ほぼ日 |
田中さんは、コクヨで、これまでいろんな商品を
開発されてきた、
たいへんおもしろい方だと、お伺いしてきました。 |
田中 |
あの‥‥自分がおもしろいかどうかは
わからないのですが、
商品は、いろいろとつくっております(笑)。
|
ほぼ日 |
文房具ひとすじですか? |
田中 |
いや、入社から7年間は
オフィス家具の開発をやっていたんですよ。
で、8年目から文具の開発に。 |
ほぼ日 |
それからは、ずっと文具で? |
田中 |
ええ、それからはずっと文具で。 |
ほぼ日 |
あの、僕、ちょっと話がズレますけど、
くるくるメカを使ってたんです。 |
田中 |
ああ、はい。子ども向け学習デスクの。
|
ほぼ日 |
小学校に上がるまえに買ってもらったんですが、
思えば、そのときから
コクヨさんにはお世話になっていたんだなあと。 |
田中 |
あれは、テレビコマーシャルもよくて。 |
ほぼ日 |
ええ、ええ、横山やすしさんが
正味のはなし、コクヨ!
くるくるメカは、コクヨ!
‥‥みたいなセリフを
おっしゃっていた記憶があります。 |
田中 |
その他にも、武田鉄矢さんバージョンとか、
桂文珍さんバージョンとかもありましたね。 |
ほぼ日 |
ありました、ありました! |
田中 |
当時、かなり人気だったみたいですよね。 |
ほぼ日 |
いま、You Tube でも見れるんですよ!
「くるくるメカ」と検索したら‥‥。 |
田中 |
‥‥はぁ、あの、ぼくが就職活動したときにも
「なんだか親しみのある会社やな」と思って
志望した覚えがあるんですけど、
あの「くるくるメカ」のCMは、大きかったと思います。
コクヨの、そういうイメージをつくるのに。 |
ほぼ日 |
そうですか、ははぁ、なるほど! |
田中 |
で、そろそろ、僕のつくった文具の話を
させていただきますけれども。 |
ほぼ日 |
あ、すみません「くるくるメカ」に夢中で(笑)。 |
田中 |
えーと、僕が開発した文具のなかで
わりと取材していただくことが多いのは、この画びょう。
「プニョプニョピン」というんですが。
安全に抜き差しできる画びょう・プニョプニョピン。 |
ほぼ日 |
ああー、知ってます、知ってます!
プニョプニョピンっていうんですか、これ。 |
田中 |
ゴム製のリングでカバーされていて、針が露出しておらず、
床に落ちたときなどにも、
とがっている針先が、上を向くことはありません。
|
ほぼ日 |
つまり、安全な画びょうだということですね。 |
田中 |
カベに差したときには、このような状態。
|
ほぼ日 |
あ、この姿も、見たことあります。 |
田中 |
ごらんのようにリング部分がつぶれますので、
引き抜くときにも、つまみやすいようになるんです。 |
ほぼ日 |
なるほど‥‥安全なだけでなく、便利でもあると。
なぜ、こういう画びょうを開発しようと? |
田中 |
画びょうって、みなさん、子どものころから
何となくのイメージをお持ちだと思うんです。 |
ほぼ日 |
針に触ったら痛いとか、刺さっちゃったとか。 |
田中 |
そう。そういう、危なっかしいイメージを
改善したいなと思って、とりくみ始めたんです。 |
ほぼ日 |
ユニバーサルデザインでもあるんですよね。 |
田中 |
コンセプトは
刺したいときだけ針が出ればいい画びょう。
ま、最初のうちは、
針が露出してなければいいんじゃないかと
単純に考えて、
いろんなカタチを考えたんですが‥‥。 |
ほぼ日 |
はー‥‥。このスケッチが
そのときのアイデアですか?
|
田中 |
ええ、これは、針がくるんと回転するアイディア。 |
ほぼ日 |
針が、中にしまえるんですね。 |
田中 |
刺すときは、まず針先をカベに引っかけて、
くるっとまわして針を出し、ぐっと押し込む。
で、抜くときも、
テコの原理が効きますから、簡単に抜ける。 |
ほぼ日 |
これは、商品化は‥‥? |
田中 |
しませんでした。 |
ほぼ日 |
ははあ。こっちの丸形のは、別案ですか?
