社長に学べ! おとなの勉強は終わらない。 シリーズ第9弾 「博多 一風堂」店主 河原成美×糸井重里  一風堂のラーメン進化論
 

第7回 名前が決まれば内容も決まる。
河原 今回の「蕎麦COMBO」では、
名前がとっても重要だったんです。
糸井 ほう。
河原 「渡辺製麺」がもともと「そば蔵」っていう
蕎麦屋をしているので、それとは違う。
蕎麦なんだけど蕎麦じゃないっていう、
新しい流れを作りたかったんですよ。
糸井 蕎麦なんだけど、蕎麦じゃない。
河原 で、ちょうどニューヨークに行ってたときに、
なんとかコンボっていう店があってね。
あっちにはそういう名前のお店、多いんですけど。
「あ、『蕎麦COMBO』、いい!」と
ピンっときたんです。気に入っちゃって。
もう名前が決まれば、
店が決まったも同然ですからね。
糸井 うん、うん。
河原 「一風堂」も、
名前を作るまでがたいへんだったんです。
イメージとしては、
京都の路地裏にある
老舗の蕎麦屋のようなラーメン屋。
あ、のれん作んなきゃいけないな、
しっかりした看板も付けなきゃなって考えてたら、
「‥‥お、『一風堂』、いいね。」って。
糸井 おもしろいですねー、先に名前なんだ。
じゃあ、名前が決まるまでに
悩んでる時間は結構あるんですか?
河原 長いですね。
「蕎麦COMBO」は1年ぐらいはかかりました。
で、名前が「蕎麦COMBO」ってできたら、
おっ、ラテンね(パチンッと指を鳴らす)。
じゃあ、スタンディングもオーケーだし、
座っててもいいねって。
名前が決まれば、
店の雰囲気もイメージできて、
イケるじゃんていう感じがするんです。
糸井 ああー。わかります。
ぼくもそうですね。
あそこに貼ってある
「本が出る」って書いてるポスター
まだ作ってる最中の本のポスターなんですよ。
何にもできてないけど、先にポスター作ってて。
河原 へぇー。
糸井 名前が決まれば内容が決まるのと同じように、
とにかく、本を作んなきゃいけないから、
何をするのか、先にポスター貼っちゃうっていう
やり方をしてるんです。
河原 いいですねぇ。
糸井 そして、ぼくも、
名前を決めるまでの時間は長いですね。
「ほぼ日刊イトイ新聞」も、そうでした。
河原 そうなんですか。
糸井 自分としては、
「イトイ」っていう名前を入れたくないんですよ。
だけど、入れたときの説得力の方が勝って。
ずーっと考えてたんですけど、
「ほぼ日刊イトイ新聞」だろうなって
思えてからは、
とっても楽になりましたねぇ。
河原 うんうん、そうでしょうね。
中身がイメージできますからね。
糸井 河原さんが、失敗を怖がってないっていうのは、
味だけは絶対はずさないっていう
自信があるからですよね。
つまり、味では失敗したことはないと。
河原 そうですね、
味での失敗はないと思っています。
糸井 でも、おいしいからって、
商売が必ずうまくいくわけではない。
河原 それも、もう嫌というほど知ってます(笑)。
糸井 ははははは。
たとえば、何かありますか?
河原 そうですね、たとえば、
高田馬場に「ちゃんぽん太郎」っていう、
博多のちゃんぽんの店を出したんです。
ちゃんぽんは昔からよく作ってたし、
味には自信がありました。
糸井 味には。
河原 でも、いっつまで経っても
なかなかお客さんが来てくれない。
これがなんでなのか、
ぜんぜんわかんなかったんです。
結局、ここは3年目にしてクローズしました。
糸井 うーん、
追い過ぎてもしょうがないですもんね。
河原 分析していけば、
なんらかの答えは出てくるんでしょうけど。
で、今は兄弟店の「ハカタノチカラ」で、
さらに洗練されたちゃんぽんを出してます。
こっちは、思ってたよりは人が来てますね。
糸井 へえー。
河原 なんで、「ちゃんぽん太郎」には
お客さんが来なかったんだろうって考えたら、
名前もあったのかもしれないんですけど、
もともと、東京の人って
ちゃんぽんをあんまり知らないんですよね。
糸井 よく知らないですね。
長崎に行ったときに、
ちゃんぽん食おうぜってなるだけです。
河原 あと、どうやら、
ちゃんぽんの食べ方がわからないみたいで。
食べ方なんてないんですけどね。
で、もっとわかりやすいように、
「博多タンメン」っていう切り口で
やってみようと思ってます。
糸井 博多タンメン、ですか。
河原 もうどうかしてさ、
ちゃんぽんをみんなに食べてほしいとね。
おいしいよって。
で、ちゃんぽんの麺って太いんですけどね、
細麺を使って、
博多タンメンって名前でいってみようと。
糸井 ここでも、やはり名前ですね(笑)。
河原 あ、そうですね(笑)。
名前がつくと、
自分の中で整理されるんですよ。
糸井 お話を聞いていて思ったんですが、
おいしくすることだけは自信がある、
味だけははずさないっていうことが、
河原さんの動きをずいぶん楽にしてますよね。
河原 ああー、うん、そうですね。
俺の味には、自信がありますから。

(つづきます)
2012-05-09-WED
前へ このコンテンツのトップへ 次へ
 
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN