パンダの覆面ミュージシャンである
James Panda Jr.さんは、
思いもよらない罪により、
スリランカの刑務所に入れられました。
言葉も通じぬ塀の中では、
いろいろ、めずらしい体験をされ‥‥。
でもそのアンラッキーが、数年後。
幸せとは何だ。不幸せとは、一体何だ。
異聞、ミラクル・パンダ・ストーリー。
Panda さんを紹介してくれた
ニッポン放送アナウンサー、
吉田尚記さんと、うかがってきました。
担当は「ほぼ日」奥野です。


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第一回 スリランカからの手紙。

――
さまざまな説明を抜きにしますと、
パンダさんは、
思いもよらない罪により、
突然、スリランカの刑務所に
投獄されてしまうという、
めずらしい経験の持ち主であると。
吉田尚記さん
最低限「パンダさん」とは
音楽ユニット「PANDA 1/2」の
中心人物、
James Panda Jr.さんであると、
申し上げておきましょう。
吉田尚記さん
James Panda Jr.さん
はい、ありがとうございます。

では、さっそく本題に入りますと
2011年に、PANDA 1/2 で
「PANDA! PANDA! PANDA!」
という曲をリリースしたんです。
吉田尚記さん
パンダさんは、
フリッパーズ・ギターの大ファンで。
――
あー。
James Panda Jr.さん
はい、フリッパーズ・ギターの名曲
「Camera! Camera! Camera!」
へ向けたオマージュ‥‥であり、
上野動物園のパンダ応援公式ソング、
だったんですが、
これが、まあ、非常に当たらなくて。
――
非ヒット作であったと。
James Panda Jr.さん
次の第4弾シングルで
「夏をぶっ飛ばせ -Wild Summer 2012-」
という‥‥。
――
「クールなスパイでぶっとばせ」。
James Panda Jr.さん
ありえないほどスベった企画を挟み、
第5段シングルで
「ぼくらが
スリジャヤワルダナプラコッテへ
旅に出る理由」という‥‥。
――
語呂が悪い!
吉田尚記さん
オマージュを捧げているのはもちろん、
小沢健二さんの
「ぼくらが旅に出る理由」ですね。
――
さらには、
スリジャヤワルダナプラコッテとは
スリランカの首都。

長いイントロになるのかと思いきや、
あっさり核心に近づいてきました。
James Panda Jr.さん
とにかく、その第5段シングル
「ぼくらが
スリジャヤワルダナプラコッテへ
旅に出る理由」のMVでは
現地の日本大使館の公認、
撮影協力のもと、
全編スリランカロケをやったんです。
吉田尚記さん
スリランカのテレビに出たんだよね。
James Panda Jr.さん
ルパバヒニ国営放送の番組から、
夜オファーが来て翌朝出演しました。
吉田尚記さん
急だなあ(笑)。
James Panda Jr.さん
それは、国営放送30周年を記念して
30組のアーティストが出演する
イベントだったんですが、
ぼくらが、31組目で出演したんです。
――
コンセプトがズレてませんか。
James Panda Jr.さん
そうなんですよ。

イベントのコンセプトを変えてまで、
なぜぼくらにオファーしたのか。
とにかく、ぶじにロケも済んで、
楽しかったね良かったねで帰国して。
吉田尚記さん
意気揚々と。
James Panda Jr.さん
そしたら当時のボーカルの女の子が
急に
「わたしは、
パンダさんのマネキンじゃない!」
的なことを言い出しまして、
もっと自由に歌を歌いたいと言って、
脱退しちゃったんです。
James Panda Jr.さん
――
はあ。
James Panda Jr.さん
正直、PANDA 1/2 には、
自分自身かなりの投資をしてたので、
かなりショックも大きくて、
これ以上、
絶望的な気持ちになるようなことも、
そうそうないだろう、と。
――
それほどまでに。
James Panda Jr.さん
これからアルバムも出し、
がんばっていこうという時期でした。

かなりつらくて、真夜中、
よっぴー(吉田さん)に電話かけて、
「たいへんだね」
みたいなこと言ってもらったりして。
吉田尚記さん
そうだっけ。
James Panda Jr.さん
そんなこんなで落ち込んでたところ、
ふたたび、
スリランカに行くことになりました。

