第1回最高にアツいパンダ本。
- ──
- 田附さんから
「友人のオザワくんがつくった、
アツいパンダの写真集があるんだけど」
というメールをいただいたとき、
田附さんの言う「友人のオザワくん」が、
にわかには、
「小澤千一朗さん」と結びつかなくて。
- 田附
- あ、そう?
- ──
- はい、編集者の小澤千一朗さんについては、
お名前だけは存じ上げていて、
つまり、かっこよくてストイックな
スケボー雑誌『Sb』を発行し続けている、
気合いの入ったストリート派の編集長‥‥
というイメージだったので。
- 小澤
- いえいえ。
- ──
- 実際、そういう人だと思うんですけど、
なので、なおさら、
「え、オザワさんて‥‥あの小澤さん?
なんで、パンダの写真集を?」
と、最初は非常にいぶかしみました。
- 田附
- そうだよね。
- ──
- 小澤さんの愛くるしいパンダ本か‥‥と、
さっそく拝見したところ、
すぐに「これは、すごい」と思いました。
なぜなら全ページ、
つまり「奥付以外のすべてのページ」に、
パンダが載っていたんです。
- 小澤
- そういう本にしたかったんです。
- ──
- よけいなウンチクとかまったくなくて、
とにかく愛くるしいパンダの写真だけ。
そこで、いっぺんに納得しました。
このストイック感、
ああ、これは『Sb』と同じなんだと。
- 田附
- そう、明らかに小澤くんの本なんだよ。
- ──
- ただ、今回その「素材」が
「なぜパンダだったのか」については
未だに意外なので、
本日は、
そのあたりからお聞かせいただければ。
- 小澤
- それは、パンダが大好きだからです。
- ──
- 話が早い(笑)。
- 田附
- いや、ほら、俺も、
小澤くんがパンダの本つくってるとか、
ぜんぜん知らなくて。
あれは、発売の10日前くらい?
- 小澤
- そう、撮影で一緒になったんですけど、
終わってごはん食べてるときに、
「じつは今度、パンダの本を出すんだ」
っていうか、
「もう10日後に出るんだけど」って。
- 田附
- そう。で「え、何で?」と。
「何でパンダなの?」って。
- ──
- お付き合いの長い田附さんも
小澤さんがパンダが好きだってことを、
ご存じなかったんですか。
- 田附
- 知らない。で、聞いたら、
和歌山県のアドベンチャーワールドに
何年も通いつめて、
パンダの写真を撮りまくっていて、
まったくの匿名で、
インスタにアップし続けてたらしくて、
その時点で、
フォロワーが数万人とかいたんだよ。
- ──
- うわ、すごい。でも、匿名で。
- 小澤
- はい、友だちを全員ブロックして。
- ──
- ブロック‥‥どうしてそこまで(笑)。
- 小澤
- パンダのことは大好きですが、
知り合いに知られるのは照れくさくて。
そこで、名前を登録せずに、
誰が上げてるかわかんないインスタを、
ひたすら、やってたんです。
- 田附
- それ、何年くらいやってたの?
- 小澤
- ええっとね、アドベンチャーワールドに
行きだしたのは、けっこう前なんだけど、
インスタをはじめたのは、2015年の頭?
- ──
- アップしてらっしゃったのは、
アドベンチャーワールドのパンダ、だけ?
- 小澤
- だけです。
- ──
- それは、どうしてですか?
- 小澤
- 僕、どこのパンダであろうが、
わけへだてなく大好きなんですけど、
なかでも、
アドベンチャーワールドのパンダが、
好きなんだと思います。
- ──
- 上野動物園とかにも、いますが‥‥。
先日一般公開されて話題になったり。
- 小澤
- 神戸の市立王子動物園にも1頭、
タンタンという
胴長のかわいいパンダがいます。
- 田附
- それってさ、何か、どっかが違うの?
