2010年11月某日 印刷の版と原画の行方。

前回までは「さよならペンギン」を
再出版するにあたって、「権利」と「許可」を得た。
これで、晴れ晴れしく、
華やかに復刻への道を往くことになる。

絶版になっていた本を再出版する方法で、
一番簡単なのは何かと問えば、
それは、
「以前の版を利用して、印刷をする」
ということである。
もちろん、そのままの版では
成り立たない部分もあるだろうから
多少の手はいれるにしても、だ。


▲これを印刷するための版があれば、
いっちょうあがり。である。

本には印刷をした会社が明記されている。
ちょっとお手元の本の後ろのほうの奥付をみられたし。
著者の名前や出版社などの情報の他に、
明記されていることと思う。
もちろん『さよならペンギン』だってそうである。
ここに電話一本、復刻完了。
が、望ましい。
早速、調査を依頼だ。

しかし、数日後に帰ってきた答えは、
すでに印刷の版は、
この世には存在しないという意味のことであった。
なにせ、出版からの歳月が立ち過ぎているのであるから
仕方がない。

まだ方法はある。
印刷の版がなかった場合、
次にできるのは、原画にあたることである。
原画をつかって、本を再構築していくという方法だ。
早速、杉江が湯村輝彦さんのマネージャーさんにメールをする。

帰ってきた返事は‥‥。

ーーーー
「さよならペンギン」の件
湯村に確認しまたが…
まず、原画は絶対ないでしょう、とのこと。
ーーーー

「絶対」がついているわけだから、
確信に近く、真実に近いということだ。

さて、どうしたものか。
この世に「さよならペンギン」の
印刷の版も、原画もないのだ。

モギのほうは、ほとんど腰がねばらないので、
とりあえず、絶望する。
そして、次に、
残念だなあとおもいつつも、さっさと諦める準備をした。
さて、永田に報告だ。

「どうしてそんなに諦めるのがはやいんだ。
 いま、本が手元にあるだろう?
 あるんだからどうにかなるんじゃないか?」


▲編集者の永田である。いつもこれくらいの仏頂面である。
 笑わないわけではない。カメラの前で笑わないだけである。
 しかし、このときもこれくらいの仏頂面だったと思う。
 もちろん、怒っているわけではない。


え? 先があるの?

モギは、難問に燃えたりするタイプではないのだ。
今までの人生でねばっていいことなど何もなかったのだ。
というような己の歴史などどうでもいいのだ。
ともかく、もう諦めるつもりだったから、
無策で報告にきただけなので、
新規の提案、それは不意打ちに等しいぞ。
あきらめる以外に
どんな方法が考えられるのでしょうか?

「スキャン、とか? わからないけど。
 だってそれしかないでしょ。」

スキャン、ね~~(疑心)。

「ともかく、ここは専門家にきいてみよう。
 藤井さんに電話してみようよ。
 たぶん、藤井さんなら、
 いままでにもそれくらいのことやってるよ。」

藤井さん! と、モギは思った。
そうか、なにかいいアイデアをくれるかも!

ここで「藤井さん」を紹介しよう。
「ほぼ日」の「ただいま製作中」にも
頻繁に登場する人物である。
彼は、凸版印刷株式会社の営業で、
「ほぼ日」では何冊もの本を彼と一緒につくってきた。
例えば、ブックデザイナーの祖父江慎さんと一緒に、
「言いまつがい」や「ベリー・ショーツ」、
そして、永田が編集を担当する
「小さいことば」シリーズなどである。

彼は優秀な営業マンであるとともに、
「趣味・印刷」と言いそうなくらいの印刷オタクであり、
「あんまり詳しく印刷の話をして、妻に呆れられる」
というノロケのような話を得意技としている。
実際に、印刷技術に関する豊富な知識で、
いままで何度となく我々の窮地を救ってくれているのだ。
今回も、ぜひ助けてもらいたい!
モギはある意味で、
他力本願が服を着て歩いているようなものだ。

「はい、藤井でございます。」

あの、ちょっと困ってて。
藤井さん、印刷の版も原画もないっていう本を
復刻したことってありますか?

「はい、ございます。」

やはり。

次回、具体的にどうしたらいいのか、
藤井さんは語る。

(つづく)

2011-02-22-TUE
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