ほぼ日 |
ほかに、田中さんの手がけた製品はというと‥‥。 |
田中 |
ええと、じゃあ、一種の「テープのり」なんですが、
塗った面が「ツブツブ状」になる
「ドットライナー」という商品を、つくりました。
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ほぼ日 |
はー‥‥、のりがドット状に。 |
田中 |
今までの「テープのり」は、塗った「のり」が
ねちょーっと糸を引いてしまって、
キレの悪いところが大きな欠点だったんですね。
お客さまからのご意見やクレームも見てても。 |
ほぼ日 |
でも、この商品は、そんなことないですね。
すーっとのりが引けて、糸を引かないし、
なんと言いますか、やってておもしろいです。 |
田中 |
そうそう、おもしろいでしょう?
こっちは、もっとおもしろいんですよ。
「ドットライナー ホールド」というんですが、
「紙の端っこにうまく塗れる」んです。
こうしてグッと挟んでスッと引くと‥‥ほら。
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ほぼ日 |
あはははは、おもしろーい!
‥‥のりを塗ってるだけなのに
おもしろく感じるのはなんでだ?(笑) |
田中 |
のりって、封筒の口に塗るとか、
紙の「端っこ」に塗ることが多いんですね。 |
ほぼ日 |
たしかにそうですね。言われてみれば。 |
田中 |
看護婦さんがカルテを管理するときって
1枚1枚、
上から貼って、増やしていくんですって。 |
ほぼ日 |
へぇ。 |
田中 |
病院ですから、あまりまわりを汚したくないし、
端っこにうまく塗れる
テープのりがあったらいいなって意見が、
リサーチなどをすると、聞こえてきたんです。
そういう声なども参考にしながら、
開発した商品なんですけどね。 |
ほぼ日 |
開発というと、どれくらいかかるもんなんですか? |
田中 |
えーっと、このドットライナーは、だいぶかかりました。
2年から3年くらい‥‥でしょうかね。 |
ほぼ日 |
きっかけは、クレームからですよね。
ベタっと糸を引くのがイヤだという。 |
田中 |
ええ。 |
ほぼ日 |
その問題をちゃんと解決したのみならず、
ちょっとこれ、おもしろいですもんね、塗るのが。
すいません、何回も言っちゃいますけど。 |
田中 |
ええ。いちど使ってもらえたら、
なんだか気持ちがいいとか、塗ってて楽しいとか、
思ってもらえることの多い商品です。 |
ほぼ日 |
ははー‥‥。
さらにこれ以上、進化するんでしょうか。 |
田中 |
はい? |
ほぼ日 |
いや、のりって、
これ以上、開発の余地があるのかなと思って。 |
田中 |
おまえ、この先、どんなのりをつくる気かと(笑)。 |
ほぼ日 |
いやいや(笑)、こういうのを見せられると、
なんかやりきっちゃった感も、あるような気が‥‥。 |
田中 |
うーん‥‥僕は、そうは思っていませんね。
もっと手軽に、とか、
もっと便利に、もっと快適に‥‥というイメージで
考えていくと、
まだ「この先ののり」って、あると思います。 |
ほぼ日 |
そうですか! なんかそれは、嬉しい答えです(笑)。
‥‥でも、なるほど、紙を挟んだときに、
このローラーがあるから、紙の上を滑るわけですね。 |
田中 |
余談ですけど、これ、2本めのローラーが
ほんのすこーし傾いてるのが、ミソなんです。
わかります‥‥?
|
ほぼ日 |
え? あ‥‥ほんとだ!