|
田中 |
そう、これは2本針のタイプですね。
カベに押し付けながら画びょうじたいをまわすと、
二股の針が出てきて、刺さるんです。
で、抜くときは、反対にまわせば、針が引っ込む。 |
ほぼ日 |
つまり、カベに刺さってないときは
針が引っ込んでいる状態、ということですね。
なるほど。これも商品化は‥‥? |
田中 |
しませんでした。 |
ほぼ日 |
あの、そういう試行錯誤のなかから生まれたのが
さっきの「プニョプニョピン」なわけですけど‥‥。 |
田中 |
そうです。 |
ほぼ日 |
これら商品化されなかったアイディアとは、
どこが、ちがったんでしょうか。 |
田中 |
まず「画びょう」だっていうことが
直感的に、わからないですよね。
その、ボツになった2案の場合には。 |
ほぼ日 |
ああ、たしかに!
でも、わからないと‥‥何がダメですか。 |
田中 |
まず売れないでしょうね。 |
ほぼ日 |
あ、そうか。 |
田中 |
それに、危ないと思うんですよ。
いくら針が隠れているからとはいえ、
画びょうであることが、直感的にわからないと。
|
ほぼ日 |
ああー‥‥危ないからといって
針を見えなくしちゃったら、逆に危ないんだ。 |
田中 |
みなさん、画びょうのかたちって
「だいたい、こんなもんだ」というイメージを
持っていますでしょう。 |
ほぼ日 |
ええ、もう1種類しか知らないですよね。 |
田中 |
それを、極端にちがったかたちにしてしまうと
これは針でカベに留めるものだし、
刺さって危ないものだと、警戒できませんよね。 |
ほぼ日 |
つまり‥‥テコの原理で抜きやすいとか、
機能的に優れていても、
見ためから、本来の「刺す」という機能が
イメージできないと‥‥ダメだと。
売れ行きとしても、製品としても。 |
田中 |
その点「プニョプニョピン」のアイディアは
「何をする道具か」が、すぐにわかる。 |
ほぼ日 |
たしかに、そうです。 |
田中 |
画びょうであるという「見ため」はそのままで、
ゴム製のカバーをつけ、安全性を高めました。 |
ほぼ日 |
さらに「抜きやすい」という便利さも
プラスして。 |
田中 |
僕、大学が機械系の出身だったんで、
個人的には、
ボツ案のほうが、好きなんですよ。
堅くて、角張ってて、ギミックがあって。 |
ほぼ日 |
へぇー‥‥。 |
田中 |
逆に、採用案みたいにフニャフニャしたものは
あんまり信用できないというかね。 |
ほぼ日 |
ええ、なるほど。おもしろいですねぇ(笑)。 |
田中 |
でも、スケッチの段階では、
ボツ案がいいって言ってくれる人もいたんですが、
実際、サンプルを作ってみると
圧倒的に「プニョプニョピン」のほうが
評価が高かったんです。 |
ほぼ日 |
はぁ。 |
田中 |
モノになったときの説得力がちがいました。
|
ほぼ日 |
なるほど。 |
田中 |
その「プニョプニョピン」という名前もね、
積極的な理由があって、つけているんです。 |
ほぼ日 |
プニョプニョしてるから‥‥じゃないんですか? |
田中 |
いや‥‥プニョプニョしてるからなんですが、
そのプニョプニョしてるんだということを、
あらかじめ、
わかってもらいたかったから、つけたんです。 |
ほぼ日 |
なるほど、それも、さっきのお話と同じですね。
従来の画びょうのイメージって
ぜんぜんプニョプニョしていない‥‥というか、
まったく、その逆ですもんね。 |
田中 |
お店で売ってるときには
プラスチックのケースに入っていますから、
まさか、こんなにプニョプニョしてるとは
思わないかもしれない。 |
ほぼ日 |
だから「プニョプニョ」を、名前につけたと。 |
田中 |
ええ、それまでのコクヨ製品は、
わりと質実剛健なネーミングが多かったんですが、
あえて「プニョプニョ」と。 |
ほぼ日 |
そうですか、あえて「プニョプニョ」と。
ははー‥‥さっきから、お互いに
プニョプニョ、プニョプニョと(笑)。 |
田中 |
あはははは、そうですねぇ。プニョプニョと(笑)。 |
|
<つづきます> |