社長に学べ! おとなの勉強は終わらない。 シリーズ第9弾 「博多 一風堂」店主 河原成美×糸井重里  一風堂のラーメン進化論
 

第3回 環境を整える。
糸井 スープの作り方などについて
目で見て、食べて覚えていくと
おっしゃいましたが、
ノートなどには記さないんですか?
河原 ノートも、あります。
も、あるんですけども、
やっぱり自分で見て試して、
経験として覚えていることのほうが多いですね。
もう何百種類って作りましたから。
糸井 そうですかー。
ぼくは料理はあまりしないんですけど、
唯一、煮物みたいなものだけ好きで。
ジャムを作ったりするんです。
河原 いいですね。
糸井 で、この間、再現性を高めるために、
レシピをつくったんですよ。
これをこうして、次にああしてっていう、
ジャムをつくる行程を
ひとつずつきちんと洗い出して、
ノートにつけていったんですけど、
いかに、ふだんでたらめに作っているかって
いうことがわかりました(笑)
河原 ははははは。
そうそう、だいたい感覚なんです。
糸井 ただ、考えなしにジャムを作っても、
うまいことはうまいんですよね。
河原 ええ、そうでしょうね。
糸井 レシピ通りに作れば、
確実にうまいジャムはできる。
けれども、
感覚でつくったときのジャムでも、
レシピ通りのジャムと似ているけど違う
おいしいジャムがあると思うんです。
河原 ありますね。
糸井 それって何なんだろうなと思ってて。
不思議でしょうがないんです。
河原 あー、自分の中では、
それは要所要所のポイントだと思っています。
糸井 ほぅ。
河原 「一風堂」のメニューは何十種類もありますが、
その全てにレシピがあります。
でも、レシピには、
こと細かに手順が書いているわけではなくて、
ポイントになることが書かれています。
糸井 じゃあ、「一風堂」の店舗に行ったときとか、
俺が作ったらもっとうまくできるって思います?
河原 あー、いつも思います。
糸井 いつも、思いますか。
河原 いつも、思います。
糸井 おもしろいなー(笑)。
それ、なんなんですかね。
河原 んー、やっぱり、
楽しい環境に人が来るとね、
脳にはエンドルフィン(?)とかが出てくるし、
体も活性しますよね。
糸井 はい。
河原 食べに来た人はもともとお腹が空いてるし、
食べたいっていう欲求が高まってる。
で、お店に入った瞬間に、
その「食べたい」が(パチンと指を鳴らす)、
この空間で食べたらもっとうまいだろうなと
思わせることができたら、いいんですよね。
糸井 なるほど。
河原 質問とは違った答えかもしれないんですけど、
まずそこからですよ。
糸井 まずは、環境を整えることから。
河原 それはとても重要だと思います。
いらっしゃいませっていうことから、
その人とコンタクトが取れてる。
初めてお店に来た人でも、
「あ、このお店の人は、よさげな人ね」
「ここで食べるとおいしそう」って思わせる。
糸井 お店に入ったときから、
食べ始めてるんですね。
河原 そうです、そうです。
糸井さんと河原は、今ここで接点がある。
だから俺はね、糸井さんが望む
おいしいものを作れると思ってる。
糸井 うんうんうん。
河原 でも、これが画面になったら
ちょっと難しいですね。
画面になると、やっばり、
伝えようがないんですよね。
糸井 実際に、いないとだめなんですね。
河原 そう、いないとだめですね。
アナログなんです。
糸井 それはやっぱり、
人は、ただ単純に言葉による情報だけを
やり取りするだけじゃなくて、
その「情報」って呼ばれないものも、
やり取りしてるからですよね。
河原 ええ、そうですね。
糸井 食べ物もそうですね。
河原 もう、まさに。
糸井 そう考えると、
捕虜に与える最初のご飯なんていうのは、
絶対むずかしいですよね。
河原 ほぅ。
糸井 捕虜になった人に、最初にご飯を与えるからって、
捕虜は食えてうれしいとは限らないですよね。
とくに食文化が違うと、むずかしい。
たとえば、
捕虜は中華料理をずっと食べてきていて、
与えられた食事が和食とかだったら、
おいしくないと思うかもしれない。
食材も味付けも違うわけだし。
河原 ほんとですね。
考えたことなかった。
糸井 環境を整えることを
考えてる人と考えてない人じゃ、
お店の雰囲気とか、すごく違うでしょうね。
河原 もう、ぜんぜん違いますね。
ラーメンを食べたい人と対峙したときから、
その人と味の調和みたいなものが始まってる。
その空間の共有が、本当に大切ですね。
糸井 そうですね。

(つづきます)
2012-05-03-THU
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