パンダの覆面ミュージシャンである
James Panda Jr.さんは、
思いもよらない罪により、
スリランカの刑務所に入れられました。
言葉も通じぬ塀の中では、
いろいろ、めずらしい体験をされ‥‥。
でもそのアンラッキーが、数年後。
幸せとは何だ。不幸せとは、一体何だ。
異聞、ミラクル・パンダ・ストーリー。
Panda さんを紹介してくれた
ニッポン放送アナウンサー、
吉田尚記さんと、うかがってきました。
担当は「ほぼ日」奥野です。


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第7回 人間万事塞翁がパンダ。

――
経済産業省で出会ったひとりの女性。
その人は、いったい‥‥。
James Panda Jr.さん
はい、タンザニアのイベントは、
ジェトロという
日本の経済産業省の外郭団体が、
お金を出していたんですね。

で、彼女は、ぼくが経産省へ
イベントの報告へ行ったときの、
担当のかたでした。
吉田尚記さん
うん、うん。
James Panda Jr.さん
わたくしこうこうこういう者です、
とメールで自己紹介し、
アポイントを取ってお会いしたところ、
その人の他に、
経済産業省の偉い人が何人もいて。

こっちはひとりで、パンダの話と、
イベントの報告をしたんですけど。
――
経済産業省の人も、
いろんな人に会うんですね。
James Panda Jr.さん
報告はつつがなく終わり、その日の夜に
「今日はありがとうございました」
というメールを送ったら、
次の日、その女性から返事が来て。
吉田尚記さん
うん。
James Panda Jr.さん
「昨日はわざわざご足労いただきまして
ありがとうございました。
質問があるんですけど、
パンダさんの『中華街ウキウキ通り』
という曲は、
小沢健二さんの『痛快ウキウキ通り』
という曲のパロディでしょうか? 
わたし昔オリーブ少女で、
フリッパーズ・ギターが
大好きだったんです!」
と、書いてあったんです。
吉田尚記さん
フリッパーズ・ギター‥‥!
――
パンダさんの大好きな‥‥!
James Panda Jr.さん
そうなんです。で、話の流れで、
「じゃあ今度、
ごはんにでも行きませんか?」
ということになりました。

当日は、
彼女がフリッパーズ・ギターの
切り抜きのファイルを、
2つも持ってきてくれたりして。
吉田尚記さん
へええええ。
James Panda Jr.さん
ぼくいま、30代後半なんですが、
彼女はひと回り上で、
どまんなかのフリッパーズ世代。

つまり、ぼくはフリッパーズ・ギターは
リアルタイムじゃないんで、
わざわざ国会図書館にまで行って調べた
フリッパーズ・ギターの記事を、
彼女のファイルには
きれいに保存してあったりして‥‥。
――
なんと。
James Panda Jr.さん
フリッパーズ・ギター大好き話が、
どんどん広がっていって、
「どのアルバムの、
どの曲がいちばん好きですか?」
と聞けば
「セカンドもいいし、
サードも捨てがたいんですけど、
やっぱり、ファーストの
『Boys Fire the Tricot』かなあ」
とかって言って、その曲、
ぼくもいちばん好きな曲だったんです。
――
わあ!
James Panda Jr.さん
めちゃくちゃ話が合ったんです。
吉田尚記さん
運命‥‥。
James Panda Jr.さん
そこからもう、当然のように
「じゃあ、今度デートしませんか?」
という流れになりました。
吉田尚記さん
素晴らしいじゃないか!
――
パンダさん‥‥ミラクルを起こすのか‥‥?
James Panda Jr.さん
「ぼくらのフリッパーズ・ギターについて
もっともっといろいろ話したいんで、
今度ドライブでも行きましょう」
「はい、ぜひ行きましょう」と。

ドライブ中は、当たり前のように
ずーっとフリッパーズ・ギターかけてて、
ずーっとフリッパーズ・ギターについて、
延々しゃべってたんですが‥‥。
――
ええ。
James Panda Jr.さん
ふと、あるとき、いきなり彼女が
黙り込んじゃったんです。

どうしたんだろうと思って横を見たら、
泣いてるんですよ。
吉田尚記さん
‥‥なんで?
James Panda Jr.さん
「この曲が良すぎて」って。
吉田尚記さん
もう、何がなんだか(笑)。
――
何て曲だったんですか?
James Panda Jr.さん
ぼくと彼女が大好きな
「Boys Fire the Tricot」のライブ盤。

