河原 |
今回の「蕎麦COMBO」では、
名前がとっても重要だったんです。
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糸井 |
ほう。
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河原 |
「渡辺製麺」がもともと「そば蔵」っていう
蕎麦屋をしているので、それとは違う。
蕎麦なんだけど蕎麦じゃないっていう、
新しい流れを作りたかったんですよ。
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糸井 |
蕎麦なんだけど、蕎麦じゃない。
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河原 |
で、ちょうどニューヨークに行ってたときに、
なんとかコンボっていう店があってね。
あっちにはそういう名前のお店、多いんですけど。
「あ、『蕎麦COMBO』、いい!」と
ピンっときたんです。気に入っちゃって。
もう名前が決まれば、
店が決まったも同然ですからね。
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糸井 |
うん、うん。
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河原 |
「一風堂」も、
名前を作るまでがたいへんだったんです。
イメージとしては、
京都の路地裏にある
老舗の蕎麦屋のようなラーメン屋。
あ、のれん作んなきゃいけないな、
しっかりした看板も付けなきゃなって考えてたら、
「‥‥お、『一風堂』、いいね。」って。
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糸井 |
おもしろいですねー、先に名前なんだ。
じゃあ、名前が決まるまでに
悩んでる時間は結構あるんですか?
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河原 |
長いですね。
「蕎麦COMBO」は1年ぐらいはかかりました。
で、名前が「蕎麦COMBO」ってできたら、
おっ、ラテンね(パチンッと指を鳴らす)。
じゃあ、スタンディングもオーケーだし、
座っててもいいねって。
名前が決まれば、
店の雰囲気もイメージできて、
イケるじゃんていう感じがするんです。
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糸井 |
ああー。わかります。
ぼくもそうですね。
あそこに貼ってある
「本が出る」って書いてるポスター、
まだ作ってる最中の本のポスターなんですよ。
何にもできてないけど、先にポスター作ってて。
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河原 |
へぇー。
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糸井 |
名前が決まれば内容が決まるのと同じように、
とにかく、本を作んなきゃいけないから、
何をするのか、先にポスター貼っちゃうっていう
やり方をしてるんです。
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河原 |
いいですねぇ。
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糸井 |
そして、ぼくも、
名前を決めるまでの時間は長いですね。
「ほぼ日刊イトイ新聞」も、そうでした。
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河原 |
そうなんですか。
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糸井 |
自分としては、
「イトイ」っていう名前を入れたくないんですよ。
だけど、入れたときの説得力の方が勝って。
ずーっと考えてたんですけど、
「ほぼ日刊イトイ新聞」だろうなって
思えてからは、
とっても楽になりましたねぇ。
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河原 |
うんうん、そうでしょうね。
中身がイメージできますからね。
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糸井 |
河原さんが、失敗を怖がってないっていうのは、
味だけは絶対はずさないっていう
自信があるからですよね。
つまり、味では失敗したことはないと。
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河原 |
そうですね、
味での失敗はないと思っています。
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糸井 |
でも、おいしいからって、
商売が必ずうまくいくわけではない。
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河原 |
それも、もう嫌というほど知ってます(笑)。
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糸井 |
ははははは。
たとえば、何かありますか?
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河原 |
そうですね、たとえば、
高田馬場に「ちゃんぽん太郎」っていう、
博多のちゃんぽんの店を出したんです。
ちゃんぽんは昔からよく作ってたし、
味には自信がありました。
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糸井 |
味には。
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河原 |
でも、いっつまで経っても
なかなかお客さんが来てくれない。
これがなんでなのか、
ぜんぜんわかんなかったんです。
結局、ここは3年目にしてクローズしました。
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糸井 |
うーん、
追い過ぎてもしょうがないですもんね。
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河原 |
分析していけば、
なんらかの答えは出てくるんでしょうけど。
で、今は兄弟店の「ハカタノチカラ」で、
さらに洗練されたちゃんぽんを出してます。
こっちは、思ってたよりは人が来てますね。
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糸井 |
へえー。
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河原 |
なんで、「ちゃんぽん太郎」には
お客さんが来なかったんだろうって考えたら、
名前もあったのかもしれないんですけど、
もともと、東京の人って
ちゃんぽんをあんまり知らないんですよね。
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糸井 |
よく知らないですね。
長崎に行ったときに、
ちゃんぽん食おうぜってなるだけです。
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河原 |
あと、どうやら、
ちゃんぽんの食べ方がわからないみたいで。
食べ方なんてないんですけどね。
で、もっとわかりやすいように、
「博多タンメン」っていう切り口で
やってみようと思ってます。
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糸井 |
博多タンメン、ですか。
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河原 |
もうどうかしてさ、
ちゃんぽんをみんなに食べてほしいとね。
おいしいよって。
で、ちゃんぽんの麺って太いんですけどね、
細麺を使って、
博多タンメンって名前でいってみようと。
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糸井 |
ここでも、やはり名前ですね(笑)。
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河原 |
あ、そうですね(笑)。
名前がつくと、
自分の中で整理されるんですよ。 |
糸井 |
お話を聞いていて思ったんですが、
おいしくすることだけは自信がある、
味だけははずさないっていうことが、
河原さんの動きをずいぶん楽にしてますよね。
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河原 |
ああー、うん、そうですね。
俺の味には、自信がありますから。
(つづきます) |