プロジェクトP。
「ほぼ日」以外の東京糸井重里事務所の仕事。
東京糸井重里事務所というのは、いちおう会社です。
いちおう、株式会社で、ビジネスをやっているわけです。
直接におおぜいの人々と接しているのは「ほぼ日」で、
実は「それ以外」の仕事をしているということは、
伝わってなかったんですね。
最近、求人誌を見て応募してきてくれた方々に、
あらためて質問されたりもしました。
読者からも、たまに、無料のほぼ日が心配です、
というようなメールもいただいたりするしねぇ。

で、いつか、こんなふうなことをしているんですよ、
ということを、お伝えしようと思っていたのですが、
他の企業や媒体との関係もあるわけだし、
「当社」だけの事情で発表してしまうのは、
難しかったりもしまして、先のばしされていたんです。

そこに、ちょうど、典型的な仕事の例があったので、
これを題材に、しながら、
ぼくらの「ほぼ日」以外の仕事を紹介してみます。
近いうちに、「ほぼ日公式ラーメン・サルのおせっかい」も
発売されたりもしますし、
他にもいろんなパターンがあるのですが、
「コミュニケーション」を仕事にしていくということが、
典型的には、こんなふうに行われているんだということが、
ちょっとでも知っていただけたら幸いです。

第2回
「できる」と信じて実現する



「願いの★★★★★★(コンペイトウ)」は
「ほぼ日」の縁からはじまった。

さてさて、『星に願いを』という歌を中心にした
コミュニケーションは、だんだんできあがってきた。
だけど、それをカタチのあるものにしたい、ということの
答えはなかなか見つからなかったんですね。

この段階で、ひとりの人を思い出すんです。
「ほぼ日」の読者である「エビス堂製菓」の持田さん
時々メールを下さったり、次々にいろんな味の
コンペイトウを出して送ってくれるんです。
前に、『昼間のパパは、男だぜい』という企画で、
取材させていただいたこともありまして。
コンペイトウって非常におもしろく奥行きのあるもので、
単におかしのひとつという以上の何かがあるんです。
しかも持田さんって、4代目なんです、
歌舞伎でもないのにねぇ。
とにかく技術や精神が代々受け続けられてきている。
このコンペイトウというものについて、前々から、
もっと新しい可能性があるような気がしてたのです。

そんなことを思い出して、打ち合わせの席で
「知り合いでコンペイトウ作ってる人がいるんだよ。
 あれって、カタチが星だよねえ・・・。
 コンペイトウって何かできないかなぁ」って言って、
作り方の説明とかいろいろ話しはじめたら、
みんなの目が輝いたんですよね。

『ピノキオ』のDVDを予約したら、
おまけに星が付いて来たら、うれしいぞ?!
「コンペイトウって、作るのに何日かかるか知ってる?
 ガラガラとグラニュー糖を回して、
 夏は汗をかくから塩なめながら作るんだよ。」
とかね、ぼくが知ったかぶりして言えば言うほど、
聞いていたみんなが実現したくて企画を補いはじめる。

「その手作り感がゼペットじいさんの工場みたい」とか。
「コンペイトウで音符を作ったらおもしろい」
「トゥインクルトゥインクルリトルスター」とか。
いろいろ思い出しはじめちゃってねぇ。
ブレインストーミングというよりは、
夜中にガキが集まってしゃべってるって感じですよね。
実現したい、という気持ちが先にあるんですから。

次はエビス堂製菓の工場までみんなで直接訪問です。
「いくつまでならできますか」というような、
リアルな話がはじまるんです。
「何十万個いるわけだよね。いくらくらいでしょうか」
「食品なのでどのようにパッケージにしたらいいか」

実現する前の段階では、ダメかもしれない理由は、
無限にありました。
予算もあるし、衛生面の管理が大事になるし、
ほんとに作れるんだろうかとか、
パッケージに詰めるのは誰がどうやるとかって。

エビス堂さんが本当に真剣に、
ひとつずつひとつずつ考えていってくれて。
休日を返上して、コンペイトウを作ったら
いくつ作れるか、一家総出でやったら
どれぐらいかかるか・・・。

次に衛生的にパッケージするにはどうすればいいか。
エビス堂さんと旧来からつきあいのある
包装会社の工場までまたぞろぞろと
いきなり押し掛けていきました。
「できるかもしれない。でもこんなに大量だと
 期限に間に合わないかもしれない」
どのようなケースにモノを詰めていくのか。
通常の機械で包装をできるモノなのか。
この時点ではまだどのようなケースに
コンペイトウを入れるかは
まだ決まっていなかったのです。