『on PLEASURE BENT』
というアルバムに入ってるんですが。
吉田尚記さん
はい、はい、はい。
James Panda Jr.さん
「ぼくもこの曲が大好きなんですけど、
とくにこのあたりが好きで‥‥」
って言ったら、
「わたしも!」って、彼女も。

そして温泉に浸かって‥‥帰り道、
スリランカで逮捕された話は
まだしていなかったので、
なぜだか‥‥この人には、その日のうちに
言わなきゃならないと思いました。
吉田尚記さん
‥‥おお。
James Panda Jr.さん
でも、いきなり罪の告白をする勇気はなくて、
「ぼくの知り合いで‥‥」
ということにして話しはじめたんです。
――
罪をオブラートにくるんで。なるほど。
James Panda Jr.さん
「ぼくの知り合いで、
パンダの格好で音楽やってる人がいて‥‥」
とおそるおそる言ったら、
「え、あ、パンダさん以外にも、
パンダで音楽やってる人いるんですね」と。
吉田尚記さん
そうなるよね(笑)。
James Panda Jr.さん
「そのパンダの人が、
2年くらい前、これこれこのような経緯で
逮捕されちゃって。スリランカで」
「大変なんですね、アーティストさんの活動も」
みたいな会話のあとに。
――
はい。
James Panda Jr.さん
思い切って、勇気をふるって、
「じつはそのパンダの人って、ぼくなんです!」
と告白したら、
「え? あ? え? あー。
じゃあ逮捕されちゃったんですか?」
と、聞き返されまして。
――
‥‥ええ。
James Panda Jr.さん
嫌われちゃうかなと思いきや、
「もしまた、同じような目にあっても、
わたしが、
どんな手を使ってでも助け出します!」
と言ってくれたんです。
吉田尚記さん
おおー!
――
経産省に、ものすごい理解者現る!
James Panda Jr.さん
そこで、その日の別れぎわ、ご自宅の前で
「こんな自分ですけど、
もしよろしければ、
結婚を前提につきあってください」
と、告白しました。
――
その日のうちに「結婚を前提に」?
James Panda Jr.さん
はい、そうです。
「いま、この人を逃しちゃダメだ!」
と思ったんです。
――
直感的に。
James Panda Jr.さん
その彼女が、いまの奥さんなんです。
吉田尚記さん
え?
James Panda Jr.さん
その彼女が、いまの奥さんなんです。
――
うわあああ!
吉田尚記さん
もう、映画にしたらいいじゃないか!

もちろん主題歌は
「Boys Fire the Tricot」、
「ボーイズ、トリコに火を放つ」で!
James Panda Jr.さん
ははは。
――
よかったですね‥‥逮捕されて。
James Panda Jr.さん
ほんと、そうなんです。

スリランカでの一件だけじゃなく、
ずっと信じてやってきた音楽が
うまくいかなかったり、
情熱とお金をかけてやったことが
パーになったこともあったけど、
最終的にこうなって、
人生っていうのは、
何が幸いするかわからないなあと。
――
言葉の説得力がちがいますね。
James Panda Jr.さん
何か悪いことがあっても、
いつか、いいことにつながるかもと、
思えるようになったんです。
吉田尚記さん
人間万事塞翁がパンダ。
James Panda Jr.さん
ほんと。「塞翁がパンダ」です。
あれからぼく、強くなりました。
吉田尚記さん
そうだよね。
James Panda Jr.さん
仕事やプライベートで、
ちょっとうまくいかなくっても、
何が起きたって、
少しくらいでは慌てなくなったんです。
――
なにせ、あの冷たいコンクリの
スイートルームから、
はいあがってきた人ですもんね。
James Panda Jr.さん
38人部屋出身です。
――
では、奥さまとは、今も仲良く。
James Panda Jr.さん
もちろんです。

コーネリアスのライブなんかにも、
二人で行ったりしてます。
――
ラブラブですね。
James Panda Jr.さん
まあ‥‥そうですかね。はははは。

いまでは
「好きなアーティストは、
フリッパーズ・ギターと PANDA 1/2」
って言ってくれるんですよ。
本邦初公開、素顔のJames Panda Jr.さん。

<おわります>

2019-06-03-MON


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