上野のパンダと神戸のパンダと、
アドベンチャーワールドのパンダと。
- 小澤
- パンダが生きてるってこと自体には、
何にも変わりはないけど、
個人的には、
アドベンチャーワールドのパンダが、
いちばん「自由」な感じがする。
- ──
- 自由。
- 小澤
- もちろん野生のパンダとは違いますし、
実際、中国の山のなかで、
パンダに出会った経験もないですけど、
僕がイメージしているパンダらしさが、
すごくあると思っているんです。
- ──
- アドベンチャーワールドのパンダには。
- 田附
- たしかに俺、上野動物園のパンダしか
見たことないんだけど、
あそこって、ガラス越しに見るじゃん?
だから、
いまいち愛情が持てないって言うかさ。
- 小澤
- 僕は持てるけど‥‥。
- ──
- さすが、わけへだてない(笑)。
- 田附
- いや、俺は、いまいち持てないんだよ。
で、持てない理由は、
たぶん、パンダとの間に、柵があって、
ガラスがあってって‥‥つまりさ、
ちょっとさみしい距離感があるでしょ。
- ──
- だから、いまいち感があると。
- 小澤
- まあ結局、パンダはパンダでしかないし、
パンダ自身には
まったく関係ないことなんだけど、
田附くんの言うように、
上野で物足りなく思っちゃうとしたら、
僕たちは、
あのガラスに信用されてないんだなって、
そう感じる、人間のほうの都合で。
- ──
- なるほど。
- 小澤
- ただ、その点アドベンチャーワールドは、
ガラスの仕切りとかないんですよ。
エサ投げたら当たっちゃうかもしれない。
でも、アドベンチャーワールドの、
彼らのスタイルとしては、
あくまで、見ている人を信じてるんです。
- 田附
- うん。
- 小澤
- 「それ、やっちゃダメ!」じゃなくて、
「それ、やんないでしょ」という姿勢。
そういう雰囲気をアドベンでは感じる。
- ──
- で、そういう方針の動物園、
テーマパークだからこそ、
パンダも自由に見える、と。
- 小澤
- 何ていうんですかね、
パンダの「箱入り娘感」がないんです。
いい意味で「ほったらかし」というか、
「あつかいが雑」‥‥というか。
- 田附
- 俺、この本が信じられると思ったのは、
小澤くんが、
ずっと和歌山に通ってたってことでね。
- ──
- ああ、田附さんご自身も、
もう何年も「東北」に通ってますしね。
- 田附
- だって、ヘタしたら、
1ヶ月に2回とか行ってたわけでしょ?
- 小澤
- 行ってた。で、これは別に、
他の本を批判するわけじゃないけど、
3日くらい行けば、
1冊ぶんの写真くらいは撮れるんですよ。
だけど、
この本は毎月通ってつくったんです。
- ──
- それは、どうしてですか?
- 小澤
- まぁ、好きだっていうのもありますが、
でも、終わってから思えば、
少なくとも1年、
春夏秋冬の季節の彼らの姿を見ないと、
距離なんて縮まるわけないなあと。
- ──
- パンダとの距離を遠ざけるのも、
近づけるのも、
自分たち人間しだいってことですか。
- 小澤
- そうなんでしょうね。
アドベンでも上野でも神戸でもどこでも、
パンダはパンダで、
ありのまま、そこにいるだけですから。
- 田附
- どれくらい撮ったの?
- 小澤
- 16万枚くらい。
そこから、260枚ちょっと選んで‥‥。
- ──
- じゅ、16万!?
- 小澤
- カメラの中田健司さんにお願いしたのは、
とにかく、撮り漏れがないようにって。
ムービーを撮るノリで、
えんえん
シャッターを押し続けてくださいって。
彼は、その期待に、
みごと応えてくれました。タフでしたね。
- ──
- その熱量、そのことを知らずに見たけど、
ものすごく伝わってきました。
- 小澤
- うれしいです。
- ──
- 「何だ、このパンダ本、パンダすぎる!」
と思いましたから。
- 小澤
- でも、その熱量を、
なぜか文字にはしたくなかったんです。
パンダは日本語しゃべれないわけだし、
パンダは自分を説明できないわけだし、
ただただ「写真」だけで、
誰かが、どこかで、見つけてくれたら
いいなあって思ってつくりました。
- 田附
- アツいでしょ。
- ──
- はい、最高にアツいです。
<つづきます>
2018-01-12 FRI