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岩田さんご本人は
HAL研究所を創設した人でもなんでもなくて、
借金がある状態で
「社長をやってください」といわれた人で……
いわばマイナスのおみこしが
用意されていたところに乗ったわけでしょう? |
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他に誰もいなかったのでしょう。
わたしはいつもそうなんですが、
好きか嫌いかではなく
「これは、自分でやるのがいちばん合理的だ」
と思えば覚悟がすぐに決まります。 |
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それはのちのちの
任天堂の社長になるというときにも
いえることなんでしょうね。 |
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そちらは指名ですから
同じ列では語れません。
ただ、指名されたときに
逃げないでいられるかどうかには、
やはりいまわたしがいったようなことが
あったかもしれません。 |
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HAL研究所の社長にならなかったら、
岩田さんは、もっと趣味の人として
生きていたんじゃないかと思うんです。 |
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はい。
わたしは、自分が
ぜんぜんちがう出会いと環境にいたら、
ぜんぜんちがうことをしていると思うんです。
おっしゃるとおり、
もっと趣味に生きていると思います。 |
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「わたしに時間をくれたら、
好きなことをずっとしてたいんです」
という? |
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根っこはそういうタイプですね。
もともとは、放っておいたら、
おもしろそうなことをやって
ときどきまわりの人にそれを見せて、
よろこばれたらしあわせという人です。 |
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プログラムという仕事も、
全体と細部の両方を
一度に見るようなおもしろさが
あったと思うんですが、
社長になるということで
リアルの社会でそれをやらされたというか。 |
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マネジメントということを、
まったくやっていないわけではなかったんです。
やっぱり開発部には何十人かの人がいて、
何十人かの人がいれば
それはさまざまな性格で、
さまざまな気持ちがあって、
それぞれの人がよかれと思ってしていることが、
ぜんぶすこしずつちがう方向をむいている。
全体がひとつの目標にたどりつくには、
それをそろえないといけない。
そういうときに
「こうしようよ」といって
すぐにわかってくれる人もいれば
反発する人も誤解する人もいて……
とさまざまになりますよね。
そういうことに直面すると、
「あるところを目指して
はたらきかけているのに、
すぐにわかってくれる人と
わかってくれない人がなぜいるのだろうか。
どうしたら、みんなで力を合わせて
おなじところを目指して動いていけるのか」
というようなことは、
ものを作っていると
イヤでも考えざるをえなくなるんですね。 |
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ひとりでものを作れていた大昔は別とすれば、
それが三人のチームワークになり
五人のチームワークになり
十人のチームワークになり、
さらに二十人になり五十人になるという過程を
経験してきましたから。
そういう組織についての話が
体系だった学問になっていることは
あとで知るのですが、当時はまさしく
実践のトライアンドエラーのなかで
わかっていったことなんです。
そういう試行錯誤の途中で、
わたしは昔からここだけは
わりと自信があるのですが
「コミュニケーションが
うまくいかないときに、
絶対に人のせいにしない」
ということに決めたんですよ、あるところから。 |
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「この人が自分のメッセージを
理解したり共感したりしないのは、
自分がベストな伝えかたを
していないからなんだ」
と、いつからか思うようにしたんです。
うまくいかないのならば、
自分が変わらないといけない。
この人に合ったやりかたを、こちらが探せば、
理解や共感を得る方法はかならずあるはずだ。
ですから、いまでもうまくいかなかったら
自分の側に原因を求めています。
相手をわからずやというのは簡単ですし、
相手をバカというのは簡単なんですけどね。 |
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うん、岩田さんって、
ほんとに相手を責める言葉をいわないもんね。 |
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いわないということを、
自分に課すことに決めたんです。
いつそうしたかは覚えてないのですが、
きっと自分なりに
決めた時期があったのでしょう。
そこはやはりHAL研究所に
集まっていた開発の人たちが
「みなさんがコミュニケーションがじょうずで
ものわかりのいい人」というわけでは
なかったからでもあったのかもしれません。
たぶん「人のせいにしない」と決めないことには、
開発の仕事が、まわらなかったのだと思うんです。 |
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プログラムをやろうなんていう開発者は
「ひとりで全世界を掌握できる」
という全能感に
惹かれたところもあると思います。
思えば岩田さんもそうだったのですよね。 |
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いちばん最初はそうですよ。
だって、ひとりで作れるんですもん、ぜんぶを。 |
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「誰の協力もなしに世界を組みたてられる」
というおもしろさを知っているどうしが
同じコンピュータゲームソフトの会社に
いるわけだから、心の中では、それぞれが
「王様はオレだけだ」ということになって……
ぶつかりあいが生まれるのは、当然というか。 |
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技術者もそうですし、絵描きもそうですよね。
「おれがいちばんうまい」
という自信やうぬぼれがないと
エネルギーが出ないでしょうから。
プログラムをやる人だって、
自分のやりかたがいちばんいいと
思っているからそうしているのであって、
いちばんいいと思っていなかったら、
プログラムを変えているわけですから。
そんな人どうしが一緒に開発をすると、
プログラムでは
「このやりかただと
ここと合わないから変えてよ」
という話がおたがいに出てきたり、
絵を三人が描けば
画風はそろわないですから、
ひとつの商品に入れようと思ったら
誰の作風にしようと
決めないといけなくなりますよね。
そうすると、かならず衝突が起こるんです。
だってそうですよね、
クリエイションはエゴの表現ですから。
エゴの表現をしあっている人たちが、
なにもしないで
考えを一致させるはずがないんです。
みんな善意と情熱でやっているから
「自分がただしい」んですよね。
全員が「自分はただしい」と思っていて、
ぜんぶちがう方向を向いているのを、
どうやってそろえたらいいのだろうか……。
ある意味では、開発の仕事というのは、
とてもいいマネジメントのための
訓練だったんですね。 |
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