• 本気の「ごっこ」。

    『どうぶつの森』シリーズを遊んでいると、
    つい、本気になって考えてしまう。
    いや、おもしろいゲームを本気で遊ぶという
    ふつうのことではなくて、
    思考として日常的な真剣さで
    事に当たってしまう、ということである。
    夢の中で、とても不条理な状況なのに
    すごく真面目に考えて
    ふつうの受け答えをしてしまう、というのと近い。

    たとえば、「こどもがのびのび遊べる家」
    というようなことをリクエストされて
    ひとつひとつの家具を選んでいるときに、
    どうしても「これじゃ危ないな」
    という考えが頭から離れない。
    テーブルひとつ選ぶにしても、
    安定していて、角のないものを選んでしまう。
    この電気スタンドはかわいいけど、
    ひっくり返しちゃうだろ、という気持ちが消えない。
    花も飾りたいけど、危ないよなあ、
    せめて机の上に乗せて伝い歩きのときに
    手に届かないようにしようか、などと考えてしまう。

    良識のある常識人を気取りたいわけではない。
    むしろ、ゲームの中の要素をたのしむために、
    いろいろはっちゃけたい、という欲すらある。

    けれども、どうしても、思考がふつうである。
    「学校」をつくれ、といわれると、
    掲示物は目に見える場所に貼りたくなるし、
    イスを置くならイスを引くスペースを確保したいし、
    文字を書くときに手の影がじゃまにならないように
    黒板は窓に向かって教室の右側に据えたくなる。
    だから、いつも、仕上がりが「ふつう」だ。
    たまに突飛な部屋もつくってみようとするが、
    やっぱりいつもの「ふつう」に落ち着く。

    『ハッピーホームデザイナー』だけでなく、
    『どうぶつの森』シリーズ全般において、
    いつもぼくはこのあたりの
    「ふつう」と「突飛」を
    ゲームの序盤に何回か行き来したあと、
    やっぱり、どうしても、
    「ふつう」にしみじみとした喜びを感じて
    そちらを選ぶことになる。
    自分はこちらがいいのだ、と。
    それは、「シンプルで無難」というような
    デザインとしての「ふつう」ではなく、
    思考の筋道としての「ふつう」である。
    「ふつう」だから選ぶというよりも、
    違う道を目指すと「ムリ」をしなければならない。
    「ムリ」は心地よくない。

    けっきょく、ぼくは、どのゲームにおいても、
    「その世界にのめり込みたい」のである。
    その世界にのめり込むということは、
    「その世界のなかで
     本気で自分として振る舞う」
    ということであると思う。
    たとえば『MOTHER2』であれば
    裏庭に隕石が落ちてびっくりした少年として
    どう行動するだろうか、ということが軸となる。
    『ストII』であれば、気合いを入れれば
    両の手から波動のかたまりを打ち出すことができる
    努力の空手家としてそこに立っていたい。
    いや、笑い話みたいだけど、そうなのだ。
    だからこそ、マリオで予期せぬ奈落に落ちたときは
    お尻のあたりがヒヤッとしてしまうのだ。

    究極、それは、「ごっこ」であるのだろう。
    このゲームに限らず、ビデオゲームというのは
    だいたいぜんぶ「ごっこ」である。
    いや、ゲームに限らず、
    感情を移入してたのしむということでいえば、
    映画もマンガも小説もだいたいぜんぶ
    「ごっこ」としての側面を強く持っている。

    あらゆる「ごっこ」は、
    入口の垣根を跳び越えてそこへ入ったからには、
    本気で「ごっこ」をしないとおもしろくない。
    鬼ごっこは、本気で鬼に追いかけられている
    と思うからこそおもしろい。
    背後から、角を生やし、金棒を持ち、
    いくらはいても破れない虎のパンツをはいた‥‥
    いや、これは違うぞ、
    「鬼ごっこ」の「鬼」は
    「オニ」であって断じて「鬼」ではない。
    「鬼ごっこ」の「鬼」を
    日本マンガ昔ばなし風の「鬼」にした場合は、
    「ごっこ」の根本の世界観が変わってしまう。
    否! 「鬼ごっこ」の話をしたいわけではない。

    またやってしまったという感じで
    盛大に脱線しつつあるが、
    脱線ついでに寄り道して
    そこを経由しつつ本道を目指すとすると、
    ほぼ日刊イトイ新聞のコンテンツに、
    「気まぐれラジお」というものがある。
    これは、弊社の乗組員、山下とぼくが
    (あと、乱入してくる糸井重里が)
    ユーストリームの配信システムをつかって
    擬似的なラジオ風生中継をお届けするというもので
    ずばり、ページのド頭にも
    「ラジオごっこ」と名言してある。

