2011年3月8日炎の赤字

大変ご無沙汰をしてしまった。
どうも、人間というものは、
ついついのんびりするように出来ていると思われる。
さ、巻いていくぞ。

と、その前に、「さよならペンギン」は
もちろんすでに販売中であることは
お伝えしておこうと思う。
絶賛発売中である。
店頭で手にとってということなら、
こちらの書店で取り扱いがある。
また、「ほぼ日ストア」で通信販売もしているので、
ぜひ、ページをご覧いただければとおもう。
ページデザインは、大の湯村ファンの廣瀬がした。
微妙にこう、なんというか、インターネット的に
古めかしいような仕組みで作ってあるが、
今の若者には珍しいんじゃないかな、というような
おっさんのようなコメントをつらつらしている場合じゃないぞ。

先に進む。

最初の出版から、30年あまりという年月は、
絵本の紙を経年変化させていた。
つまり、いま当時の絵本をみても、
色は当時のままではないということだ。
もちろん、スキャンは一番状態のいい絵本でしているが、
それでも、色は劣化しているのだ。

色にかんしてちゃんと話ができるのは、
この劣化した色味を除去してからなのだ。

さて、それは誰が?
といえば、経験がある凸版印刷の藤井さんしか居ない、
ということで、びよよよよんっと白羽の矢がささり、
炎の赤字をいれたのであった。
これが、前回までのおさらいである。

まず、その炎っぷりをご覧いただこうか。




▲指示しまくりである。

▲ゴミとりまくりである。

そうそう、色味の調整とともに、もうひとつ、
当時の印刷のノイズもこの機会に除去する必要がある。

スキャンして出てきた校正紙にある、キズは、
原画にあったものなのか? 印刷のときにできたものなのか?
はたまた、絵本になってからついたものなのか?
スキャンのときについたものなのか?
それも、細かく検証していった。


▲例えば、このページである。
 Qのような記号は、ゴミをトルという指示である。
さらに拡大してみよう。
上から順に、校正紙、絵本1、絵本2である。
(絵本のほうは、スキャンにつかったものでは無いが、
 説明のためのサンプルとして用意した。)
赤い◯が三つあるのにご注目を。

▲校正紙

▲絵本 1

▲絵本 2

まず1の丸。これは校正紙にゴミが見受けられるが、
絵本の1にも絵本の2にもないので、
スキャンしたときか、
もしくは校正紙にプリントしたときにできたゴミである。
だから、トル。

2の丸、3の丸は一つの例である。
絵本1にあって、絵本2にないキズだとしたら、
それは、原画にそのキズはなかった、と判断ができる。
もしも、印刷にこのキズがあれば、それはトルという指示になる。

原画にある色の滲みやゴミにみえるものまでを
主観的な判断で取り払ってしまわないように、
つねに、元の絵本を2冊手元において、検証していったのである。
(解体されたものと、もう一冊である)

このようにして赤字をいれて
ノイズを除去した校正紙が再度でてきて、
ようやくデザイナーの清水さんと色の話ができるのだ。

たとえば、このページ。


▲左が絵本。右が藤井さんの炎の赤字をいれた初校。
 そして、真ん中がその赤字を反映した再校である。
この3枚を見比べて、原本の色味により近くするために
こんどはデザイナーの清水さん、編集の永田と一緒に
赤字をいれていく。

▲じゃっかん全員の顔が「ダメ」な状態なのは、
 この日、この時点でかなり夜が老けていたからだ。

そして、さらに同時にもう一つ復刻にあたってやったことがある。

またまた印刷の話になってしまって恐縮だが、
続けよう。
じつは、本をつくるときの印刷というのは、
出来上がりの寸法よりも、
まわりを3ミリづつ長くしたものをプリントする。
つまり、入稿されるデータは、実際の本の大きさより、
3ミリばかりおおきいものなのだ。

何故かといえば、本にするときには
ページごとに印刷された紙を本のサイズに
断裁していかなければならない。
このとき、ジャストの本のサイズでプリントしてしまうと、
断裁のときに、ほんの少しの誤差がでただけでも、
印刷されていない白い部分がページに入ってしまう。
だから、最低でも3ミリのばして、
断裁したときの誤差があった場合の
帳尻をあわせるのである。

つまり‥‥。

この野球場のページをご覧いただこう。
こちらの右側が、
本の大きさにカットしたときの絵の具合である。
原稿の段階では、この右側よりも3ミリばかり
余計になくてはならないのだ。

ここで思い出していただきたいのである。
われわれは、データをどうやってつくったかというと、
絵本をスキャンした、ということを。
それはつまり、印刷されていた外側の3ミリの絵の部分は
とうの昔に断裁されてしまっているということなのだ。
理屈から行けば、復刻版は周囲が3ミリばかり短いという
絵本にならなくてはいけない。

が、今回は「完全復刻」を目指しているのだ。
だから、周囲が3ミリばかり短い絵本をつくるわけにはいかない。

どうしたのか?
凸版さんが3ミリ伸ばしたのである。

それがこれだ。
上の絵と比べるとわかるが、スコアボードが伸びているはずだ。

▲左が絵本のサイズにカットされているもの。
 右がカットされていないもの。

じゃっかん、この3ミリ分を作る、というのは、
すっきりしない気持ちが生じなくもないのだが、
なにせ、その3ミリは万が一の誤差のためであり、
ほぼ間違いなく切り落とされてしまう部分なのである。
凸版印刷には、この作業の
プロフェッショナルがおられるとのことである。
この作業を全てのページにわたっておこなった。
(もちろんベタで一色のページも多いのだが、
 数ページは、このように絵を塗りたしてある。)

最初のほうは、「解体ショー」などといって、
たいへん派手な復刻の道筋でしたが、
終盤にかけてのコツコツっぷりはどうよ。
と、胸をはりたいくらいのコツコツぷりである。

そして、いよいよ次回は、校了を迎える。
つまり、長かった連載も、次回が最終回である。

(もちろん、つづく)
2011-04-20-WED
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