パンダの覆面ミュージシャンである
James Panda Jr.さんは、
思いもよらない罪により、
スリランカの刑務所に入れられました。
言葉も通じぬ塀の中では、
いろいろ、めずらしい体験をされ‥‥。
でもそのアンラッキーが、数年後。
幸せとは何だ。不幸せとは、一体何だ。
異聞、ミラクル・パンダ・ストーリー。
Panda さんを紹介してくれた
ニッポン放送アナウンサー、
吉田尚記さんと、うかがってきました。
担当は「ほぼ日」奥野です。


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第6回 タンザニアでDJ。

――
今回の一件で、
パンダさんが学んだことがあったら、
教えてください。
James Panda Jr.さん
スリランカという異国の地で、
ああいったかたちで刑務所に入って。

たぶん罪を犯して捕まった場合って、
「あのとき、
あんなことしなきゃよかったなあ」
という、
いわば「反省の矛先」みたいなのが、
あると思うんです、どの人も。
吉田尚記さん
うん。
James Panda Jr.さん
でも、今回のぼくの場合は、
どこに反省の矛先を向けたらいいか、
わからなかったんです。

スリランカという国や人々が好きで、
スリランカと日本をつなぎたい、
そういう思いから、
よかれと思ってつくった葉書が、
スリランカの憲法第1条を違反して。
――
憲法第1条だったんですか!
いちばん大事な条文じゃないですか。
よりによって。
James Panda Jr.さん
そういうとき何を考えるかというと、
人は、自分の生きてきた過去、
すべてを反省するようになるんです。
吉田尚記さん
ぜんぶ?
――
人生全体を‥‥反省。
James Panda Jr.さん
あのとき、脱退したボーカルの子に
横暴な口をきいたから、
今、めぐりめぐって、
こういう目に遭ってるんだ‥‥とか。
――
うわー‥‥。
James Panda Jr.さん
なぜだ、なぜだ、なぜだ‥‥と問い詰め、
原因が思い当たらないから、
自分の生きてきた過去を、ぜんぶ‥‥。

あのとき親に悪態ついたからだ‥‥とか、
人にいじわるしちゃったからだ‥‥とか、
こうなってなきゃ、
一生思い出さなかったであろうことまで、
思い出して、思い出して、そのせいにして。
――
バチが当たった感?
James Panda Jr.さん
まさしく「バチが当たった」と思ってた。
吉田尚記さん
ちなみに、帰ってきてからは
恩人のHさんには、会ったりしてないの。
James Panda Jr.さん
会いました。

Hさんには本当にお世話になったので、
感謝の気持ちを、お伝えしたくて。
――
感謝を伝えたいと思って、
Hさんに会ったのはこれで2度目ですね。
James Panda Jr.さん
そう‥‥ですね(笑)。
吉田尚記さん
1度目は
そういう気持ちでスリランカに行ったら
逮捕されちゃったわけで。
James Panda Jr.さん
でも、ちゃんと守ってくれた人ですから、
高級ホテルのロビーで
「Hさん、本当にありがとうございます」
と伝えて、ごはんを食べました。

「さすがに、あんなことがあったから、
もう2度と、
スリランカには行きたくないでしょ」
と聞かれたので‥‥。
――
ええ。
James Panda Jr.さん
「いやぁ、でも、塀の中では、
けっこう仲間たちに良くしてもらって、
食べ物もたくさんもらったし、
最後の日なんか
みんながお祈りもしてくれましたし、
本当に仲のいい奴とは
Tシャツを交換してきたんですよ」
と言ったら‥‥。
――
Tシャツ交換て!
James Panda Jr.さん
いま、スリランカの刑務所で
KEMURIのバンドTを着てる人がいたら、
そいつは俺のベストフレンドです。
吉田尚記さん
いい話‥‥なのかなあ(笑)。
――
ちなみにですが、結局、
国旗のデザインをパンダに変えた件は、
どういう判決になったんですか。
James Panda Jr.さん
懲役2年、執行猶予10年。
吉田尚記さん
え? じゃあ、いま執行猶予中なの?
James Panda Jr.さん
そう。スリランカ内では。
――
じゃあ、悪いことできませんね。
James Panda Jr.さん
ともかく、Hさんとごはんしたとき、
「でもスリランカもう懲りたでしょ?」
って何度も念を押すように聞くので、
「塀の中の仲間に恩返しをしたいので、
しばらくしたら行きたいですね」
と、答えたんです。
――
ええ。正直な気持ちなんでしょうね。
James Panda Jr.さん
そしたらHさん、
ものすごく申しわけなさそうな顔で
「あのー、パンダさんBですねB」
って言うんです。

Bって何かなと思ったら、
「いわゆるブラックリストです」と。
――
入国不可!
James Panda Jr.さん
たぶんスリランカには入れないって。
――
スリランカを愛してるのに‥‥入国不可。
吉田尚記さん
でも、何度も「懲りたでしょ」って
聞くあたり、Hさんも‥‥。
――
そうですね。
James Panda Jr.さん
少なくとも俺の在任中は来るなよ‥‥
という、
暗黙のメッセージかもしれないですね。
――
きっとね(笑)。
James Panda Jr.さん
ただ、その後も、
Hさんとはメールでつながっていて
年1回くらいは、
いま、こんな感じですと
近況をご報告させていただいてます。
――
それだけ濃厚な経験を共有してたら、
絆と言ったらアレですが、
そういう気持ちも芽生えそうですね。

いやあ、おもしろかったというか、
すごい話を聞かせてもらって‥‥。
James Panda Jr.さん
あの、もうちょっとだけいいですか?
――
え、ああ、もちろんです。
James Panda Jr.さん
スリランカから帰国して、
吉田豪さんとイベントをやったとき、
PANDA 1/2 が大好きという、
タンザニアの日系の会社ではたらく
青年が話しかけてきたんです。

「今日のパンダさんの話、
本当に、おもしろかったので
もしよければ、
タンザニアにある日本大使館に
つながりあるんで、
話してみていいですか」と。
――
はあ。
James Panda Jr.さん
イベントで嘘を言ったわけでもないし、
よくわからないけど、
ええ、いいですよ別にって返事したら、
後日、タンザニアの日本大使館から、
日本文化のお祭りみたいなイベントに
ご招待されたんです。
吉田尚記さん
えっと、今度はタンザニア?
James Panda Jr.さん
そう。ゲストで出演してほしい‥‥と。
――
日本文化のお祭りに。
James Panda Jr.さん
タンザニアの日本大使館の人たちからは
「パンダさんの、その、
国と国とをつなぐ情熱がすごい」
と言っていただきました。
――
スリランカでは、
逮捕されてまで、
国と国とをつなごうとした人ですもんね。
吉田尚記さん
そうだそうだ(笑)。
James Panda Jr.さん
2014年、タンザニアの
「サバサバ」というお祭りに行き、
5万円でつくった
特注の「パンダのお面」を被って、
DJをやりました。
――
タンザニアの地でDJデビュー。
James Panda Jr.さん
行ってみてからわかったんですが、
それは
タンザニアの大統領が来るぐらい
大掛かりなイベントで、
秋篠宮ご夫妻もいらしてたんです。
――
え?
James Panda Jr.さん
秋篠宮ご夫妻もいらしてました。
――
すごい!
James Panda Jr.さん
秋篠宮殿下と紀子様がいらして、
DJしてるパンダを、
間近で、ごらんになられまして。
吉田尚記さん
ほんとに!?
James Panda Jr.さん
いらっしゃる直前に確認したんです。
俺、パンダのお面で大丈夫ですかと。
――
気になりますよね。
James Panda Jr.さん
そしたら、タンザニアの日本大使館の人に
「何言ってんですか。
お面被ってこそパンダさんでしょ」
と諭されまして。
――
まさしく正論ですね(笑)。
James Panda Jr.さん
それに、秋篠宮殿下は、
動物にも造詣が深くてらっしゃるから、
「パンダで大丈夫ですよ」と。

ご夫妻が順番にブースをお回りになり、
パンダのぼくの前で、紀子様から
「お暑いのに大変ですね」
という、優しいお言葉を頂戴しました。
――
スリランカでの投獄が、
めぐりめぐって、そんな展開に‥‥。
James Panda Jr.さん
後日、そのイベントについての
成果報告を、
「経済産業省へパンダさんが行って、
担当者にしてくださいよ」
と、大使館のかたから言われまして。

経済産業省を訪ねて行ったんです。
吉田尚記さん
経産省?
James Panda Jr.さん
そこで、ひとりの女性と出会ったんです。

<この話、まだ続きが‥‥次回、最終回です>

2019-06-02-SUN


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