パンダの覆面ミュージシャンである
James Panda Jr.さんは、
思いもよらない罪により、
スリランカの刑務所に入れられました。
言葉も通じぬ塀の中では、
いろいろ、めずらしい体験をされ‥‥。
でもそのアンラッキーが、数年後。
幸せとは何だ。不幸せとは、一体何だ。
異聞、ミラクル・パンダ・ストーリー。
Panda さんを紹介してくれた
ニッポン放送アナウンサー、
吉田尚記さんと、うかがってきました。
担当は「ほぼ日」奥野です。


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第2回「国家反逆罪に問われて。」

――
逮捕されて‥‥どうなったんですか。
James Panda Jr.さん
手錠をかけられ、洋服をぜんぶ脱げ、
真っ裸になれと言われて、
身体のすみずみまで調べられました。
吉田尚記さん
罪状は‥‥。
James Panda Jr.さん
国家反逆罪です。
――
パンダの葉書で。
吉田尚記さん
国家反逆罪。
James Panda Jr.さん
署で取り調べを受けているとき
「お前のパンダは、
なぜ、ライオンを殺したんだ?」
と問い詰められました。

取り調べしている警官のなかで、
そんなストーリーが、
できあがっているようすでした。
――
ライオンを亡きものにしたあと、
その居場所を、
パンダさんのパンダが奪ったと。
吉田尚記さん
パンダが刀を持っていたのとかも
ダメだったのかなあ。

でも、もともとの国旗でも、
ライオンが刀を持ってるんだよね。
James Panda Jr.さん
刀じゃなくて、笹とかにしとけば、
少しはちがったんですかねえ。
――
ダメでしょうね‥‥。
James Panda Jr.さん
ですよね‥‥。

ちなみに、スリランカって、
大きくは、
多数派の「シンハラ人」と
少数派の「タミル人」に
分かれているんです、民族構成が。
――
なるほど。
James Panda Jr.さん
で、仏教徒の多いシンハラ人と
ヒンズー教徒の多いタミル人との間には、
歴史的に、
長年民族紛争が起きていたんです。
吉田尚記さん
へえ。
James Panda Jr.さん
で、その昔、
シンハラ人はライオンだったって
言い伝えがあったそうでして、
つまりはライオンって、
シンハラ人のシンボルなんですよ。
――
大切な民族のシンボルが、
どこの馬の骨ともわからないパンダに。
James Panda Jr.さん
スリランカの人たちは、ずっと、
シンハラ人と、
タミル人によるテロ組織との内戦に、
悩まされていたんですけど、
当時は、ようやく安定を取り戻し
「これから国を繁栄させていこう」
という時期だったんです。

そんなときに
国旗を改変するようなポストカードを
持ってる奴がいたんで、
もう「問答無用で逮捕です」みたいな。
――
タイミングの女神にも見放されて。
James Panda Jr.さん
とにかく、そうやって逮捕されて、
「ウェリカダ・プリズン」
という刑務所に放り込まれました。
――
あわれ、とらわれのパンダさん。
吉田尚記さん
檻の中のパンダ。動物園?
James Panda Jr.さん
ウェリカダ刑務所のなかは、
内部のレンガの壁が崩れていたり、
かなりボロボロでした。

刑務所というところは、
こんなもんなのかなと思ってたら、
ぼくが入る1か月前に、
銃撃戦が起きてたらしいんですよ。
吉田尚記さん
刑務所のなかで‥‥銃撃戦?
James Panda Jr.さん
壁のレンガが崩れたりしてたのは、
銃撃戦の跡だったんです。
――
そんなことあるんですか。
James Panda Jr.さん
刑務官の銃器を受刑者が奪い取り、
それを警察が抑えようとして、
双方入り乱れての、銃撃戦に突入。

結果、27人が死亡。
――
そんなおそろしい事件が、
パンダさんの入獄する1か月前に!
James Panda Jr.さん
そのことはあとから知ったんです。

刑務所を出たとき、大使館の人に
「厳しい環境だったでしょう」
と聞かれたので、
「レンガの壁が壊れてたり‥‥」
と言ったら、
「ああ、銃撃戦があったからね」
と教えてくださって。
吉田尚記さん
タイミングがズレたら、
銃撃戦に巻き込まれてた可能性も
あったってことだよね。
James Panda Jr.さん
そっこらじゅうガレキだらけで、
爆弾も使われたそうです。

