第2回
いつでもパンダと1on1。

──
毎月、
和歌山のアドベンチャーワールドに通いつめ、
16万枚もの写真の中から、
260枚ちょっとの写真を選んでつくったのが、
小澤さんの『HELLO PANDA』‥‥。
田附
そんなに通ってたらさ、パンダのほうも
「こいつ、また来たよ!」とか、
そういう感じは‥‥ま、さすがにないか。
小澤
なんとも言えないですね。
──
あ、否定はなさらないんですね(笑)。
小澤
はい、と言うのも、
これは、自分の錯覚なのかもしれないんですが、
今回の本の表紙にした双子、
桜浜(オウヒン)・桃浜(トウヒン)のことが、
大好きなんですけどね。
──
ええ。
小澤
たとえばパンダって、竹がおいしいってときは、
両目をつぶって一心に食べるんです。
小澤
それが、おいしい証拠なんだけど、
あるときに、双子が、
オーディエンスも関係なく一心不乱に食べてて、
でも、僕が近づいていったら、
パッと目を開けて、こっち寄ってきたんですよ。
──
おお~。‥‥うれしそう(笑)。
田附
それは何? 何で? ニオイか何かで?
小澤
どうなんでしょうね‥‥とにかくそのときに、
カメラマンが、
「今の完全にわかってますよ」って言ってた。

けど、まぁ、それは錯覚の可能性があります。
パンダ好きってよくそういうことを言うんで。
──
あ、そうなんですか(笑)。
田附
でもさあ、小澤くんほど通いつめている人って、
他に、そんなにいないんじゃないの?
小澤
いるんですよ。
田附
いるの?
小澤
いる。
僕なんかよりずっと通ってる人いると思います。
──
上には上が。
小澤
僕たち、仕事でやってるからわかるんですけど、
仕事でやってる僕たちよりも、
ぜんぜん高いカメラレンズ持ってる人いるから。
──
性別とか、年齢とかは‥‥。
小澤
ピンキリですけど、男の人も女の人もいますね。
年齢は、40代から50代くらいが多いかなあ。
田附
顔見知りになったりもすんの? 
小澤
そういうこともあるかもしれないけど、
僕の場合は、
現場ではとにかくパンダだけに集中したいので、
まわりと話したりはしてないです。

現場では、できるだけ
パンダと「1on1」でいたいから‥‥。
──
ワン・オン・ワン‥‥つまり真剣勝負。
小澤
そう、まあ、あちらは、
両目つぶって竹を食ってるだけだけど(笑)。

だから、監視カメラには、黙ってパンダ見て、
やれリンゴを落としただ、
やれそのリンゴを拾っただ、食べただ、
そうやって
パンダが何かするたびにメモっている自分が、
映っていると思います。
──
じゃっかん不審者ですね(笑)。
小澤
そう、ずーっと見て、ずーっとメモって、
ずーっと同じ場所にいるから。

アドベンチャーワールドにしても、
今までにない取材スタイルだったみたいです。
──
そのメモは、何かになったんですか?
小澤
何にもなってないですね。

パンダ好きのオッサンの、
ただのパンダの「観察メモ」なだけです。
──
田附さんは、小澤さんの本を見たときに、
どんなふうに思ったんですか。
田附
俺は写真については妥協はできないけど、
でも、いい写真はあると思った。
──
おお。絶対にお世辞とか言いそうにない
田附さんが「いい写真はある」と。
小澤
うれしいですね。

何しろ、田附勝に認めてもらえる写真を、
1枚でもいい、入れたいと思ってたから。
──
そういう思いがあったんですか。
小澤
やっぱり、自分にとっての「田附勝」って、
すごく大きな写真家なんです。

だから、パンダとはいえ写真集を出す以上、
田附くんみたいに、
写真に命を懸けてて、
写真と死んでもいいと思ってる人に、
おもしろいと言ってもらいたかったんです。
田附
まあ、俺が自分の写真を発表するときは、
1枚の写真でどうなのか、
つまり「この1枚で強いか」ってとこで
やってるから、ちょっと違うんだけどね。
──
小澤さんの本の場合は、
むしろムービーのようにたくさん‥‥が、
コンセプトですものね。
田附
でもさ、この本、パンダの動きを、
いわゆるシークエンスで見せてるけどさ、
また『Sb』の話になるけど、
それって、スケーター雑誌の発想じゃん。
──
なるほど。トリックの連続写真みたいな。
田附
そこが、おもしろいなと思った。
小澤
たしかに『Sb』のことなんか考えずに
つくったんですけど、
写真の選び方や、
レイアウトの判断基準なんかは、
結局『Sb』と一緒だったなと思います。

パンダが
手を伸ばしてリンゴをとるシーンを、
連写して、
それをシークエンスで使ったりして。
──
そんなパンダ本て、なかったわけですよね。
小澤
だから、この企画を提案するときにも、
これまでの「パンダ本のセオリー」とかに
忠実じゃなくてもオッケーそうな、
そういう出版社を狙っていったんですよね。
──
なるほど。
小澤
こまかい構成とかを考えず、
ひたすらパンダの写真を並べたいという、
こちらの要望を
聞いてくれる出版社を探したんです。

売れるためには
「写真だけじゃなくて、
 パンダのエッセイみたいな文章ページと、
 パンダのいろんな資料を入れましょう」
「パンダのQ&Aを入れましょう」
「パンダの歌を載せましょう」
とか、ああだこうだ、
いろいろやるのがイヤだったんです。
──
そういう網羅主義的なことって、
編集者としては、やっちゃいがちですよね。
小澤
そう、そういうことは、
これまで自分自身もさんざんやってきたし、
わかってるつもりなんだけど。
──
ふだんは、雑誌の編集長さんですものね。
小澤
あえて、いろんな要素を取っ払って、
「かわいい♡」だけで
はじまって終わる本にしたかったんです。

最初から最後まで、
ただひたすらかわいいだけの、パンダ本。
田附
だってさ、もう、何刷り?
小澤
4刷り。
──
すごい。
田附
でしょ?
──
素晴らしいです。痛快というか。
小澤
いや、ぜんぜんまだまだだと思いますが、
田附くんとも話したんだけど、
かわいいだけの「ド直球」でいったのが、
ひとつには、よかったと思います。

パンダの飼育の大変さだとか、
置かれている状況についての説明だとか、
インテリジェンスというか、
アカデミックな方向に寄った本も多いけど。
──
パンダの現状の問題点は‥‥みたいな。
田附
もちろん、そういう話も重要で、
誰かが考えたり、
発言したりしていかなきゃなんないけど、
そこからスッと抜けて、
「俺はかわいいから好き」だけのほうが、
コンセプトとしては、強いよね。

あんまり難しいこと言うよりも。
──
まずは手にとってもらえたら、
そこから何か、
問題意識が生まれることもありますし。
田附
小澤くんが、スケーター以外の対象に、
ここまで
突っ込んでいったのもはじめてでしょ。
小澤
そうだね。

スケートはもちろん大好きなんだけど、
でも、よく考えてみると、
スケート雑誌をつくるのが好きだから、
スケーターじゃなくて、
雑誌の編集をやっているわけですよね。
──
ええ、なるほど。
小澤
そういう意味では、
対象そのものが大好きだって気持ちで、
真正面から向き合って、
転がるように本をつくったのは、
だから、今回がはじめてだと思います。
──
スケートに対してもパンダに対しても
小澤さんという人は、
「いつでも1on1」な感じなんですね。
小澤
そうありたいです。

<つづきます>

2018-01-13 SAT

© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN