「聞く、ほぼ日。」は、ほぼ日が取り組む
オーディオコンテンツのプロジェクトです。
その第一弾としてリリースされるのが、
『ボールのようなことば。』のオーディオブック。
製作を手掛けてくださった
オトバンクの代表を務める久保田裕也さんに、
「耳で聞くコンテンツ」についてうかがいました。
まだ聞いたことがないという人にとっては、
最適の「オーディオコンテンツ入門」になるはず!
- ──
- 「聞く、ほぼ日。」をつくっていて
はじめて気づくことがたくさんありました。
たとえば、文章を書いている側って、
自分で書いた漢字の「読み」を
厳密には決めていなかったりするんですよね。
- 久保田
- はいはい、
オーディオブックをつくってるとよくありますね。
「身体」と書いて、
「しんたい」と読むのか「からだ」と読むのか、
書くときは厳密には決めてなかったり。
- ──
- はい。あらためて発音するとなると、
「あれ? どっちだっけ?」って。
- 久保田
- そういうとき、作家さんに確認すると、
だいたい「どっちでもいいです」って言うんですよ。
- ──
- 「どっちでもいい」(笑)。
でも、オーディオブックにするときには、
読み方を決めないといけないわけですよね。
- 久保田
- そうなんですよ。
「作家さんも出版社さんも
どっちでもいいって言ってるんだから、
どっちでもいいんじゃない?」
と思っちゃうんですけど、制作チームは
「いや、ぼくらが決めるわけにはいかない」
って言うんですよ。
- ──
- ああ、なるほどー。
でもそれ、どうするんですか?
- 久保田
- 場合によりますけど、
正しい読み方の根拠を探して
詳しい専門家に取材することもありますし、
小説であればモチーフになっている場所に
実際に行って調査したり。
- ──
- はああ、そこまでするんですか。
- 久保田
- あるときは、調べてるうちに古文書に行き着いて
「この読み方が正しいみたいだぞ!」って。
作家さんも出版社の人も
「え、そこまでやったの?」
ってあきれ返るみたいな(笑)。
- ──
- すごい(笑)。
- 久保田
- 「ことばに対して中途半端なことはできない」
という気持ちで、みんなつくっていると思います。
- ──
- 言葉に対してももちろんですけど、
ごいっしょしていて「音」に関しても
ものすごく丁寧だなと思ったんですよ。
- 久保田
- 「聞きやすい音にする」というのは
オーディオブックをつくるうえで、
いちばん大事なことだと思っています。
- ──
- 「聞きやすい音」というのは、
たとえば「いい声」とは違うんですか?
- 久保田
- 声がいい人ってたくさんいるんですけど、
その人が吹き込んだものなら、
なんでも快適に聞けるかっていうと、
そんなことはぜんぜんないんです。
最初にお話しした、
「書いた本人が読むと窮屈に感じる」のと同じで、
ただ文字を追いかけて読んでいる人の声は、
やっぱり聞きにくいです。
- ──
- ふむふむ。
- 久保田
- ラジオを聞いていても、
その人が心から話しているときと、
渡された原稿を読んでいるときって、
なんとなくわかるじゃないですか。
- ──
- わかる気がします。
- 久保田
- 本の中身をよく理解した状態で読むのと、
初見の原稿をただ読むのとでは、
やはり状況が違いますし、場合によっては
声の「波形」が違うということもわかったんですよ。
- ──
- へぇー、おもしろいですね。
- 久保田
- ですから、作品ごとに内容と読み手の個性を考えて、
「このジャンルは、あのナレーターさんが得意だよね」
というふうに、読み手を選ぶようにしていますね。
- ──
- 声が合うかどうかだけではなく、
テーマや内容をしっかりと
理解してくれるかどうかも気にしながら。
- 久保田
- ぼくらはそういうやり方をしています。
少し前に、投資家の瀧本哲史さんの本、
『2020年6月30日にまたここで会おう』を
オーディオ化したんです。
- ──
- はい、瀧本哲史さんが亡くなる前の
講義を収録した本ですよね。
「また集まろう」と言っていたのが
叶わなくなってしまったという。
- 久保田
- そうなんです。
急に亡くなってしまって、いろんな人が
「もう一度、瀧本さんに会いたかった」
と言っていたから、
「じゃあ、瀧本さんに会えるようなものにしよう」
というコンセプトで
オーディオブックをつくりはじめました。
瀧本さんのトーンを出せる人はいないか、
200~300人くらいの音源を聞いたんです。
- ──
- ひとつのオーディオブックのために、300人。
それは、コストも時間がかかりますね。
- 久保田
- そうですね。正直、
すごく効率の悪いことをしていると思います(笑)。
でも、「いい作品にしたい」という思いが
どうしてもまさってしまうので、
そこは手を抜けないんですよ。
(つづきます)
2022-04-21-THU
(C) HOBONICHI