糸井 |
若いころから
「こんなもんでいいや」
というようなことをやっていたら、
きっと、いまもそうなっているんでしょうね。
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増田 |
うん‥‥そうなんでしょうねぇ。
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糸井 |
ぼくはクチパクのステージも、
振りを間違えてごめんなさい、というのも、
観たことがあります。
いまの時代って、
「そういうのも、生っぽくていいじゃない」
というところがあります。
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増田 |
うん。
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糸井 |
だけど、ぼくがこの前観た
ピンク・レディーのステージは、
そういうことを
絶対許しませんからね、
ということになっていました。
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増田 |
ははははは。
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糸井 |
逆に言うと、
お客さんにも許してないですよね?
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増田 |
あ、そうかもしれない。
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糸井 |
お客、ぜんぜん
息抜いてないですよ。
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一同 |
(笑)
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増田 |
だってね、お客さん全員が、
「ペッパーーーーーーーー」
ってやるんですよ。
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一同 |
(笑)
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増田 |
もうねぇ‥‥!!
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糸井 |
お客、息切れてたよ。
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増田 |
しかも狭い客席で
みなさん上手に歌って踊るんです。
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糸井 |
そういうお客さんですから、
みんな常連さんだと思うでしょ?
そうじゃないんだ。
「今日はじめて来た人!」
と訊かれたら、どーっと手を挙げてました。
あれは驚いた。
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増田 |
昔は、私たちの歌にあわせて
みなさん一生懸命コールして
応援してくださいました。
あとは「おおー」とか「わぁー」とか言って
ごらんになってた。
一緒に踊る人なんて、いなかったです。
でもいまは、客席がほぼ全員、
同じ振りをして同じように歌ってくれる。
あれをステージから見ることができる、
このしあわせというのは、もう、ないです。
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糸井 |
うん‥‥ぼくもそう思った。
あれを見る観客は
ミーちゃんとケイちゃんだけなんだ、と。
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増田 |
そうなんです。
ほんとにしあわせです。
ステージでお客さんを見るから、
余計にがんばれちゃう。
生きててよかった、とほんとうに思います。
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糸井 |
うん、それは
こころから思ってるみたいだし、
お客さんにも伝わりますね。
なんというのかな‥‥、
「芸能の口のきき方」というのがあって、
サンキューとか、今日はありがとうとか、
どんなふうにだって言えるんです。
だけど、この人たちが
生きててよかった、と言っているのは、
本気だなぁと思うから、
お客さんもうれしいんですよ。
だけどあれ、終わったら、
バタンキューでしょ。
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増田 |
終わったときの後ろ姿は
見ないでほしいです。
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一同 |
(笑)
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増田 |
別人になっちゃいますから。
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糸井 |
そこまで。
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増田 |
はい。ステージの上ではおそらく
53歳には見えないと思うんですが。
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糸井 |
見えないです。
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増田 |
終わったあとの後ろ姿はたぶん
70歳ぐらいです。
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糸井 |
だけどそのあと、ぼくらが楽屋に
ご挨拶にいったときは
興奮さめやらぬ感じで
しゃきんとしてらっしゃいましたよ。
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増田 |
そうですね、楽屋では
恍惚感に包まれているかもしれない。
あの日、糸井さんたちが帰られたあと、
スーツケースを地べたに置いて、
楽屋の荷物をしまいはじめたんですね。
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糸井 |
はい。
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増田 |
そしたら、なんだか知らないけど、
すごくしあわせな気持ちになっちゃって
泣き出しちゃったんです。
いつもは、大きなテーブルの上に
スーツケースを乗っけて
何の気なしに片づけるんですが、
あの日の楽屋はたまたまテーブルがなくて
床で荷物の整理をしました。
もしかしたら、その姿勢と行為が
そうさせたのかもしれないけど、
なんだかすごくうれしくなって、
「なんてしあわせな人間なんだろう」と思って
泣いてしまいました。
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糸井 |
あのような経験をした人だったら
そんなことはきっとあると思います。
あのね、それについて、ぼくはこう思ってる。
ピンク・レディーって、
ふたりじゃないんですよね。
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増田 |
ああ、ふたりじゃないです。
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糸井 |
何百万人が
ピンク・レディーなんですよね。
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増田 |
はい、そのとおりです。
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糸井 |
そのなかの「わたしたち」が
立たないとはじまらないから、
ステージに立つ。
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増田 |
そう。立ってるだけで。
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糸井 |
ねぇ?
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増田 |
はい。
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糸井 |
お客さんももちろんそうだし、
さっきケイちゃんが言ってた
いろんなスタッフが亡くなっていくときに受けた
大きなショックも、
そこまでが全部ピンク・レディーだったから。
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増田 |
ああ、そうなんでしょうね。
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糸井 |
一座ですね。
「ピンク・レディー」一座。
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増田 |
観客もいっしょの一座。
みんな「お客さん」に
なってないですから。
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糸井 |
そうですよね。
(つづきます) |