第8回 10キロの荷物に。

うーん。
ここまでの一連のお話は、
斎藤さんの愛妻物語でもありますね。
素敵なカップルですよ。
世界一周の140日間、喧嘩もしないし、
アサヒビールの人事課を辞めて、徳島行って、
パソコンのローンを組んで
粉を測ってチョコレート割って‥‥
奥さんも大変だったでしょ?
大変だったと思います。
両親と2世帯住宅で同居でしたから、
陰ではチクチク
言われてたんじゃないでしょうか。
「またあいつらはインターなんとかやらを」
ええ(笑)。
当時はまだ売り上げったって、
売れても月に100万とかですから、
自分たちの人件費も出ないわけです。
なのに、ぼくは明け方までずっと
ネットの店長をやっていました。
布団で何時間か寝て、
会社に行って斎徳の社長をやる。
で、ぼくは腰があんまりよくないんですよ。
じゃ、パソコンはわりと大変ですね。
ひと晩じゅう、ずーっと座ってるから、
妻がハーマンミラーの椅子を買ってくれたんです。
妻が!
はい(笑)。
いまだにうちの中でいちばん
高い家具です。
それは、奥さんもすごいし、
斎藤さんも偉いんでしょうね。
人をニコニコさせることというのは、
たいしたもんだと思いますから。
背負える程度の荷物があったほうが
チームワークは出ますよね。
ええ。しかし、あのときの我々にとって
「荷物」にはもう一方の意味がありました。
つまり、現実の、10キロの荷物です。
140日間の世界旅行のあいだ背負っていた
全部の家財道具がそれでした。
「何かあったら
 またあれに戻るかもしれないね」
そういう心構えは、あったと思います。
それでスタートして、
ポチポチと売れてきて、というあたりが
いちばん苦しかったんじゃないかと
ぼくは思うんですが。
でも、お客さまから
熱烈にメールをいただいて、
それがぼくらの支えになったと思います。
当時、お菓子の材料を買える店って
ネットではうちしかなかったし、
「欲しい」と言ってくれる人が
実はすごくたくさんいました。
「プロ用の材料や道具を使いたい」
という人も、たくさんいました。
我々のそのときのキャッチフレーズが、
「探していた材料が見つかる。
 欲しかった道具も手に入る」
重要なことですね。
お客さまは、みなさん、
どこで情報を手に入れられるのか、
「フランスのこういう道具がいい」とか
「こういう材料がある」とか、
いろんなことをご存知なんです。
それを買える場所が遠く、少なくて
困っておられました。
ですから、みなさんに
受け入れらたという実感がありました。
だから、辛いと思ったことは全くないんです。
さらに、お客様から
「こういうのがあると便利なのに」と教えられて、
それをどんどん商品化していきました。
専門の材料が
あまり手に入らなかった時代ですよね。
扱う材料の選別や分類は
どうなさってたんですか?
今でも、材料は全部テストして
自分たちで焼いて味を見ます。
これは当時からそうでした。
そのころは、まだ自分で
ホームページの制作を
なさってたんですか?
いや、ホームページの制作チームができたのは
2003年ぐらいで、まだまだ先。
そうですか(笑)。つい最近ですね。
それまでは、
ホームページの面倒をすべて見ましたが、
商売が軌道に乗るにつれて、
物流の問題が出てきました。
これが、まあ、今でもそうなんですけど、
結構重荷なんです。
そうでしょうね。
実際に物を動かさなきゃいけないですからね。
あとは、経理などの仕事も発生してきて、
たのしかったけど、たいへんでした。
斎徳のものを
そのまま使うわけにはいかない
仕組みばかりですよね。
問屋と一般向けのお店とでは違います。
とても違いますね。
今も斎徳の社長をやってるんですか?
いえ、クオカのほうが売り上げが大きくなり、
もはや2足の草鞋は履けなくなりまして、
2年前から弟に社長を譲っています。
クオカは倍々みたいな感じで
大きくなっていったんでしょうか。
倍々までは行きませんが、
1.5倍くらいで進んでいきました。
2002年6月に高松にクオカショップが
オープンし、当時は
ショップの売り上げは5千万ほど、
全体では年商が3億ぐらい。
今は前期が24億ですので、
そんな感じで増えてまいりました。
高松のショップの大きさで、
それだけ売るって、
なかなか難しいことでしょう?
ええ、しかも、客単価が高い
商売ではないので。
みんながお菓子作るとも思えないし、
すごいですね。
うれしいのはね、
高松は、開店以来、
ずっと売上げが伸びてるんですよ。
へえぇ。
お菓子作りをする人が
急に増えたわけじゃないと思います。
「チョコレートを変えるだけで
 お菓子が変わるんだよ」
というようなことを
高松でずっと伝えてきたからだろうなと、
その部分では自負しています。
(つづきます)

2009-03-24-TUE


(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN