「聞く、ほぼ日。」は、ほぼ日が取り組む
オーディオコンテンツのプロジェクトです。
その第一弾としてリリースされるのが、
『ボールのようなことば。』のオーディオブック。
製作を手掛けてくださった
オトバンクの代表を務める久保田裕也さんに、
「耳で聞くコンテンツ」についてうかがいました。
まだ聞いたことがないという人にとっては、
最適の「オーディオコンテンツ入門」になるはず!
- ──
- 「audiobook.jp」は、
日本のオーディオブック黎明期から
運営されていたとのことですが、
どういうきっかけでスタートしたんですか?
- 久保田
- そもそも、うちの会社はオーディオブックを
商売にしようとしていたわけじゃないんですよ。
当初は、視覚障害の方やご高齢の方向けに
朗読をするNPOとしてはじめようかと考えてたんです。
だから会社にするという話もなかったんですが、
朗読するにあたっていろいろ調べたら、
当然なんですが、読むにも権利が発生して、
なんでも自由に使っていいわけではない
ということがわかったんです。
であれば、ちゃんと「朗読した音源」を
商品として成立させた方が、必要な方々に、
より広くサービスを提供できると考えました。
- ──
- スタートのときから
いまのような制作体制だったのでしょうか。
- 久保田
- いいえ、サービス開始時は
自分たちで作った音源はほとんどなくて、
権利元に
「御社のCD音源を
インターネットで売らせてください!」
とひとつひとつお願いして
なんとか1000タイトルぐらいかき集めたんです。
最初は落語とか英語講座なんかの音源ですね。
- ──
- かなり手探りだったんですね。
- 久保田
- そうですね。やっぱり前例がなくて、
どれくらい売れるかもわかりませんから、
出版社さんに営業に行っても
「他にどこがやってるの?」って聞かれて
「いや、まだどこも」と答えたら
「じゃあ、どこかから出たらまたおいで」
と言われるみたいな。
そういうこともあって、これはもう
既存の音源だけじゃダメだろうということになり、
自前の録音スタジオと制作チームをつくって、
オーディオブックを自分たちで
つくれるように整えていったんです。
- ──
- いま、年間で何冊ぐらいを
オーディオ化してるんですか?
- 久保田
- 年間で1500本は出していますね。
- ──
- 1年に1500本! すごい‥‥。
オーディオブックを聞いている人は、
どんな人が多いんでしょうか?
- 久保田
- まず、多いのは中高年の方ですね。
もともと本がすごく好きなんだけども、
もう目が疲れちゃって読めない、
というのが主な理由です。
身体的な都合で、本を読むのがしんどくなって、
かわりにオーディオブックを聞くという。
あとは、本を読む時間がない人です。
たとえば、仕事が忙しい人や、子育てをしていて、
目は子どもから離せないけど、耳はあいてる人。
その時間に何か聞きたいなというときに、
ラジオや音楽はもちろんですけど、
オーディオブックが選択肢に入ってくるんです。
- ──
- なるほど、オーディオブックは
なにかを「しながら」聞けるから。
- 久保田
- 家事がたいへんな人でも聞けますし、
あとは、犬の散歩や、ランニングしているときとか、
「何かしてる時でも耳はあいている」
というシチュエーションと
音声コンテンツは相性がいいんです。
- ──
- ということは、
ふだんあまり本を買って読まないような人が、
あいた時間を利用して聞いているという感じ。
- 久保田
- ただ、紙の本をたくさん買う人にも
オーディオブックって聞かれているんですよ。
- ──
- あー、そうなんですか。
- 久保田
- ぼくも紙の本がすごく好きなんですけど、
買うだけ買って、
積んだままになってしまう本がたくさんあるんです。
そういうことありませんか?
- ──
- もう、めちゃくちゃあります(笑)。
- 久保田
- そうですよね(笑)。
「いつか読もう」と思うんだけど、なかなか。
そういうとき、オーディオブックだと
意外と聞けちゃうんですよ。
オーディオブックって、
受け身でいれるぶん、ラクなんですよね。
- ──
- つまり、再生ボタンを押しちゃえば、
あとは勝手に音声が流れてくるから。
- 久保田
- そうです。
本とオーディオブックの決定的な違いは、
ユーザー側の姿勢が能動的か受動的か、
ということだと思うんです。
紙にしても電子書籍にしても、
能動的に読むしかないんですよね。
自動でページをめくってはくれないですし。
- ──
- はい、はい、たしかに。
- 久保田
- 本は、自分のペースで読めるのは利点なんですけど、
あくまで、能動的に読もうとするから読めるんです。
オーディオはずっと受け身でいればいいので、
そのぶん、気がラクだと思うんです。
- ──
- 「受け身がラク」っていうのは、すごくわかります。
だって「忙しい!」とか言いながら、
受け身で体験できるテレビや動画なら
平気で2時間ぐらい見ちゃったりしますからね。
- 久保田
- はい(笑)。ですから、
ボーっとしながら何かを聞き流したいようなとき、
オーディオブックはちょうどいいんですよ。
「あ、いまいいこと言ってたな」と思ったら、
その部分だけ聞き直せばいいですし。
- ──
- オーディオブックのユーザーが
増えている理由がわかってきました。
音声コンテンツに触れたことがない人にとって、
オーディオブックはどうしても
敷居が高いだろうなと思っていたのですが、
きっかけさえあれば、という感じですね。
- 久保田
- まずは、真剣に内容をすべて理解しようとせず、
流しっぱなしにしてなんとなく聞く、
くらいの気持ちで接してみればいいと思います。
はじめてのオーディオブックで
本の内容をすべて理解するなんて、
筋トレしたことない人に
「ゴールドジムでマシン何十回!」
と言うのと、同じだと思うんですよ。
- ──
- ああー(笑)。
- 久保田
- とりあえず最初に一度、
再生ボタンを押してしまえば、
「聞き流す」ということは、
想像よりもはるかに簡単にできるはずです。
(つづきます)
2022-04-20-WED
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