    この企画を練り上げていく段階で、
    ぼくと山下はしばしば
    「ほんとにこれはラジオごっこだね」と話し、
    だとすれば、本気でラジオ風にすればするほど
    遊びとしてはおもしろくなると確認しあった。
    だから、合間に曲を流すようにしたし、
    メールを募集してそれを読み上げ、
    特別なステッカーをわざわざつくって、
    リスナーにプレゼントすることにした。
    あと、とくにコンテンツには表れてはいないけれど、
    じつはぼくらが放送室としてつかっている会議室は、
    生放送中、照明を蛍光灯から
    天井に吊すタイプのLEDライトに切り替えて、
    ラジオブース風にしている。
    そのLEDライトをどうしているかというと、
    放送前にわざわざぼくと山下が
    会議室の天井に取りつけているのである。
    なぜなら「ごっこは本気がおもしろい」からである。

    この「ラジオごっこ」に限らず、
    ほぼ日のコンテンツは、わりと多くのものが、
    構造として「ごっこ」を含むとぼくは思っている。
    もちろん、そのひとつひとつの「ごっこ」に
    本気で取り組むからこそ、
    お客さんに「ごっこ」を超えて
    おもしろがってもらえるのだと思う。

    余談の余談だけれども、
    つくるにしても、遊ぶにしても、
    「ごっこ」に「本気」で取り組むには、
    自分と同じ純度の「本気」を持った
    「ごっこ仲間」の存在が欠かせない。
    だって、「本気のごっこ」の最中に
    「所詮、ごっこじゃん?」という人が混ざると
    ややこしいし、娯楽の効率が落ちてしまう。

    さて、逸れた放物線をゆるやかにもどしながら
    もうひとつつけ加えるとすると、
    自分がなにかをはじめるときに、
    あるいは、そこに参加する人を集めるときに、
    「ごっこ」というのはとても都合がいい。
    いきなり本気で「野球の大会に出よう」というよりも
    「キャッチボールっておもしろいよ」と誘うほうが、
    言うほうも言われるほうも摩擦が少ない。
    同様に、『どうぶつの森』や
    『ハッピーホームデザイナー』も、
    入口で人々に呼びかけるときのテイストが
    「コミュニティ構築シミュレーション」
    というようなことではなく、
    「お店屋さんごっこ」だったり、
    「スタイリストごっこ」だったりするから、
    こんなにもたくさんの人が
    この世界に入り込んでいるのだと思う。
    (もっというと、
     「おもしろいゲームですよ!」という入口だって、
     ゲームをしない人にとっては高い敷居だ)

    つまり、入口や表層においては、
    「丁寧なごっこ」として振る舞い、
    いったん、「ごっこ」をはじめてからは、
    「本気」で取り組むことによって、
    本質的なおもしろさが深まっていく。
    いいゲームって、
    いつの時代も、どの規模のものも、
    そういうかたちをとっているんじゃないだろうか。

    ああ、すみません、長いですね。
    『どうぶつの森』や
    『ハッピーホームデザイナー』における、
    「いつもふつうなオレ」は
    「いつも本気」だからこそ、
    こうなっちゃうんだよなぁ、と思って、
    そのことを書こうとしただけなのです。

    あ、そういう意味では、今回、
    『どうぶつの森』の二度目のプレイを
    女性の自分としてはじめたというのは、
    ちょっとばかし反省点なんだよなぁ‥‥。

    それでは、また。
    今度はみじかく書きます。

    2015/09/09 18:00

『とびだせ どうぶつの森』とは?

どうぶつたちの暮らす森の一員となって、毎日、たのしく過ごします。じぶんの部屋を広くしたり、家具をそろえたり、着替えたり、釣りをしたり、化石を掘ったり、おしゃべりしたり、ほかの人の住む村に電車で遊びに行ったり‥‥。1年365日、リアルタイムに時間が流れるなかで、のんびり過ごすもよし、目的に向かってがんばるもよし。ニンテンドー3DS用ソフトとして2012年に発売されて以降、長く売れ続けているゲームです。

とびだせ どうぶつの森

発売日:2012年11月8日
希望小売価格:4,571円(税別)
プレイ人数:1人(通信プレイ時2〜4人)