大使館のHさんというかたに、
あちらですごくお世話になったので、
これまでのこと、
これからのこと、
いろいろご報告したいと思い、
メールをしたら
「じゃあ、お会いしましょう」って。
――
ええ。
James Panda Jr.さん
中国の天津からシンガポール経由で、
スリランカに入りました。

Hさんと約束したのは、
たしか、12月10日の午前中でした。
――
年の瀬ですね。
James Panda Jr.さん
菓子折りを持って大使館にうかがい、
その節は大変お世話になりましたと
お礼の気持ちを伝え、
これから盛り上げていこうって矢先、
ボーカルが抜けちゃって、
でも新しい子を見つけて
引き続きがんばっていきますので、
今後もよろしくお願いします‥‥と。
吉田尚記さん
きちんとした人なんです。
James Panda Jr.さん
そうしたら、Hさんも、
「ぜひとも、がんばってくださいね」
と励ましてくださって。

ごあいさつするのが目的だったから、
用事も済んだし、
2日後に帰りの便を予約してたんで、
それまでプラプラしてようかと。
――
スリジャヤワルダナプラコッテの街を。
James Panda Jr.さん
まずは、大使館を辞してすぐ、
郵便局に葉書を出しに行きました。

日本のファンクラブのみなさんに、
エアメールを出そうと思って、
自分でつくったポストカードを、
大量に持参していたんですよ。
James Panda Jr.さん
――
スリランカからの手紙ってことですね。
James Panda Jr.さん
スリランカの郵便局の窓口にいる
スリランカの郵便局員さんに、
300枚もの‥‥
自作ポストカードを差し出したら。
吉田尚記さん
意気揚々と。
James Panda Jr.さん
笑顔だった郵便局員さんが一転、
険しい顔となり、
このポストカードはイリーガルだ、
どうやって手に入れたんだと
厳しい口調で詰問してきました。

イリーガルって何て意味だっけと
うっすら思いながら
「OK、OK」とか言ってたら、
そのうちに、
ふたりの警官が、乗りつけてきて。
――
スリランカの警官が。
James Panda Jr.さん
トゥクトゥクで。
吉田尚記さん
パトカーじゃないんだ!
James Panda Jr.さん
ふたりの屈強な警官が、
トゥクトゥクで郵便局に乗りつけて、
ぼくのポストカードを見咎めるや、
「お前、ちょっと来い!」
って感じで、署に連行されたんです。
――
それって、つまり‥‥
パンダさんの出したポストカードが
「イリーガル」だったから?
吉田尚記さん
そう、葉書が違法だ‥‥と。
――
どういうことですか?
James Panda Jr.さん
ようするに、
ぼくのつくったポストカードって、
これなんですけど。
――
あー、ああー‥‥。
James Panda Jr.さん
スリランカの国旗に描かれている
「ライオン」を、
「パンダ」にしてしまったんです。
――
ああー‥‥。かわいいけど‥‥。
ああー‥‥。
この「ライオン」を「パンダ」にしてしまった。
吉田尚記さん
国旗の改変が、罪に問われたんだ。
James Panda Jr.さん
そうなんです。

スリランカの憲法に
「国旗と国歌を改変してはならない」
という条文があって、
そのことを、知らなかったんです。
――
それは知らなくても無理ないですが、
冷静に考えれば、
「それは、あぶない」という気も。
James Panda Jr.さん
いまとなっては、そうなんですよね。

でも、ぼくは、前回の訪問で
スリランカのことが、
本当に、心底大好きになって、
パンダが
スリランカと日本をつなぐんだって、
心からの親愛の情をこめて‥‥。
――
国旗を改変してしまった。
James Panda Jr.さん
あちらのニュースにも出てしまって。

日本人が
スリランカの国旗を改変して拘束と、
たぶん、そんな感じで。
吉田尚記さん
それが、人生初逮捕。
James Panda Jr.さん
初逮捕。
――
スリランカで。
James Panda Jr.さん
はい。

<つづきます>

2019-05-28-TUE


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