あの会社のお仕事。TOTO株式会社 篇

外国の人に褒められてうれしいものに、
日本のトイレがあると思います。
きれいで、快適で、デザインもよくて、
勝手に水まで流れたりして。
今や「くつろぎの空間」ですよね。
でも、そこって、ほんの何十年か前までは、
「暗い・汚い・寒い」の代名詞だった場所。
日本のトイレは、いつからこうなった?
このおもてなし感覚、日本独自なの?
仲畑貴志さんの名コピー
「おしりだって、洗ってほしい。」で有名な
「ウォシュレット」をはじめ、
さまざまなイノベーションを起こしてきた
TOTO株式会社の麻生泰一常務に、
トイレのお話、いろいろうかがってきました。
土を焼いてつくる便器が、
職人さんの手先で仕上げられていくところも、
うわあ、すごいなあって思います。
全部で5回、担当は「ほぼ日」奥野です。

>麻生泰一さんのプロフィール

第2回 利益は実体ではない、影だ。
──
まったく売れない「腰掛け便器」を
40年もつくり続けたのは、
創業の理念が
「日本人の住空間を清潔で快適にしたい」
だったからということですが‥‥。
麻生
ええ。
──
でも、それだけで続くものでしょうか。
だって「40年」って。
麻生
それはおそらく、初代・大倉和親の思いが、
TOTOという会社の隅々にまで、
大切な言葉として、
しっかりと染み込んでいるからでしょうね。
──
それは具体的には、どのような?
麻生
ひとつには、こういう言葉があります。

「どうしても親切が第一」
──
親切。
初代社長から2代目社長に送られた書簡に「親切が第一」の言葉が。
麻生
あるいは、このような一節もあります。

「良品の供給、
 需要家の満足が掴(つか)むべき実体です」
「此(こ)の実体を握り得れば、
 利益・報酬として影が映ります」
──
つまり「親切」や「満足」が肝要であって、
そこをつかめば利益もついてくる、と。
麻生
そうです。ついてくる。なぜなら影だから。

「良品の供給、需要家の満足」が「実体」。
「利益」はあくまで、その「影」なんです。
──
なるほど。
麻生
そして、初代の言葉は、このあとに、
「利益という影を追う人が
 世の中には多いもので、
 一生実体を捕らえずして終わります」
と、続いていきます。
──
事業を発展させていく上で重要なことは、
決して利益を追うことではなく、
よい品をつくることを通じて
お客さまの信用を得ることである‥‥と。
麻生
それこそ事業の実体であると言ってます。

わたしたちの会社では、100年も前から、
「良品の供給、需要家の満足」を
全員が守るべき基本理念にしてるんです。
──
親切、良品、満足、信用。
麻生
わたしたちの原点です。
──
そのような考えが100年前からあったから、
赤字のまま、
40年も、腰掛け便器をつくり続けられた。
麻生
もちろん、ボランティアの気持ちではなく、
そうすることを通じて、
日本の社会に必要とされる会社になること。

そうすることで、
社会とともに発展していきたいというのが、
TOTOの基本的な考えです。
──
利益は目的でなく手段であるということや、
顧客の信用・満足というお話は、
もちろん「なるほどなあ」と思いましたが、
とりわけ
「親切」という言葉に感じ入りました。

だって、トイレには親切でいてほしいので。
麻生
おしりにとってね。そうでしょう。
──
こうした考えは、現在も変わらず、
社員のみなさんに共有されているんですか。
麻生
はい。この考えを受けた「社是」があり、
それが
「愛業至誠、
 良品と均質、奉仕と信用、協力と発展」
なんです。
──
「奉仕と信用、良品」あたりは
これまでのお話に出てきたと思うのですが、
「均質」というのは‥‥。
麻生
仮に、1000個の便器をつくって、
不良が1個、出たとしたら
その割合は「0.1%」にすぎませんけれども、
その不良品を買った人にとっては、
「TOTOのトイレは、不良率100%だ」
ということになってしまいます。
──
たしかに、そうですね。
麻生
ですから、わたしたちは、徹底的に
「良品」「均質」であることを目指すんです。

そのために、製品を「全数検査」して
不良品を世に出さないようにしているんです。
──
え、ぜんぶ検査してるんですか。すごい。
麻生
それに、陶器というものは、
大雑把に言ったら土を焼いてつくるんです。
──
はい。
麻生
で、焼くと「13%」も縮こまるんですわ。
──
13%?
麻生
便器には便座や「ウォシュレット(※)」
をはじめ、陶器以外の、
プラスチックでできた部品もありますね。

それらの部品とちゃんと噛み合うように、
陶器側の出来上がりの寸法を、
コントロールしなければならないんです。
──
つまり、焼いたら13%縮むということは、
焼く前の段階では、
あらかじめ「13%大きく」つくっている?
麻生
そう、ぼくら冗談で
大リーグボール1号と言っとりますけど、
つまりね、
バッターがどうスイングするか予測して、
ボール投げとるんです。
──
この場合、バッターが便器‥‥ですね。
麻生
そう、13%ちゅうても、
便器は立体だから3乗で効いてくるわけで、
焼く前と後とじゃ、
カタチが、ぜーんぜん違ってくるんですよ。

この形状だと、
どこがどれくらいどんなふうに縮むのか、
バッター(=便器)の動きを見ながら、
細かく調整してボール投げとるんですわ。
──
臨機応変に。へぇー‥‥。
麻生
男性用の小便器、見ました?
──
拝見しました。焼く前の小便器は、
見慣れたものより二回りくらい大きくて、
大リーガー向けかなと思ったほど。
左端が乾燥前のサイズ、中央が乾燥後のサイズ、
右端が焼いたあとの完成品サイズ。
麻生
しかもね、焼く前の小便器って、
お辞儀したようなかっこうしてたでしょ。

というのも、あのカタチのものを焼くと、
グーッと後ろに反っていくんですわ。
部分ごとに、収縮率が微妙に違うんです。
──
つまり、背筋が伸びることを見越して、
最初は「お辞儀」の姿で成形していると。

そういったノウハウのひとつひとつって、
TOTOさん100年の歴史で、
試行錯誤を繰り返してきた結果ですよね。
麻生
そう、まさしくそのとおりで、そのために、
トイレの世界には、
大きな資本がなかなか入ってこないんです。

言葉にしきれないノウハウは必要、
手づくりの工程が多いので熟練工は要るし、
工場に設備投資はかかる‥‥
ひとことで言って「面倒くさい」んですわ。
──
はい、いろいろ大変そうです。
麻生
職人の手業と焼き窯でつくってますから、
歩留まりだって、いいわけじゃない。

うちは、業界ではトップなんですけどね、
それにしたって、衛生陶器というのは、
電池みたいに「良品率99.999」
みたいな商品とは比べものにならないし。
──
金型でポンポンできるようなものでは、
ないってことですね。
麻生
海外に新しい工場を建てたとしてもね、
金ばっかりかかって、
きちんとしたもうけが出てくるのが、
5年や10年先なんてザラ。

だから、衛生陶器の業界って、
どこの会社も長い歴史を持ってるんです。
──
どこ‥‥というと、
たとえば、LIXIL(リクシル)さんとか?
麻生
うちが創立100年ですが、
かつてのINAXさん、今のLIXILさんでも、
会社の歴史が130年、
衛生陶器をつくりはじめてからは、
70年あまりの歴史があると思います。
──
長いです。
麻生
世界はもっと長いです。

アメリカのコーラー(KOHLER)と
アメリカンスタンダード(American Standard)、
スペインの多国籍企業ロカ(Roca)、
それに、われわれTOTOが、
衛生陶器では世界4強だと言われてますが。
──
ええ。
麻生
ロカは100年、
コーラーとアメスタが140年ぐらいかな、
ドイツの
ビレロイ&ボッホ(Villeroy & Boch)という
老舗メーカーなんか、260年とかですよ。

9代将軍徳川家重の時代からやってるんです。
──
一朝一夕には、つくれないんですね。
おトイレというのは。
麻生
ちょっと自慢がすぎましたか。
──
いえいえ、
ご自慢を聞きにきたので、大丈夫です(笑)。
<続きます>
※「ウォシュレット」はTOTO株式会社の登録商標です。
2017-12-01-FRI