HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN

編んで着て(ときどき)うろちょろするわたし

ニットデザイナー・三國万里子さんが
日々のあれこれを写真と文章でお届けします。
編みものの話はもちろん、洋服のことや
街で見かけた気になるものなど、テーマはさまざま。
三國さんの目を通して世界をのぞくと、
なんでもないことにたのしさを見いだせたり、
ものづくりへの意欲を呼び起こせたりする‥‥かも?
期間限定、毎週火曜と金曜に更新予定です。

三國万里子さんのプロフィール

2018-12-11

突然ですが、今回のコーディネートのテーマは
「忘年会に向かう現代の魔女」です。
ライトな「ゴスのコスプレ」でもありますね。
ひたひたと日常を生きるわたしたちにも、
時にはなりきりプレイ(演劇)をする
シチュエーションがあるといいと思うんですよ。
年の暮れ、電飾に彩られた魔都、東京の夜に
こんなカラスみたいな格好をして出かけて行く。
忘年会で待ち合わせる相手は
古馴染みの友達だから、
まあ理解はせずとも
おもしろがってくれることでしょう。

今回はケープ(写真2枚目の上衣)とパンツが黒のため、
iPhoneのカラーモードで写真を撮ったら
色が潰れてぺったりしてしまったのですが、
試しにモノトーンモードにしたら
質感や「おうとつ」がはっきりと出ました。
ちゃんとしたカメラは、わたし、
全く扱えないんですけどね。
iPhoneXは、優秀です。

さて個々のアイテムについて簡単にご説明します。
今回の主役は先述したウール地の黒いケープ。
100年ほど昔のフランスのものです。
巧みなフリルの使い方と、
(ヨーロッパ人の中では比較的小柄な)
フランス人女性の上半身をきゅっと抱きしめるような
立体的なカッティングの妙があいまって、
とてもドラマティックで美しい。
アートピースと言っていいような、
たまに取り出しては飽かずに眺める、大好きな服です。

上半身のベースに着たのは、
ケープと同時代のフランスのブラウス。
きめの細かいコットン地で襟はスタンドカラー、
写真には写っていませんが、
身頃におそろしく繊細なピンタックが施されています。
その上にmiknitsのフェアアイル編みのベスト、「tie」。
蝶ネクタイの柄のニット地が、
モノトーンの布帛の組み合わせに
愛嬌を添えてくれます。
ボトムは同じくフランスのブランド、
Chloe(クロエ、eの上にアクセント記号がつきます)の
ハーレムパンツで、上半身と
ボリュームのバランスをとります。

襟元につけたブローチは、
イギリスのジョージ王朝時代に作られた
銀の小さなネズミ。
このコーディネートでは魔女の「使い魔」という設定です。
体長4.5センチ、うちしっぽは2.5センチで、
胴体には直径0.2センチほどのペーストグラスが
一面に爪留めされています。
目もガラス製で、(写真には写っていませんが)
右目だけなぜか深い赤色なのは、
魔女の心をさっと読み取り、
自分たちの道行きに潜む小さな障害を
先回りして取り除いてゆくために
違いありません。

足元は、これもフランスのブランド、
Isabel Marant のレースアップのぺたんこ靴。
ハトメから差し込む光が作る影が美しくて、
いつもは本棚に飾って満足しているのですが、
忘年会のときくらいは履くことにしましょう。

そう。忘年会ですもの、
持ち物はiPhone と財布だけと決めて、
ポートランドのヴィンテージショップで買った
ビーズの小さなパーティーバッグを肩に下げ、
仕上げにロンドンの
ヴィクトリア・アンド・アルバート・ミュージアムで買った
フェイクファーのピルボックス・ハットをかぶります。

書いているうちに気分が盛り上がってきました。
何はともあれ、友達を忘年会に誘わなきゃ。