パリに長くいらっしゃった田村さんに
おたずねしたいんですけれど、
パリの女性ってカッコいいな、と思うんです。
パリのおばさん‥‥、っていったらあれですけど、
マダムたち、カッコいいなぁと。
年齢が高い人もカッコよく見える。
田村 じつはね、そうおっしゃる方と、
「パリに行ったけど、
 みんな、なんかそんなに
 おしゃれじゃないわよね」
って言う人も半分くらいいるんです。
たぶん、その後者のほうは、
ファッションっていうものを、
“ものすごいもの”だと思ってらっしゃる。
わりと地味じゃないですか、向こうの人は。
シンプルですよね。
田村 シンプルで、地味なんですよ。
だから、例えば、うちの母親なんか、
よく模様の入ったニットのものとか着るんです。
あるいはラメとか入ってるやつね。
だから、何もないシンプルな、
紺の丸首のセーターに、
共布のカーディガンで前ボタンになっている、
ツイン•セットというんですが
グレース・ケリーがヒッチコックの映画に
出てる時とかに着ていたような装い。
もう、いちばん品のある、
僕にすれば、こういうの着てもらいたいな、
っていうのがあるわけね。
でも、そういうものを母親に買ってくると、
「全然着てないじゃない」ってなるんです。
入ってるわけ、引き出しの中に。
「なんで?」って訊くと、
「ちょっと地味だから。
 若い人ならいいけど」って言う。
僕は向こうで、そういう
素敵な人たちを見てるから、
是非そういうのを着てほしいなと思ったんだけど、
やっぱり派手さが足りないと思っちゃうみたい。
「年をとったからこそ、派手なものを」
と考えていたり、
あるいはブランドものや、
流行のものを早く着たりすることだけを
おしゃれだと思っている人には‥‥
田村 「パリの人、結構地味よね」って
うつるのかもしれないですね。
フランスの人は、
シンプルな服の上に
真珠の一連のネックレスを
ポンってつけてたり、
襟の中にちょこっと、
スカーフが見えるようにとか、
だいたいそんな感じですよね。
だから「もっと全然おしゃれだと思った。
日本の人のほうが全然おしゃれ」
って言う人もすごく多いわけ。

それとね、よくその年代の人たちが、
「わたし、ファッション、わからないから」
というふうにもおっしゃるんですが、
フランス人でそう言った人、
ぼくはまだ聞いたことがない。
いわゆる商店街のおばさんたちも、
「今、何が流行りだか、わからないけど、
 わたしは、こうよ」
みたいなことを言うんですよ。

一同 あぁ!
田村 あれはすごい。
あの自信はどこから来るんだろうって思う(笑)。
鶴田 国民性に違いはある気がしますよね。
フランスの方って、「みんな」より「わたし」が
先に来ているイメージがあります。
田村 そうそうそう。
悪く言えばね、例えば、スイス人とか、
よく言うんですけど、
「フランス人って、2メートル泳げると、
 『わたし、泳げる』って言う」って。
一同 (笑)
田村 英語2つ知ってると、
「英語しゃべれる」って言う。
その辺もあるのかなぁ?
鶴田 でも、そういう国民性だからこそ、
人柄がポンと前に出てきて、
抑えた服でもすごく素敵に、
見えたりするのかも。
一同 あぁ!
田村 わりと雑誌に最新のが出てても、
気にしないんだよね。
「あ、そうなの? でも、わたしはこっち」
みたいなね、流行に左右されない。
大橋 わたしもそんなにあちらの方を
知らないんですけども、
でも昔、昔むかし、えらい昔なんですけど、
わたしがパリに行ってた頃って、
日本の中年の方たちって、
そんなにおしゃれじゃなかった。
だからすごくおしゃれに見えたんですよ、
向こうの人たちが。
ていうのは、なんていうんだろう、
子どもの時から、
「この色を持ってきたら、
 この色でこれ」
って、ひとつの形みたいなものを、
着せられますでしょう?
それが基本になって、10代とか20代、
お金のないところに、
ありものでおしゃれをしても、
それはそれでカッコよい人たちが多かった。
で、その後、お金ができてきて、
自分で買えるようになった頃には、
自分をどう見せるかっていうことがわかっていて、
それで選ぶ。
そんな気がするんですね。
それでも最近行くと、昔とは、
ちょっと違ってきてるような気もするけれど、
それは時代の流れみたいなものも
あるのかもしれません。

向こうに住んでいる人たちに言わせると、
日本人のおしゃれと、
向こうの人の女性のおしゃれとは
まったく違うんですって。
女性が女性らしくあるっていうこと、
いかに男性にモテるかっていうのを基本に、
それこそ年齢に関係なく、ものを選ぶ、
服を着るのだそうです。
だから日本人とは違うんだと
聞いたんですよ。

田村 なるほどね。
男性の目?
大橋 男性。いかに男性に
セクシーに見てもらうか。
女性として見てもらうか。
大橋 そう。
日本では今、
若い子のファッション雑誌を見ると、
「モテ服」とか、「モテコーディネート」とか。
鶴田 そうですね。
大橋 けれど上の人たちは、それに慣れてない。
日本の女性は、
“見(魅)せちゃいけない”みたいに、
育ってきていますよね。
今の子たちは、たしかにね、
胸をボンと出してね(笑)。
あちらのかたはね、
普通のシャツを着ても、
1つ余計にボタンを外す。
で、かがんだりしたときに、
さりげなく胸が見えるかな、
というくらいに、
ちょっとアピールする。
そういう計算がちゃんとできるんだそうです。
田村 向こうの人は向こうの人で、
「日本人って、本当におしゃれ」
っておっしゃいますよ。
「みんないいもの着てるし」って。
「いいもの着てる」というふうに
おっしゃるんですね。
田村 たぶん、品質は良く見えるんでしょう。
フランスの人は、本当に一般の人は、
そんなにたくさん
服を買ってないと思うんですよ。
もう昔から何年も着てるものを
いろんなコーディネートで着回してる。
大橋 そうだと思います。
じゃあ、今の日本の大人の女性たちが
気にしていることは、いったい‥‥
大橋 女の人の目のほうを気にするんじゃないですか。
つまり、同性の目?
大橋 同性の目。
田村 あぁ!
大橋 同じ世代の人たちから、
「まぁ、おしゃれね」って言われると、
「わぁっ(うれしい)」っていうような。
そこら辺がすごい違いなのかなぁと思うんです。

(つづきます)
2011-11-15 TUE