HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN

編んで着て(ときどき)うろちょろするわたし

ニットデザイナー・三國万里子さんが
日々のあれこれを写真と文章でお届けします。
編みものの話はもちろん、洋服のことや
街で見かけた気になるものなど、テーマはさまざま。
三國さんの目を通して世界をのぞくと、
なんでもないことにたのしさを見いだせたり、
ものづくりへの意欲を呼び起こせたりする‥‥かも?
期間限定、毎週火曜と金曜に更新予定です。

三國万里子さんのプロフィール

2018-12-07

今日は「うろちょろ」。
わたしがときどき楽しみに出かける
古道具と雑貨のお店、
SAML.WALTZ(サムエル・ワルツ)」をご紹介します。

お店の場所は、吉祥寺市の本町。
駅から歩くと10分くらいの距離でしょうか。
吉祥寺駅を北口で降りて
東急百貨店の先の道を左に入り、
輸入玩具の「ニキティキ」を過ぎて、
少し行った右手のビルの2階に
このお店はあります。
吉祥寺はよく行くけれど、
あの辺りにそんなお店あったっけ?
と思う方もいらっしゃるかもしれませんね。
たしかに「サムエル・ワルツ」は
少し見つけにくいお店です。
開けているのは金曜、土曜、日曜と
国民の祝日だけですし、
看板が控えめなので、開いている日でも
見過ごして通り過ぎてしまう可能性もあります。

そのお陰なのか、だいたいいつ伺っても
それほど店内が混んでいることはありません。
ゆったりと一つ一つの品物を見せてもらって、
店主の保里(ほり)さんがいらっしゃる時には
買い付けや、物の修理などについての
興味深いお話を、色々と聞かせていただいています。

お店に並んでいるのは、
8割がたが、古いもの。
保里さんがイギリスや北欧で買い付けてきた
食器や照明といった道具、
オブジェにギターなどです。
わたしがそれら、保里さんの目が通ったものたちに触れて
しばしば感じるのは、
静かなユーモアと生真面目さです。

たとえば人間になぞらえてみると、
そういう人、思い当たりませんか?
物静かで優しくて、時々おかしな冗談を言うような人。
友達になってほしいタイプ。
そういうキャラクターを持っているということは、
ものが人の生活の中で役に立ちつづけるために、
とても大切なことではないかという気がします。
わたしたちは、友達や家族と付き合いながら
少しずつ影響を受けていくように、
ものからも毎日影響を受けながら、生きていますからね。

さて、少し写真の説明を。
まず、この陶製のカブトムシは
フィンランドの陶器メーカー、
ARABIA社が50〜60年くらい前に
作っていたオブジェで、
Taisto Kaasinenという
デザイナーによるものだそうです。

お父さん、お母さんと
こどもカブト、といったところでしょうか。
家族3匹合わせても
片手に載るくらいの大きさです。
つやつやでずんぐりしていて、とてもかわいい。
こういうちょっと男の子っぱい
ものが多いのも、このお店の特徴だと思います。

鹿が描かれたお皿はロールストランド社のもので、
100年くらい前のもの、とのこと。
一人暮らしの人がこれを買って行って、
あんまり気に入りすぎて、
毎日何でもこれに盛り付けて食べる、
なんていう図を想像します。
大きめのカレー皿くらいのサイズです。

革製の小さい手帳はスウェーデンのもので、
中に格言らしい文章が載っていたり、
イラストが入っていたり、
作られた場所や時代を感じさせて、おもしろい。
「お店が顧客に配ったものじゃないかな」、と保里さん。

リビングで音楽を楽しむために作られた
小ぶりな「パーラーギター」を抱える保里さん。
この時はビートルズの「Black Bird」を
少し弾いてみせてくれたのですが、
それはそれは優しい音色で、とても素敵でした。

この写真を撮った日に、
わたしもいいものをふたつ買いました。
どちらもスウェーデンで作られたもので、
ひとつは手彫りの木のスプーンと、
もうひとつは銅製のお菓子の型です。

スプーンは、なんと柄の先に
小さなボールがくりぬかれて収まっています。
食べ物をすくう「皿」の部分には、
野ばららしい模様が彫ってあって、
スプーン一本を花に見立ててるようにも思えます。
わたしはこれを、我が家でよく作る
煮豆を取り分けるのに使うことにしました。

お菓子の型の方は、懐かしい物語の
1シーンがレリーフとして打ち出されています。
童話『ニルスのふしぎな旅』の、
ニルスとガチョウのモルテンです。
ニルスを乗せて飛ぶモルテンの
表情と姿が一生懸命でいじらしく、ひと目で惹かれました。
ただ、わたしはお菓子はあまり作らないのです。
どうしよう。
かわいいというだけで買って行ってもいいものだろうか。
あるはっきりした用途のために作られたものなのに。
こういう場合、わたしはあきらめることもよくあるのですが、
今回は買いました。
用途は後で考えればいい、ということにしたのです。

家に戻り、さっそくこれを片手に
部屋の中を歩きまわりました。
自分が朝起きてから夜寝るまでの間にすることを、
一つずつ思い浮かべながら。
直径8センチ強の浅い金属製の容器を使う機会は、
わたしの生活のどこかに、あるかな……?
うれしいことに、わりとすぐにそれは見つかりました。
仕事中に飲むコーヒーを入れる、
マグカップのカバーになってもらえるといい。
編みものをしながらコーヒーを飲むと、
時々毛糸の埃がカップに入ってしまうのが、
長年のちょっとした困りごとだったのです。
試しに愛用のマグにかぱっとかぶせると、やっぱり!
あつらえたよう、とまではいきませんが、
なかなかいい塩梅です。
それからというもの毎日、
編みながらコーヒーを飲むときには
このニルスとガチョウのモルテンに
マグカップを守ってもらっています。

こんな小さいものではあっても、
昔の人たちが込めた、
「いいものにしよう、人を和ませよう」という気持ちは、
古くなることで失われるのではなく、
時間を経て一層よく見えてくるような気がします。
また、そういう気持ちとともに作られたものだからこそ
人に大切にされて残って、
保里さんのような目の利く人に、もう一度、
違う場所での生かされ方を与えられるのでしょうね。
そばに置いて使えることがありがたい。
ものに日々励まされて、わたしもものを作るのですよ。