HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN

編んで着て(ときどき)うろちょろするわたし

ニットデザイナー・三國万里子さんが
日々のあれこれを写真と文章でお届けします。
編みものの話はもちろん、洋服のことや
街で見かけた気になるものなど、テーマはさまざま。
三國さんの目を通して世界をのぞくと、
なんでもないことにたのしさを見いだせたり、
ものづくりへの意欲を呼び起こせたりする‥‥かも?
期間限定、毎週火曜と金曜に更新予定です。

三國万里子さんのプロフィール

2018-12-14

わたしの住むマンションから20分ほどのところに
広い池を囲む、森のような公園があります。
わたしはじぶん一人でそこを
「リトル尾瀬」と呼んでいるのですが、
野生の水鳥の種類が多く、
運が良ければ手のひらほどの大きさの
メタリックな青いカワセミが、
池に差し伸べられた枝の上で
すましている姿も見られます。
休日はこれらの鳥を撮影に訪れる人々で
池を囲む細い木道がいっぱいになることもありますが、
平日は程よく静か。
池の端のメタセコイヤの下にイーゼルを並べ、
対岸の弁天堂を描く人々に混じり、
わたしもベンチに腰をかけて編みものをします。
持参した魔法瓶のコーヒーをカップに移し、
西荻窪の焼き菓子屋さんで買った
レモングレーズケーキを少しずつかじるのも楽しみです。

今日は「アランのケーブルキャップ」のような
ニット小物に使えそうなパターンを、
古い編みもの本から拾い出して
スワッチを編みましたよ。
こんな日に着るのは、
のびのびと動けて仕事がしやすく、
たくさんのケーブル柄が暖かい空気の層を作ってくれる、
Miknitsのropes
ボトムはAKANE UTSUNOMIYAの、
黄色と黒の対比が目を引く
ガンクラブチェックの
ウールスカートにしました。
このスカートは
ポケットの生地がヘリンボーン柄に
切り替わっているのが楽しく、
すっきりとした形もきれい。
はいているとよく誉められる、
びじんさんです。

今日のアクセサリーは、少し風変わりな蝶のペンダント。
購入した骨董屋さんによると、
ヴィエナ・ブロンズ(ウイーン発祥の
ブロンズ細工の工芸品)というもので、
現し身(うつしみ)では儚いモンシロチョウも、
ほぼ、100年以上昔に作られたという
当時のままの姿をとどめています。
そもそもは職人が「リアルさ」を
追求してこの姿になったのでしょうが、
そこに経年によって寂びた落ち着きが加わり、
今はおそらく、新品の時より身につけやすい。
ただこの蝶々、背中のみならず、
お腹の方もばっちりとリアルに作られていて、
虫が苦手な方には「おっとっと」、
という感じかもしれません。

モンシロチョウはさなぎの姿で越冬するとか。
「リトル尾瀬」の周りには、地区特産の大根畑も広がっているので、
今頃きっとたくさんの蝶が、深い眠りの中にいることでしょう。
彼らはどんな夢を見るのでしょうね。