか、わたしには、
 まだわからないんだな」って、
自分で思ったりとか。
そういう事がすごく楽しくて。
そういう方たちに、ある意味、
育ててもらったような、
そんな感じがします。
大橋 わたしは、川久保さんとか、
山本耀司さん(ヨウジヤマモト)だとか、
そういうちょっとクリエイティブな
服っていうのかしら、
そういう服がもう本当に大好きだったから。
でも、ある時、モードとか
ファッションとかっていうものからちょっと離れて、
基本的なものがあればいいなぁというふうに
思い始めたんですね。
で、オーダーで作ってもらい始めた。
そのほうが今の自分には、気持ちがよかったから。
『Arne』を辞めた後に、
やっぱりそういう、
基本的なものの服を作っていけたらいいなぁ、
っていうことで始めたんですよ。
でも、そんな簡単にはうまくいかなくて、
なかなかと四苦八苦してますけれども。
だから、鶴田さんが今シンプルなものを
あえて選んでらっしゃるっていうのも、
「あ、よかったな」みたいな(笑)。
田村 でもさ、僕、女性ものあんまり見ないですけど、
結構そういうシンプルなもの探すの、
すごい大変じゃないですか、今?
みんなそれぞれ、主張してるでしょう?
余分なものが付いてるとか?
田村 そう、何か必ず付いてる。
それはやっぱり川久保さんとかね、
そういう1人の人が全体を見て、
責任を持って出してれば、
「こういうジャケットがあるから、
 絶対何もないパンツが必要よね」
ってなるじゃないですか。
これがあるから、こういうものが引き立つ、
主役がこれであったら、
脇役にいいのを揃えないと、って。
でも、そうじゃなくて、
アパレルの会社だと、
デザイナーが何人もいるわけでしょう。
成績を上げるために、
売れるスカートを作らなきゃならなくて、
1点で何か主張のあるもの、
お客さんが手に取ってくれるようなものを出すから、
上も、スカートも、靴も、靴下も、
全部、“何か”があるの。
そんななかでシンプルな服を選ぶのは、
すごい大変じゃないかなと、
いつも思ってたんです。
大橋 あぁ、そうですね。
田村 例えば、セレクトショップでも、
1個1個はみんないいんでしょうけど、
組み合わせづらいんじゃないかなぁって、
そんなふうに、女性ものの服を見ていました。
男ものはわりと、ベーシックでね。

大橋 そうですね、ベーシックだからね。
田村 トラッドなものだってありますから。
大橋 いいですね。
田村 だから鶴田さんも
シンプルな服を選ぶのが
大変なんじゃないかなと思って。
鶴田 実は最近、あんまり買い物をしなくなっちゃったので、
今の服がどうなのかっていうことを、
よく知らないんですね。
田村 そんなことないでしょう。
鶴田 ほんとうに。
洋服屋さんに足を運ぶことが、
昔に比べると減りました。
逆に、シンプルで素材が良くて
長く着れるものを少しずつ集めたいな、
というふうに思考が変わってきたんだと思います。
年齢とともに、
生活スタイルとともに変わってきた?
鶴田 年齢とともにっていうのもきっとあるでしょう。
もしかしたら、時代もそういうふうに
向かってるのかもしれないですし。
その両方だと思うんです。
大橋 わたしもそんな気がしています。
だけど、時々はやっぱり、
コム デ ギャルソンに行って
買ったりはするんですね。
でも、自分で作るのは、
なんでもないものを作りたいなという
気持ちがすごく強くて。
だって、それはわたしは、デザイナーというより
服を作るということをしたかっただけなので。
仕事の仕方が、全然違う。
シンプルなものっていうのは、
やっぱりきれいだと思うんですね。
でも、年齢が上の方になってくると、
いろんな方がいらして、
シンプルなものが素敵と思われる方も
多くなってきているんですけど、
そうじゃなくて、
服で自分を主張したいっていう方も
たくさんいらっしゃる。
わたしは、シンプルでいいっていう考え方の人に
好んでもらえるものを
ちゃんと作っていかなきゃいけないなと
思ってるんです。

(つづきます)
2011-11-16 WED