かなり、かすかな角度ですが、斜めっぽくなってますね。
1本めはまっすぐと言うか、水平なのに。 |
田中 |
両方とも水平にしちゃうと、
引いていくうちに、紙の外側へ外れちゃうんです。 |
ほぼ日 |
へぇ、そうなんですか。 |
田中 |
角度にしてほんの5度くらいなんですが、
2本めに傾斜をつけることで、
引いたときに、
紙の内側へむかう力がはたらくんです。 |
ほぼ日 |
あ、それで外れにくくなると。 |
田中 |
発売直前まで真っすぐだったんです。 |
ほぼ日 |
え、ギリギリで気づいたんですか? |
田中 |
企画の担当の社員が、
いろんな商品紹介の場面で
デモンストレーションしながら
説明するんですけど、
どうも、うまくいかないことが多くて。 |
ほぼ日 |
危なかったですねぇ。 |
田中 |
で、何とかしなければと思って、
企画・開発メンバー共同で考えてくれて、
2本めのローラーを、ちょっとだけ傾けてみたら
飛躍的にうまくいくようになったんです。 |
ほぼ日 |
はー、その発見は、すごいですね‥‥。 |
田中 |
そのあたりが、文具の開発の楽しさなんですよ。 |
ほぼ日 |
あ、聞きたいです、聞きたいです。 |
田中 |
いや、決してハイテクを使ってるわけじゃなく、
小さなアイデアなんだけど、
それを足すだけで、すごく良くなることがある。
|
ほぼ日 |
なるほど。文具の売り場が楽しかったり、
文具の話をしてると盛り上がるのは、
些細なんだけど「なるほど〜」という工夫が
小さなモノのなかに
いっぱい詰まってるからかもしれませんね。 |
田中 |
まあ、僕らは職業柄、
何かを見たら、つねに何かは思うんですよ。
これ、ちょっと堅いな、とか、
もう少し、小さくできるかもな、とか
もっと楽にできればいいのに、とか‥‥。 |
ほぼ日 |
ちょっとした違和感に、敏感なんでしょうね。
へー‥‥じゃあ逆に、
これ以上ないなっていう文具は、ありますか? |
田中 |
これ以上ない‥‥。 |
ほぼ日 |
進化しきってるというか。 |
田中 |
あんまりそういう視点で見てないんで。 |
ほぼ日 |
世のなかにあるものを
つねに「もっとよくなるはずだ」と思って見てる? |
田中 |
そうですね。 |
ほぼ日 |
何かしら、あるだろうと。 |
田中 |
何かないと困ると思ってるくらいですので。 |
ほぼ日 |
なるほど‥‥それじゃあ最後に、
田中さんの「ものづくり」の信条といいますか、
大切にしていることがあったら、
ちょっとでも、教えていただきたいのですが。 |
田中 |
それは、いちばん初めにお話したことですね。
つまり、なんにしても「商品」って、
一生懸命に説明すると
いろいろと分かってもらえるんですけど、
多くの場合そんな機会はなくて、
商品は商品だけで、店頭に並んでしまう。 |
ほぼ日 |
説明なしに。 |
田中 |
だからこそ、説明や広告なんかなくても、
お客さまがパッと見ただけで「それがなんなのか」を
きちっと伝えられるような商品を作りたい。
そこに、こだわっていきたいと思っています。 |
ほぼ日 |
ほー‥‥。 |
田中 |
その商品が棚に並んでいるだけで、
その商品みずから、
自分のことを、説明してくれるような商品。
そういうものを、作っていかなきゃなと。 |
ほぼ日 |
糸井重里がずっと言ってることと似てますね。 |
田中 |
ほんとですか。 |
ほぼ日 |
はい。糸井の表現を借りると、
商品に広告を練り込むんだってずっと言っていて。
広告する必要もないような商品ができたら、
それが理想の商品じゃないか、というような意味で。 |
田中 |
あー、なるほど。たしかに、そうですよね!
たまーに、店頭の調査に行くんですけど、
僕の商品を
手にとってくれてるお客さまが、
棚に戻しちゃう場面に出くわしたりするとね、
「ちゃんと伝わったのかなぁ」
なーんて、考え込んじゃうんですよ(笑)。
|
ほぼ日 |
でしょうね。 |
田中 |
伝わって戻されたのなら、まだいいんですけど。
そもそも伝わってなかったら、悔しいですから。 |
ほぼ日 |
いや‥‥今日は、ありがとうございました。
すごく、おもしろかったです。 |
田中 |
こちらこそ、ありがとうございました。 |
ほぼ日 |
次は、どのあたりを狙ってるんですか? |
田中 |
そうですね、僕いま粘着系に凝ってるんで‥‥。 |
ほぼ日 |
粘着系に凝ってる。 |
田中 |
ええ、
さっきのテープのりとかのことですけどね。
やっぱりそのあたりで
新商品を開発したいなあと思っています。
希望としては、海外でも売れるような。 |
ほぼ日 |
海外に進出ですか! |
田中 |
いや、そんな大それたことじゃないですけど、
さっき話に出た「直感的にわかる便利さ」って
言葉が通じなくても、
じゅうぶんに通用する感覚だと思うんですよ。
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ほぼ日 |
なるほど、なるほど。 |
田中 |
それにね、海外の人って、
何でもホッチキスで止めることが多いんです、
見てると。 |
ほぼ日 |
そうなんですか? |
田中 |
えー、そんなちっちゃい紙切れまで?
なんて思うくらい、何でも。 |
ほぼ日 |
へぇー。ホッチキスで。 |
田中 |
それにとって代わるような、なにかを。 |
ほぼ日 |
なにかを。 |
田中 |
粘着系で。 |
ほぼ日 |
粘着系で(笑)。楽しみにしてます! |
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<終わります>
※コクヨさんのお話をうかがった連載は、
今日で終了いたします。
ご愛読、ありがとうございました! |