糸井 大橋さんの服って、
いろんな人が着た時に、
違う服に見えても平気な服なんですよ。

大橋 全然平気です。
糸井 小っちゃい人が着ると、こう見えるし、
大きい人が着ると、こう見える。
どっちもありっていう服の着方は、
実は相当おもしろいですよね。
なんていうんだろう、
とってもお金がないときって、
そういう着方をしていたんだよ。
こーんなでっかいTシャツを着てたりね。
大橋 はいはい。
糸井 それ、ちょっとヒントなんだよね。
他にないから、人間を合わせちゃうみたいな。
それでいいじゃない。
大橋さんの服って、おもしろいんです。
「ほぼ日」のみんなが、
サンプルを見て、
「わたし、似合うかしら」って着てみたら、
それぞれ違う服に見えるんです。
大橋 あぁ、よかった。それ、見たかった。
糸井 途中で、みんながある程度まとまりかけた意見が、
「大橋さんが小っちゃいから、
 小っちゃい人に合うように
 できてるんじゃない?」
ってこと。
そういう言葉にまとまりそうになったんです。
でもそのまとまりはつまらないなと思って、
さらにいろいろ着てもらったら、
いや、そういうことじゃない、
全部OKだってわかった。

田村 それは素晴らしいじゃないですか。
鶴田 大橋さんは、服を作られる時に、
いちばん気にかけていらっしゃることって何ですか?
大橋 うーん‥‥、何、気にしてるかな。
作るっていうことで言うと、
やっぱりもうかなり
ディテールみたいなことを
気にするかもしれないですね。

鶴田 襟の開き具合とか?
大橋 はい、たとえば、襟の。
でも、実際にはね、わたし、
基本的には自分が着たい、
っていうのがあるんです。
でも、わたしが着て、
このⅤのこの開き具合はちょうどいい。
これで行きましょうって、
見本ができて、
もうちょっと体の大きい人が着ると、
これは詰まってて変っていうことになって。
じゃあ、もうちょっと開けましょう、
ということになったりすることもあるんですね。
必ずしも自分が全部合うようには
作ってるわけではないんですけれども。
すごくむずかしいのは、
年齢の、わりと上の方に着てもらいたい、
と思ってるもんですから、
すごくいろんな体形の方がいらっしゃるんですよ。
もちろん太れなくて痩せてらっしゃる人もいれば、
とても胸が厚い方とか、
若い人よりも幅があるんですね。
田村 うんうんうん。
大橋 それで、似合う、似合わないっていうのが、
出てきたりする。
ただ、逆に、わたしが似合わないものは、
もうちょっと違ったタイプの人には
ちょうどよかったっていうこともある。
服づくりって、
そうやって進めて行くものかなぁと思って。
糸井 服にさ、依存してると似合わないですよね。
大橋 あぁ!
糸井 この服に、わたしを、
なんとかしてもらいたいと思ってると、
似合わない。
大橋 なるほど。それですよ。
糸井 だから、途中で、さっきのみゆき族から始まって、
みんなお仕着せで着て、
「正しいか、間違ってるか」
っていう着方してるっていうのを脱する、
あいだの抜け道が1個あって。
それは、古着なんですよね。
大橋 なるほど。
糸井 古着を1回経過すると、
しょうがないじゃんってなる。
そこで、あのトンネルを
抜けるんじゃないかなぁ。
いま45歳ですが、
世代的にはみんな古着を、
普通のものとして着てました。
ちょうど、代官山や原宿に
古着屋がワーッとできた頃、
10代でした。
お財布的にもコーディネート的にも
なやんでいたから、
「そうか、古着を着ればいいんだ!」
って、夢中になりましたよ。
糸井 デザイナーも相当古着を使うよね。
田村 そうですね。
糸井 そうすると、サイズがぴったりではない、
とかっていうのはOKだし。
古着って、案外でたらめな
オーソドックスなんだよね。
でたらめなオーソドックス(笑)。
大橋 あ、そうですね。
田村 何でもありますよね。
糸井 だから、てっちゃん(田村さん)を見てわかる。
これ、全部古着じゃん、思えば。
田村 ‥‥ある意味(笑)。
糸井 昔からあったよみたいなものですよね。
大橋さんがつくっているものって、
けっこう、男物の世界と、
重なると思ったんですよ。
「ほぼ日」でも、
「男物作ってください」っていう声が、
多いんですよ。
大橋 男物が、すごくいいのは、
本当に着るものがはっきりしてるじゃないですか。
例えば、シャツ、上着。
変にデコラティブじゃなくて
シンプルなもので原型みたいなものが
きちっとあって、流行はそれに、
例えば、襟の幅だったりとか。
身幅だったり。
大橋 そういうことだけでしょう?
全然変わりませんよね。
わたし、2000年過ぎたら、
もうちょっと変わると思ったんですよ。
2000年過ぎたら!
21世紀になったら、
紳士服にも変革があると。
田村 男性は、ベーシックがあるけれど、
女性の場合はあるんですかね?
大橋 女性はないんですよ。
昔の話でごめんなさい、
1960年代の昔に飛びますけども、
わたし、『メンクラ(Men's Club)』で
仕事を始めて、男の人のこと、
なんてうらやましいって思いましたもの。
糸井 女性は、映画のファッションじゃないんですか。
大橋 その当時はそうです。
糸井 映画雑誌がファッション雑誌でしたよね。
大橋 そうです。ヘップバーン
(オードリー・へプバーン)の服とか、
あれが教科書でしたよね。
男の人の場合は、
そういう「かたち」がありましたので、
それにプラスしていくことで、
ひとつのスタイルができていくんですけど、
女性はそれがない。
だから、この映画の俳優さんの
この服は素敵っていうので、
それを欲しがったりとか。
その都度変わるんですよ、
なんにもちゃんとした形がないので。
おしゃれは、女性のほうが苦労しますよね。
で、男の人って、2000年になっても、
その形が崩れてないっていうのはすごいですね。
崩れないですね、たしかに。

(つづきます)
2011-11-18 FRI