エビス堂さんのミニバンが先導して、
SNAPの原田くんが運転してくれている
ぼくらのクルマがついていくんですよ、
下町の細い道をくいくい曲りながら。
ちょっと昔の松竹映画みたいでしょ。
けっこうたのしいんですよ、こういう時間。
そこにいるのが、定款としては「広告制作業」の
コピーライターという職名の糸井重里と、
その会社の人間、
そして、ビデオやDVDを発売する会社の
社長をはじめとした
マーケティングの人間たちなんですよね。
この景色が広告づくりの仕事なんだと思うんです。
会議やデスクに向かっての仕事も必要なんだけど、
それだけじゃない動きが必要なんです、いっぱい。
そこに、「コミュニケーション・ビジネス」の
根底的な変化の予感を読み取ってほしいところですねぇ。
イメージ、ちがうでしょう?
広告のコピーをうんうん言いながらつくっている時間は、
こういう大きな仕事の海の、ひとつの湾くらいのものです。


かわいいU.F.O.みたいなケースだ!

衛生面や世界観も含め、コンペイトウを
そのままころんと出すわけにはいかない。
いい商品パッケージがほしいです。
ま、実際は、商品というより「オマケ」なんですけどね。
いわゆるひとつの無料のモノなんです。
しかし、だからといって、ちょちょいのちょいと
安上がりにつくろうとしたら、
『ピノキオ』の世界観が傷つくわけです。

こういうときには、超一流の助けが必要なんです。
『GUEST&ME』でおなじみの
プロダクトデザイナー佐藤卓さんしかいません。
予算ももう総枠で決まってるわけですから、
またまた全然商売にならないようなことですけど、
佐藤さんがやってくれたらうれしいし、
やってくれなくても全然恨みませんみたいなことで、
おそるおそるお願いしました。

「やりますよ」です。
佐藤さんも、こういうときに江戸っ子なんですよ。
この場合も、『ピノキオ』というソフトの力と、
その他のさまざまなプランに
魅力を感じてくださったんでしょうね。
時間もあんまりない、つまり急いでる状況。
デザインにもすぐにかかってくれました。
定型の缶ものだったら安くできるけど、
オリジナルっていうのは
えらい高くかかりますっていう話で始まったはずなのに、
佐藤さんから出されたデザインは、当然のように
定型でないものでした。
銀色に輝くU.F.O.みたいで、気品もある。
「いいなぁ!」と、関係者を惹きつけるカタチなんです。

佐藤卓さんは
インダストリアルデザインとか
パッケージについてはベテランなので、
高くつくといっても、それほどでもなく
おさまるくらいの工程は複雑でない
デザインを出してきてくれたんですね。

もし、ここに
余計なことを考えるエージェンシーとかが入ると、
「佐藤さん、すみません。
 ここのこのポコンっていうのがあるだけで、
 えらいコストかかっちゃうことなんで、
 これは思い出に取っていただいてですね、
 スポンサー的にはこの何でもない方で行かしてください」
っていうふうに、仲を取り持ってくれるんですよ。
ま、実に余計なお世話なんですけどね。
ところがぼくらの間にね、そういう人は一人もいないから、
「いいなあ」って言っちゃうわけです。最初から。

どうやったら実現できるんだ、このいいカタチは?
という考え方を、みんながしてるんです、こういうとき。


だけど、ほんとうにできるのか?

こうやって、できた時点から話していると、
かんたんそうに聞こえると思うんだけど、
実は、しょっちゅう頓挫しそうになっていたんです。
でも、やめようかという声はもちろんなかった。
ま、このあたりは、最終責任者でもある塚越さんが、
二枚腰というか、絶対にやりたいって思っていたことが、
大きく影響していますよね。
あと、ウオルト・ディズニーの背後霊(笑)。
ウオルトの夢に引き寄せられた人たちが、
どんどんどんどん増えていったとも言えるんですよ。
しかも、その集まってきた人たちというのは、
プロ中のプロ、一流中の一流なんです。
無理なことを実現させちゃうような力を、
もともと持っている人たちが集まってるから、
とにかく最終的にはなんとかなっちゃうんですね。

何十万個もの包装ですから、ちゃんと包装できるか
どれぐらい時間がかかるか。
パッケージのかたちが違えば、包装の方法も
がらっと変わってしまうこともあるわけです。

パッケージの設計図ができるとすぐに
エビス堂製菓のお父さん(三代目)が、
設計図をもとに、ギコギコとのこぎりを
引きはじめて、
ケースの模型ををつくりはじめました。

