第3回
白黒が好き。

田附
本のセオリーから外れてるという意味では、
表紙の写真も、あり得ないよね。

パンダの目線、こっちに来てないし。
小澤
もっと言うなら、ピンも来てないからね。

でも、それでも、
この双子パンダの「くっついてる!」感が
どうしても出したくて。
田附
うん、それは伝わる(笑)。
小澤
裏表紙の写真、パンダのする行為のなかで、
いちばん好きな行為なんです。

僕は「アゴ置き」って呼んでるんですけど。
──
アゴを置いてる。おたがいの肩に。
小澤
ここはわたしの場所だよ、いただき~って、
一種の縄張りの意思表示らしいです。

でも、パンダのすごいとこは、
「ここ、わたしの場所で~す!」って言いながら、
要は、格闘技で言う
マウント取ったようなもんなのに、
アゴ乗っけたほうも、乗っけられたほうも、
そのうち忘れちゃうんですよ。
──
へえ(笑)。
小澤
で、そのまま寝ちゃったりするんです。

上にいるほうも、下にいるほうも、
おたがいのことを忘れて、寝ちゃうんですよ。
──
あはは、かわいい(笑)。
小澤
そこが、すごくパンダらしいなと思ってます。
──
小澤さんは、
パンダのこと、いつから好きだったんですか。
小澤
もう、ずっと前からです。
もともとは「白黒が好き」から来てるんです。
──
え? 
小澤
ボーダー・コリーが好きだったり。
──
犬の。
小澤
音楽で言えばスペシャルズが好きだったり。
──
モッズの。
田附
そこなの?(笑)
小澤
そう、はじめは「白黒が好き」があって、
写真もモノクロが好きで‥‥。

気づけば、着ている服も、
白のTシャツやYシャツに、黒のズボン。
そんなのばっかりでした。学生の頃から。
──
はー、色ですか‥‥。
小澤
ただ、上野動物園のパンダ舎前は、
するっと流し見するくらいの時期もありました。
「もっと見たい」って思っている子どもたちを、
省みることもなくね。
それがなぜなのか、うまく説明できないですが。
──
そうなんですか。
小澤
はい、で、そんな僕にとって、
アドベンチャーワールドのパンダの自由さが、
衝撃的だったんです。

そこであらためて、思ったんです。
究極の白黒って、やっぱりパンダだ‥‥と。
──
おもしろいです(笑)。
田附
でも、ほら、前に自分で言ってたじゃん。
「パンダは白と黒じゃない」って。
小澤
そうそう、それはそうなんだよね。

アドベンチャーワールドに
通いはじめて、わかったことなんだけど。
──
どういうことですか?
小澤
ようするに、茶色いんですよ、けっこう。
パンダって、近くで見ると。
──
茶色。
田附
教えてあげて、教えてあげて(笑)。
小澤
つまりですね、
世の中の多くの「パンダ本」というのは、
つくる側も、飼育側も、
ちょっと「白くしてる」んです、印刷で。
──
へえ!
小澤
やっぱり、茶色く汚れているまんまだと、
見栄え的にアレですから。
ほら、白黒の方がありがたみがあるから。

つくる側も飼育側も同意の上で、
茶色の部分を白くしている本が多いです。
ぜんぶじゃないとは思いますけどね。
──
そうだったんですか。
小澤
その証拠に、1年間アドベンに通う間に、
子どもが
「パンダって白くないね!」って言うの、
何度も聞いてますから、ぼく。
田附
子どもは正直だからね。
──
その点、小澤さんの本は?
小澤
パンダはパンダのまま生きてるだけだし、
自分が白かろうが茶色かろうが、
そんなこと、ぜんぜん関係ないですよね。
──
それは‥‥人間の好みですものね。
願望というか。
パンダは白くあってほしいという。
小澤
なので、自分の本では、
パンダがあんまり白くないんです。

アドベンチャーワールドさんサイドも、
それでOKにしてくれました。
田附
おもしろいでしょ?(笑)
──
はい、おもしろいです。

そして、そのことが、
とても小澤さんらしいんだろうなと思います。
小澤
これまでに出たパンダ本で、
いちばん茶色いパンダが載ってると思います。
田附
パンダだって地面をゴロゴロしてるわけで、
そりゃあ、茶色くもなるよね。
小澤
そう、パンダってけっこう動くんですよね。

ずーっと座ってるとか、
ずーっと寝てるとかのイメージがあるかも
しれないんですが、
とくに、アドベンのパンダは、
すごくおもしろい動きをしたりしますから。
──
へえ、どういうことをするんですか?
小澤
たとえば、そう、木に登って寝てる場面は、
よく見かけると思うんですが、
木に登って木を揺らしボテッと落ちるとか。
田附
落ちる?
小澤
そう、落ちる。

で、落ちた自分に、ちょっとイライラして、
恥ずかしいみたいな気持ちだと思うけど、
もう1回その木に登って、また落ちるとか。
──
コントみたいですね。
小澤
そうそう、そしたら今度は、
地面を転がりだすとか、走りまわるとかね。
──
そんな活発なんですか、パンダって。
小澤
アドベンのパンダは本当によく動くんです。

これ、実際に行ってみてほしいです。
大げさじゃなく、
パンダ観が変わるかもしれないと思います。
──
アドベンチャーワールドさんには、
双子をはじめ、
何頭もいるからよけいに‥‥ということも、
ありますかね?
小澤
はい、あると思います。

パンダって基本、1歳2歳で親離れして、
双子でも、4歳とかになったら、
それぞれ単独、別々に生きていくんです。
──
群れないんですか。
小澤
野生でも群れません。

だから、この双子も、
4歳くらいになるまでは一緒にいると思うので、
しばらくセッションが見られますよ。
──
セッション。
小澤
すごいじゃれてたり、
お互いお茶目にいたずらし合ってる姿が、
まさしくセッション的なんです。

パンダも、隣の竹が青く見えるみたいで、
「そっちのをよこせ」となって、
取り合うんだけど、
結局、双子だから力も一緒くらいなので、
真ん中でパッカリ割れちゃって、
それぞれが、
目をつぶって食べているというね(笑)。
──
結果的に「はんぶんこ」に(笑)。
小澤
何時間見ていてもぜんぜん飽きません。

敷地が広いのに、よくくっついてるし。
背中を合わせて、竹を食べてたり‥‥。
──
聞いてるだけで、かわいいですね。
小澤
だから、これは軽々しく言えませんけど、
アドベンさんって、いい意味で
パンダへの接し方が「雑」なんですよね。
田附
逆にね(笑)。
──
さっきもそう、おっしゃってましたよね。
小澤
つまり、過保護じゃないんです。

だから、まだ赤ちゃんのときなんかには、
飼育員さんとじゃれるわけですけど、
かわいいのはかわいいんですが、
爪とかもすごいし、
飼育員さんたちの腕をよく見てみると、
傷があったりするんです。
──
クマのようなものですものね。
小澤
クマですね。分類的にはクマ科ですから。

だから、飼育員さんたちも
痛いなって思ったりもしながら、
子パンダひっくり返したりするんですよ。
で、子パンダも子パンダで、
はげしめに遊んでもらうほうが喜んだり。
──
なるほど。
小澤
でも、そんなシーンを見る人が見たら、
「かわいそう!」
とかって言いかねないじゃないですか。
田附
そうだね。
小澤
なんというか「対等」に接してるんです。

それに、飼育員さんたちは、
実際、ある意味で「覚悟もしている」と。
──
覚悟。
小澤
動物って、100回ルーティンを重ねて、
101回目に、
突然、違うことをする生き物なんだと。

だから、どっかで、
何かをやられるかもしれないという
覚悟は持ちながら、
それでも、
みんな深い愛情を持って接していると、
そう、おっしゃってました。

<つづきます>

2018-01-14 SUN

© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN