PHILADELPHIA
遙か彼方で働くひとよ。
ニューヨークの病院からの手紙。

手紙152 訪問診療・7
ニューヨーク(4) Home Health Aide



こんにちは。

このところ
ニューヨークの一人暮しのお年寄りが利用できる、
生活に根ざしたサービスについて
お伝えしています。

自由に外出するのが難しくなったり
お買い物に行けなくなったり、
自分で食事の支度ができなくなったり、というように、
体の機能が少しずつ変わってくるために
これまでできていたことが、
だんだん難しくなってくることがあります。

力を貸してくれる家族や友達が近くにいる
幸運な例もありますが、
そのような助けが求められない方々も
もちろんたくさんいらっしゃいます。

医学的にみて、もう自宅で暮らすのは無理だろう、と
考えられるお年寄りには
ナーシング・ホーム、
いわゆる老人ホームをお勧めしますが、
多くの方々は
できる限り自宅で過ごすことを望んでいます。

そのような方々に向けての
生活のサポートのしくみについて、
今日はお伝えしようと思います。

読んでくださっている方の中には
マンハッタンの歩道や公園で
お年寄りに付き添って歩いている若い人を
見かけたことがある方もいらっしゃるかもしれません。

もし、それが親子や孫、という感じには見えないときには、
この二人組みは、多くの場合、
ホーム・ヘルス・エイド、とかホーム・アテンダントと呼ばれる
職業としてお年寄りの世話を引き受けている人たちです。

着替えを手伝ったり、お風呂に入るのを助けたり、
代わりに買い物に出かけたり、
食事の支度やお掃除をしたり、
散歩や病院へ行くのに付き添ったり、というように、
彼女たち(大多数のエイドは女性です)は
お年寄りの日常生活をきめこまかく支えています。

この職業には厳格な線引きがあって、
お年寄りに専門的な看護の必要がある場合には
手を出すことができず、
少し違った職種・ナースが引き受けることになっています。

『専門的な看護』というのには
薬をお年寄りに渡す、というのも含まれています。

エイドが薬をお年寄りに手渡すことは許されていなくて、
「お薬飲んでくださいね」と
薬のいれものの蓋をあけて、テーブルの上に並べ、
本人に、『薬を飲むことを思い出させる』ところまでしか
できないのだそうです。

最初に聞いたときには、
「ずいぶん細かい決まりだな」と思ったのですが
これは、一般に、医学の知識があまりないエイドが
誤った薬を渡してしまうことを防ぐためのようです。

職業に必要な資格を細かく定め、
エイドが誤った薬を渡すのは許されないが、
本人が自己責任のもとに
間違った量の薬を飲んでしまうのは仕方ない、という考えは
この国のありようを、よく現していると思います。

さきほど、
『それが親子や孫、という感じには見えない二人組み』、と
ご紹介しましたが、
これは、もっと率直にいうと
生物学的な人種が全然違う組み合わせ、ということです。

アメリカのどの街もそうであるように、
ニューヨークでも
地域によって、住民の社会的な階層や人種が
大きく異なります。

わたしたちが訪問する地域では、
患者さんの多くは白人の米国人で、
そのお世話をしているエイドは
移民、もしくは外国からの出稼ぎという例がよくあります。

南米や東欧出身のエイドが多いそうですが、
いつも一緒に仕事をしている看護婦さんによると、
在米(もしくは違法滞在中)のポーランド人には
ものすごい地下コネクションがあって、
エイドの仕事を斡旋しあっているのだそうです。

実際にわたしも
10年以上、毎月ポーランドへ送金を続けている
エイドの女性の話を聞く機会がありました。

さて、ちょっと長くなってしまいましたが、
これが、お年寄りの日常生活を助けてくれる
ホーム・ヘルス・エイドの仕事のおおまかな内容です。

もちろん、Life Lineと同じように
このエイドも
残念ながら、いくつかの問題を抱えています。

次回は、そういったことを
少しご紹介しようかと思っています。

では、今日はこの辺で。
みなさま、どうぞお元気で。

本田美和子

2002-07-23-TUE

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