増田 今回のツアーでは、オープニングで、
「マンデー・モナリザ・クラブ」という
歌を歌っています。
これはシングルで出した曲だったんですが、
2週間しか歌えなくて
セールスとしてはあまり売れませんでした。
この前奏で、お客さんの手拍子が──、
どれだけ期待しているかがわかるような
2000人分くらいの手拍子が、
聞こえてくるわけですよ。
怖いです。
糸井 うん(笑)。
増田 「お願いだから、静かにときを待って。
 今日はそんなにがんばれるかどうか
 わからないから」
と思う。
だけど、すっごく盛り上がってる。
糸井 そうです、そうです。
増田 舞台に姿を見せた瞬間、
「ぐわぁー」というお客さんの声で
自分たちが持っていかれる感じがあります。
何かにしがみついてないといけないような
気持ちになっちゃいます。
糸井 うん。
増田 でも、その気迫に負けないように
オープニングを‥‥
糸井 クールにね。
増田 クールに(笑)。
だからふたりでいつも、
「だんだんにね」と声を掛け合いました。
「だんだんに行こうね」と言いつつも
お客さんが見えると
わけがわかんなくなっちゃいます。
糸井 大人の熱気って怖いですよね。
増田 怖いですよ。
一同 (笑)
増田 お客さんは、みんな
「たのしませてくれるでしょうねっ!」
という感じなんです。
糸井 ほんと、ほんと、この前もそうだったもん。
増田 「お願いだから、手抜かないでよ」
という感じに思えて。
糸井 いやぁ、ぼくらも
ピンク・レディーって、もっと
おもちゃっぽいものだと
思ってたはずなんですよ。
でも、それは大違いだった。
あれから何十年経っても
そこに期待されているものがあって、
それはおもちゃじゃない、生身のものです。
増田 たぶん昔は
そういう期待感はなかったような気がする。
糸井 そうじゃなかったの?
増田 昔は、月曜から金曜までの
ハードなスケジュールを終えて
週末、地方に行ってステージに立ちました。
そこで、お客さまの熱気を感じて
「あ、こんなに大勢の人たちが
 応援してくれてるんだ」
ということを実感します。
「よーし、こんなに応援してくれてるんだ、
 また月曜から金曜の仕事をがんばろう」
と思っていました。

しかし、今回はもう、
応援とかいうんじゃありません。
「あたしたちが、たのしませてもらうのよっ!」
「6800円払ってんだから!」
「元気にさせてちょうだいっ!」
というような感じですよ。
一同 (笑)
糸井 いや‥‥ほんとに、そうかもしれない。
種類が違うのかもね。
増田 ぜんぜん違います。
お客さんは、ある程度の年を
重ねている方です。
ちいさな子どもたちもいますけど、
ほとんどが40代50代、もっと上の世代、
そういう、人生の山あり谷ありを経験した方々が
「ただでは帰らないわよっ」
「そんじょそこらのことじゃ納得しないわよっ」
と言っている。
糸井 ほんとの意味で、もとを取ろうとしてますね。
「伊達に客席で
 スパンコール着てきてないからねっ!」
増田 そう。
「あたしだって足出してるんだから!」
一同 (笑)
糸井 そういえば、ホールの入場の列では
みなさん、日常生活のまま
静かにしていらっしゃったんです。
それが、客席に入ると
「さ、いくわよ」という感じで着がえて、
まるで仕事のようでした。
増田 みなさん、着がえをちょっとしたバックに
入れて持ち込まれるんです。
頭にキラキラした
カチューシャをつける方もいれば
スパンコールのすごい衣装を
まとっている方もいる。
糸井 ミニスカートだもんね。
増田 トイレをはじめ、いろんな場所で着がえます。
暗転すると客席でそのまま違う衣装に
着がえたりしてるんですよ。
一同 ええー!
増田 「あれ? さっきサウスポーの衣装着てたのに、
 カメレオンの衣装着てる!」
というお客さんもいます。
糸井 昔はどうでした?
増田 昔は衣装着てる人なんか
いませんでした。
糸井 そうか、やっぱり(笑)。
増田 いま、私たちのコンサートは、
「観に行く」んじゃなくて、
「参戦する」っていうみたい。
糸井 うん、そのにおいはしますよ。
やっぱりおふたりは、
人身御供なんですね。
火を焚いて、真ん中に鍋置いて
ドンドコドコドコ
みんなで
「ペッパーーーーー!!」
増田 そう。みんな
「燃えろ、燃えろ!」
みたいな感じです。
糸井 部族の祭りのようなもの。
そんな集いを主催したり
受け止めるのは
やっぱり若い子たちには無理です。
もしあそこに昔の
ピンク・レディーが立ったら、
気圧されちゃうかもね。
増田 そうですね、たぶん。
糸井 でも、いまのピンク・レディーだったら
「私、負けてないわよ」でしょ?
増田 もちろん。
だって、私たちにだって
みんなと同じ30年が流れています。
熱気に打ち勝てるかどうか
わからないけど
応えるだけのものはあるわよ、と思っています。
糸井 自分をつくってきた時間は、見えないけど
ものすごく自分を支えますよね。
増田 はい。
いいことも悪いことも。

(つづきます)

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2011-09-09-FRI