でも、刑務所に入ってるときは
そんなことはつゆ知らず、
「刑務所ってはじめて入るけど、
だいぶ
荒れ果てたところなんだなぁ」
と思っていました。
――
パンダさん‥‥。
James Panda Jr.さん
というのも、ぼくが入った時点は、
刑務所内の治安って、
かなり、よかったんですよね。

なにせ、最凶最悪な受刑者たちは、
銃撃戦で死んだり、
排除されたりしていたはずなので。
――
あ、ああー‥‥。
吉田尚記さん
監視の目も強化されてただろうし。
――
放り込まれたときのお気持ちは。
James Panda Jr.さん
絶望です。そのひとことです。

いまでこそ
こんな感じでしゃべってますけど、
絶望の崖っぷちですよ。
――
そりゃそうですよね。
James Panda Jr.さん
これから俺はどうなるんだろうと
失意のドン底に沈んでいたとき、
刑務官みたいな人に、
「お前、何か飲みたいものあるか」
と聞かれたんですね。
吉田尚記さん
うん。
James Panda Jr.さん
食欲すらほとんどない状態だから、
「別にないです」と答えたら、
「じゃ、紅茶でも飲むか。紅茶」
って、あったかい紅茶が出てきて。

これが‥‥めちゃくちゃうまくて。
――
本場ですもんね。
吉田尚記さん
さすがスリランカ。もとセイロン。
James Panda Jr.さん
茶葉が新鮮なんですよ、圧倒的に。
刑務所の紅茶でさえうまいのかと。
――
何でしょう、毎日の寝起きなどは、
どのようなスペースで?
James Panda Jr.さん
スリランカをずっと悩ませていた、
反政府の「LTTE」という
テロリスト集団の隣の部屋でした。
<後日、パンダさんが事件のことをまとめたパワーポイントより>
<後日、パンダさんが事件のことをまとめたパワーポイントより>
吉田尚記さん
お、おお。
James Panda Jr.さん
ぼくが放り込まれたのは
「38人部屋」だったんですが‥‥。
吉田尚記さん
38人て。
James Panda Jr.さん
異常にタテに長い部屋で、
ベッドがないので雑魚寝なんですが、
他の受刑者たちは
親族にゴザを差し入れてもらってて。

でもぼくにはマイ・ゴザがないので、
もう、身体が痛くて痛くて。
※写真はイメージです。
<後日、パンダさんが事件のことをまとめたパワーポイントより>
――
寒くはないんでしょうけど。
James Panda Jr.さん
そうですね、寒くはないんですが、
とにかく身体が痛かったです。

そしたら
「よければ、オレのゴザを使えよ」
という人が現れて。
吉田尚記さん
親切!
James Panda Jr.さん
その部屋には、
イスラム教徒と身体の不自由な人と
何人かのヨルダン人と、
一人の日本人が収容されていました。
――
一人の日本人とは、つまりあなた。
James Panda Jr.さん
アメリカ人だとか、中国の人たちは、
別の部屋に集められてたんです。

ぼくは、英語よりも中国語のほうが
まだ話せるんですけど、
ぼくの中国語を、
シンハラ語に訳してくれる中国人に、
かなり助けてもらいました。
――
地獄に仏ってことですね。
James Panda Jr.さん
あるとき、その彼に、
「お前は、なんの罪で捕まったの?」
って聞いたら、
「宝石を飲み込んで盗もうとしたら、
 入口でビビーと鳴った」って。
吉田尚記さん
わはははは(笑)。
James Panda Jr.さん
レントゲンを撮られたら、
バッチリ宝石が写っていたそうです。
――
漫画のような悪いことをする人って、
実際にいるんですね‥‥。
James Panda Jr.さん
ぼくの罪も聞かれたから、
スリランカの国旗をこうしてああして、
‥‥って告白したら、
「そんな、お前の罪なんて、軽微だよ」
みたいな。

「すぐ出られるから」とか言ってくれて。
――
そんなはげまし。
James Panda Jr.さん
自分は日本でミュージシャンやっていて、
スリランカでMVのロケをやって、
スリランカが大好きになって、
スリランカへの愛を込めてやったことが、
国家反逆罪に問われてしまった‥‥。

そんな話をしてたら気の毒だと思われて、
受刑者がどんどん集まって来ちゃって。
――
わあ。
James Panda Jr.さん
大勢の受刑者が、ぼくのまわりに集まって、
「大丈夫、大丈夫。元気出せよ!」
「すぐに出られるよ!」
とかって、みんなで励ましてくれたんです。

それが、入所2日目くらいのできごとです。

<つづきます>

2019-05-29-WED


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