HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN

編んで着て(ときどき)うろちょろするわたし

ニットデザイナー・三國万里子さんが
日々のあれこれを写真と文章でお届けします。
編みものの話はもちろん、洋服のことや
街で見かけた気になるものなど、テーマはさまざま。
三國さんの目を通して世界をのぞくと、
なんでもないことにたのしさを見いだせたり、
ものづくりへの意欲を呼び起こせたりする‥‥かも?
期間限定、毎週火曜と金曜に更新予定です。

三國万里子さんのプロフィール

2018-12-18

女性は「仕舞う」ということが
好きな生きものではないかしら。
バッグやポーチに
目がない人も多いですしね。
「自分というもの、あるいは
自分が愛するもののエッセンスを
その中に潜ませて、持ち運ぶ」
というコンセプトに
ときめくのだという気がする。
少なくともわたしは、そうです。

コレクションしているわけではないのですが、
少し風変わりな小さな容れものを
いくつか持っています。
ほとんどが骨董屋さんで求めた古いもの。
自分だけがその中を見られる、
という秘密のよろこびを持ちたいがために、
また、こんな小さい容れもの、何を入れるのよ?
という理不尽さに
「わなわな」するのも倒錯的に快く、
いつの間にかそこそこの
集合体を形作るまでになりました。

まずは真鍮製のネズミ。
名前はぷーちゃんといいます
(買った日にすぐ名前をつけました)。
胴体は5.5センチ、尻尾は7センチ。
100年ほど前のイギリスで、
「ある」ものを入れるためにつくられたものです。
なんだかわかりますか?
答えば「マッチ棒」。
首の内側にバネの仕掛けがついていて、
頭部が下にカクンと落ちて、
開くようになっています。
お腹に小判を抱いているようにも見えますが、
おそらくこれは、マッチを擦るための
「やすり」の役目をしていたのでは、と思います。
濃いピンクの革製の耳としっぽが
体の鈍いゴールドに
よく似合っているところも好きで、
日々わたしの目を楽しませるために、
仕事机や本棚のあたりで
ちょろちょろしてもらっています。
ただ、わたしはマッチを使わないし、
かといってちょうどいい中身も思いつかない。
ということで、今のところ、
ぷーちゃんの中に何を仕舞うかは保留中です。

次はマザー・オブ・パールという、
真珠を生み出す貝を素材にした
幅6センチ弱の小さなバッグ。
妖精ならちょうどいいかも、というサイズです。
これはボタンのお店CO-さんで見つけたものですが、
店主の小坂さんによると、
教会に礼拝をしに行くときの必需品、
「ロザリオ」を入れるためのものだそう。
わたしは真珠の指輪とピアスをセットにして
ここに仕舞っています。

続いてフランスでつくられた、靴の形の容器。
つま先からかかとまで8センチという、
これも妖精の足ならば、というサイズ。
タブのついた蓋を片側から持ち上げて開閉します。
刻みタバコを入れるためのもので、
中が湿気ないように、
柘植(つげ)という密度の高い木で
つくられているのだそうです。
これもまだ、自分にとってぴったりの
中身が見つからず、待機中。
ネズミのマッチ入れと二つポケットに忍ばせて
用途通りに使えば
好きな時に優雅にパイプを
楽しむことができるのでしょうが、
わたしにはそんな奥ゆかしい趣味はないのです。

その次は、直径3センチの丸い蓋もの。
イギリスのジョージ王朝期、
なんと200年前に作られたものだそう。
ベースの素材はセイウチの牙で、
蓋の最上部を覆うガラスの下には
野原に佇む子羊が、
金細工の花飾りとともに描かれています。
この3センチの丸の中の世界、
くらっとするほど細密で、
じっと見ているうちに羊のいる野原に
行けそうな気持ちになります。
ここにわたしが入れているのは、
幅1.6センチ、高さ1.2センチの、
イギリス製のバッグの形のペンダント。
そうです、これも容れもので、
小さなつまみを持ち上げると、蓋が開きます。
このペンダント、わたしのお気に入りで、
もうずいぶん長い間身につけているのですが、
まだ中に何かを入れたことはありません。
いつか、大事な誰かが、
ここに入れたくなるような、
小さな小さな手紙をくれることも
あるんじゃないかしら、と夢見ているんですよ。

最後に登場するのは、
我らがMiknitsの黒猫のポーチ
中には編みものに使う目数、段数リングや
ニードルキャップをまとめて入れています。
ファスナーを開けると、
わちゃーっと動物が詰まってて、
まるで赤ずきんちゃんに出てくる
悪いオオカミのようですが、そこがいいんです。
長年のMiknitsの歩みを一目で見渡せるのもうれしい。
このポーチは残念ながら販売が完了していますが、
中の動物たちは、まだ買えるものもあります。
よかったらMiknitsのページで見てみてくださいね。