第9回 あたりまえのことをやってきた。

どこで何をどう伝えるか、
ということは、きっと
たくさん工夫なさったと思うんですが、
斎藤さんが最初にあてにしたメディアは
いったい何だったんですか。
1998年当時は、
インターネットでお菓子の材料を売るだけで
少しはニュースになる時代でした。
特に徳島だとニュースが少ないので、
「斎徳、お菓子材料の通販はじめる」と
日経徳島支局とかは載せてくれるわけです。
それがなんかの拍子に
全国版に載ったりしてですね。
はい(笑)。
飛躍のきっかけになったのが、2000年。
NHKのテレビ講座「趣味悠々」という
シリーズで、お菓子の企画があったんです。
今は国会議員になられましたが、
藤野真紀子さんが先生で、という話でした。
広告代理店から、
「クオカさん、今度こういう企画をやるんで、
 そのテキストに広告出しませんか」
と連絡が入りました。
たまたま、その広告代理店の担当の女性が
クオカのお客さまだったんですよ。
なるほど。
当時、高松のお店はまだボロボロでしたし、
その方も、お店の様子を知ってたら
そんな話はしてこなかったと思います。
ぼくはその場で「表4(裏表紙)やります」
と返事しました。
「表4は東京ガスに決まってるんで」
って言われたけど、
無理やり表4をお願いしました。
そのかわり、
藤野先生がレシピの中で使っているものは
99パーセント、クオカで買えるようにします、
と約束しました。
それで品揃えを強化したのが、
飛躍のきっかけになったんですよ。
それは冒険でもあり、うれしい話ですよね。
勝算は感じました?
いけるだろうと思いましたね。
自分決済はいいですね。
自分経営会議ですからね、
「やろうか」「じゃあ、やろう」。
斎藤さんは、いちいち
説明がつくことばっかりを
順番にやってますよね。
そうですか。
大飛躍で
「ここは閃きですよ」
みたいなことじゃなくて、
全部見えるところで、
こうかな? こうかな? と
ひとつずつ変わりだまをつくるみたいに
大きくしている感じがします。
ええ、あんまり変わったことはやってないと
自分でも思います。
だから、クオカのお話は気持ちがいいんですよ。
フロックで、天啓があってとかいうんじゃ
ないんですよね。
スタート当時から比べて、クオカは、
変わったところと
変わってないところがあると思うんですが。
変わってないところは、
いつもお客さまの目線でいることです。
今、中核をなしてるスタッフは、
クオカのホームページで募集して来た人たちです。
もともとクオカのお客さんですから
おいしくたのしくという、
お客様目線を失わないんです。
変わったところは‥‥、変わった、というより
ここまで会社が大きくなってきたので、
「変わらなければいけない」というところに
今、来ているという感じがするんです。
うん、うん。
クオカは、今はみんなが知っている場所に
なりましたけど、
もっと可能性が出てくるわけですよね。
我々の本当の願いは、
手づくりをおいしくしたい
というところなんです。

今のお母さん方ってすごく大変で、
本当においしいものが簡単に
コンビニとかスーパーで
手に入るようになってきちゃってます。
冷凍の炒飯なんかもすごくおいしくて、
なかなかあんなにパラパラにできないですよ。
そういうものとお母さん方が
勝負しなきゃいけなくなっています。
「ママの餃子より冷凍のほうがおいしい」
と、子どもが思ってるかもしれないです。
でも、いい材料でつくれば、
子どもや旦那さんが、
「お母さんのがいちばんおいしい」って
言ってくれるかもしれないですよね。
うん。
今、クオカには25万人くらい
お客さんがいらっしゃって、
リピート率が80パーセントぐらいです。
それは、我々がすごくいいサービスをしたり
いい商品を提供してるというよりも、
本当にご家族やご本人が、
おいしいと思ったからだと思います。

クオカがよく知られるようになったといっても、
今はまだまだ、
「趣味はお菓子づくりです」という方か、
セミプロの方にしか知られていません。
まだ、店舗も
東京だと自由が丘と新宿だけ。
全国でたった4店舗しかありません。
銀座で100人に聞いたら、
クオカを知ってる人は
1人か2人でしょう。
これからは、そうじゃない人に
どうアプローチしていくかが課題です。
もっとかんたんに
お菓子に近づけるといいですね。
そうなんです。
今、クオカで
わりと売れてるのは冷凍パン生地です。
わ、そうなんですね。
発酵寸前の生地が冷凍してあって、
冷蔵庫に移すと発酵して、
次の日オーブンで焼くと、
焼きたてのクロワッサンができる。
それはいいね。
本当は我々も
手ごねでパンを焼くほうが
冷凍よりもおいしくできると思っています。
でも、全ての人にそんな時間はありません。
たかがパンされどパンですけど、
やっぱり「しょせんパン」、
主菜があってのパンなんです。
パンにそんなにエネルギー使ってくれればいいけど、
そうじゃありません。
冷凍でちょっと手を加えて
おいしいパンが焼けるんなら
それも提案すべきだと思ったんです。
そういう人たちは、そのうち自分で
やってみようと思ってくれるから。
両方あってかまわないですもんね。
その辺の柔軟性みたいなものがなくて、
趣味の世界って、つい
セクト的になっちゃいますから。
ええ、そうなんです。最初はスタッフに
「そんなのクオカでやる意味がない」
「あんなのパンじゃない」
って、反対されたんですよ。
でも、共稼ぎのお母さんも、子どもたちも
生地をのばしてこねる、
そのプリミティブなたのしさを
味わうことができるから、と。
子どもが、どういうわけだか
手巻き寿司だと食いますよね。
それとおんなじ。
(つづきます)

2009-03-25-WED


(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN