第4回 30年以上、売れ続けている理由。


定番の「Campus」ノートの開発を担当されている
村上智子さんのお話は、今日で最終回です。
誕生から34年間、売れ続けてる理由がなんなのか、
開発者としてのご意見を、訊いてみました。
研究や分析を惜しまない会社の出した答えとは‥‥?
ほぼ日 この「Campus」シリーズって、
世のなかのノートのなかでも「定番」として
定着していると思うのですが‥‥。
村上 ええ、そう認知していただけるのは、
とてもうれしいことです。
ほぼ日 昨年、「ほぼ日」でやった「社会人アンケート」の
「製品・サービスに好感が持てる企業」ランキングで
コクヨさんは第3位だったんですけど、
その原動力のひとつは「Campus」だと思うんです。
村上 そうかもしれませんね。
ほぼ日 もう30年以上、
こうして売れ続けてる理由が何なのかについて、
開発側のみなさんは
どのように、分析されてるんでしょうか?
村上 うーん、じつは‥‥よくわからないんです。
ほぼ日 え、わからない‥‥んですか?
村上 もちろん、理由を挙げようとすれば、
いくつかは挙げられるんですけどね。
ほぼ日 たとえば‥‥。
村上 まず、日本全国どこでも売っているということ。


ほぼ日 なるほど。買えないということが、ない。
村上 お近くの本屋さん、文房具屋さん、
コンビニなどにいけば、
かならず、置いてあると思います。
ほぼ日 ノートって、同じものでそろえたい気がするし、
「探すのに苦労しない」っていうのは、
「また次も買う」ことの動機になりそうですね。
村上 でも、どこにでも売ってるノートって、
きっと他にもある
と思うんですよ。
ほぼ日 ああー‥‥それは、そうか。そうですよね。
「Campus」ほど
ブランドとして有名じゃなかったとしても。
村上 だから、その‥‥これを言ってしまったら
当たり前すぎて
おもしろみのない答えかもしれませんが、
「Campus」の場合は
専用紙をオリジナルで作っているんですね。

つまり、品質がいいとは、確実に言えます。
ほぼ日 なるほど。
村上 使っていた紙が手に入れづらくなったり、
ちょっと仕様が変わったり、
生産中止になっちゃったりしませんので、
一定レベルの品質のノートを
安定して、出すことができているんです。

ささいなことかもしれませんが、
そうした点は、ひとつの強みかもしれません。
ほぼ日 どこでも売ってて、品質が変わらない。
村上 ええ。
ほぼ日 オリジナルの紙を作ってるということは、
つまり、「書きごこち」を
追求されてるわけですよね、主に。
村上 はい、ザラザラした紙のほうが好みだとか、
つるつるしているのが書きやすいだとか、
個人差はあるんですけども、
たとえば
ザラザラならザラザラで、
心地いいザラザラはどのへんか
などを
サンプルをとって、地道に算出してるんです。
ほぼ日 はー‥‥。ザラザラの算出。
村上 或いは、各メーカーさんのペンで試してみて、
書きごこちを調整したり、
「裏うつり」しないかどうかを検証したり、
紙の開発については、
もう、ありとあらゆる取り組みをしています。


ほぼ日 はー‥‥「書きごこち」って、
実際は微妙な差なのかもしれないですけど、
そこが「次も選ぶかどうか」の
大きな分かれ目になってる‥‥んでしょうね。

そこまで、徹底的に研究しているんなら。
村上 いま出ている「Campus」に
「MIO PAPER(ミオペーパー)」という
高級なシリーズがあるんですが、
これを開発しているとき、
スタッフが、
「いつまでも書いてたいー!」って(笑)。
ほぼ日 サラサラで?
村上 「受験生時代にこのノートがあったら
 もっと勉強したのにー!」と。
ほぼ日 やっぱりノートしだいで「変わる」ことって、
いろいろと、あるんでしょうね。
村上 たぶん「勉強」は、その中のひとつだと思います。
ほぼ日 あの、あらためてなんですけど、
「Campus」 という、ちゃんとした‥‥といいますか、
固有名が付いてたことも、やっぱり重要ですよね。

たんなる「NOTEBOOK」じゃなくて。
村上 そうそう、かなり流通しているノートでも
表紙に「NOTEBOOK」としか書いてないものが
じつは、けっこうありますからね。
ほぼ日 いまさらですが、何で「Campus」と?
村上 1代めの「Campus」が誕生する前ですから
1970年代初頭でしょうか、
コクヨから出していたノートで、
当時の学生たちに、
大きな支持を得たノートが、あったんです。

世界の学府シリーズというんですが。


意匠っぽいデザインの世界の学府シリーズ。
表紙には「CAMPUS」の文字も。
ほぼ日 ほう。
村上 UCLAなど、世界の有名大学のキャンパス風景を
表紙の写真に使ったりして、
おもに、受験生に支持されていたらしいんです。

で、このノートがヒットしたおかげで、
シリーズとしての「Campus」が、生まれたんですよ。
ほぼ日 なるほど、その「大学のキャンパス風景」から
「Campus」につながっていくんですね。

でも、「Campus」が生まれる前までの
世のなかのノートのデザインって‥‥。
村上 たぶん、無地だったり、
地味な布地の柄を複写したシンプルなものか、
あるいは「世界の学府」みたいな、
意匠っぽいものが多かったと思います。
ほぼ日 ということは、ノートの「見ため」の分野も
「Campus」の登場から
けっこう、変わってきているんですかね?
村上 もしかすると、そうかもしれません。
ほぼ日 ははぁ‥‥なるほど、なるほど。

でも、売れてる理由が
ほんとにはわからないって、すごいなぁ。

そこが解明されて言語化されちゃうと、
公式になっちゃって
結局ダメになっちゃうのかも‥‥とか?
村上 わからないながら、わかりたいと思って
試行錯誤をくりかえしてきたのが
結果として、よかったのかもしれません。
ほぼ日 その積み重ねで、20億冊ですか。
村上 ええ、大阪・バンクーバー間です(笑)。


ほぼ日 今後も、試行錯誤を?
村上 はい、もちろんです。
ほぼ日 おお、それは楽しみです!
村上 ‥‥ちなみにみなさん、ノートを使うときって、
ここの、いちばん最初のページから書きます?
ほぼ日 え? はあ‥‥たぶん。
ていうか‥‥書かないんですか、みんな?
村上 書かない。
ほぼ日 リサーチの結果?
村上 ええ、「はじめの1枚をめくった右ページ」から、
つまり「3ページめ」から書く人が多いんです。


ほぼ日 へぇー、それは、なんでだろう?

気持ちはわかる‥‥ような気もしますが。
村上 理由はよくわかんないんですけどね。
ほぼ日 お話を聞いていると、ノートって奥深いというか、
いろいろナゾが多いんですね(笑)。
村上 うん、ですから、おもしろいんです。
ノートって。
  <つづきます>
※村上智子さんにおうかがいした「Campus」ノートのお話は
 今回で終了いたします。
 次回からは、コクヨの文具を開発し続ける名物社員、
 田中茂一さんに、ご登場いただきます。

 ひきつづき、どうぞ、お楽しみに!
2009-05-12-TUE
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