これをもとにして、包装をするときの
スピードや包装の方法など
テストができるというわけです。

ケース自体は金型をつくって、
何十万個もつくるわけです。
既製のケースではもちろんありません。
困ったときにはなんでも動いてくれる
SNAPの原田さんが、
以前、ディズニーDVDプレーヤーを
作った時のルートをていねいに
たどっていって、
パッケージをつくる工場を探してきてくれたんです。
これも、ちょっと迫力のある動きだったなぁ。
予算は限られてますからね。
できないよ、と言われても、不思議はないわけですから。


ほぼ日にも伝播していく

やっていくうちに
「お父さんと子供」っていうのは
「ほぼ日」にテーマにもなるぞっていう話をしてて、
ミーティングを続けているうちに、
「お父さんと、いっしょ。」
というコンテンツができあがりました。
「ほぼ日」のコンテンツとして、
最近の大ヒット企画になりましたよねぇ。
これはいわば、副次的な生産物ですけれど、
こういうことが、「世界が豊かになる」という意味でして、
あることが、それだけにとどまらない楽しみを
生んでいくというのが、ぼくらの仕事のよろこびですよね。
何かをはじめたら、「副次的に」いろんなものが生まれる
というのは、いいプランに共通する特長です。
みんなが、あるプランの周りに集まってきて、
自分もなにかできないかと考えたくなるような、
そんな仕事をやっていきたいですよね。
「ほぼ日」というのも、そういう性格の場ですけれど、
「ほぼ日」以外の仕事でも、そういうふうに
なるようにといつも思ってやっています。

『お父さんと、いっしょ』を読んだ人に向けて、
このページで、『ピノキオ』のDVDの販売もしようと
最初は考えたのですが、
売るときの独自のおもしろさが企画できなかったので、
「ほぼ日」として売るのはやめました。
もっと、手のかからないふつうの方法を選ぶということで、
アマゾンにリンクすることになったんです。

それを手にしてくれた人にいいことだったら、
本気で堂々と販売はしていくべきだと思うんです。
先日の『人間は何を食べてきたか』という
DVDのシリーズでも、何セット売れるかなんて、
見当もつかないようなソフトでしたけれど、
1セットでも2セットでもという気持ちで、
真剣になって独自の紹介の仕方を考えて販売しました。
結果的には、なんと、あれ、とても利益が出たんですよ。
憶えてる? 
社員全員で「コートドール」でランチしたでしょ。
あれだって、結果的に儲かったからこそできたことですよ。
もともとは、気持ちが先。
小さなケースだけれど、実証してたね、あれは。


「できる」と信じて実現するのは
実力のせい。

このプロジェクトは、
総体の予算としては大きいものではないので、
それぞれ関わった人たちは、ビジネスとしては
小さなプロジェクトに参加したというくらいものです。
でも、その誰もがたくさんの儲けを得ています。
この仕事をやって実現したねっていうのが
大儲けなんです。
夢を元金に儲けてるんです。

コミュニケーションプランのひとつの仕上げは、
「ディズニーシー」での、矢沢永吉の
サプライズライブだったと思うんですが、
関係者みんな集まった場で、みんなが口々に、
泣いた泣いたと言ってましたよね。
「伝説をつくろう」と、あのライブの打ち合わせのときに、
ぼくが言ったらしいんですけれど、
「ほんとになったよねぇ」と、関わった人が言ってくれて。
うれしかったよー。

熱病のように進んでいったプロジェクトの
途中で誰も我に帰ったり、止めようとしなかった。
生意気な言い方かもしれませんが、
自分たちに実力がないと「できる」って思えないんです。
「できたらいいね」っていう楽しい話になるんです。
大人が冗談を言ってるんで、できるんですよ(笑)。
できなくなりそうなことはしょっちゅうあるんですよ。
その時に、できるって信じてるんです。

「そんなバカな」って言っても、
まず「できた方がいい」って思うこと。
自分の欲だけでやってることって自信にならないんです。
「できたほうが、自分のためだけじゃなく、いい」と、
そういうふうに思えるようなことをしていると、
見えない応援団がついて、自信につながるんです。
うまくいった時に何の利益が来るかわかんないけど、
利益は来ますよ、絶対。
人がいっぱい集まるっていうこと、
そのこと自体を利益だと考えるほうがいい。
ぼくはしょっちゅう言っているけれど、
いまの時代は「生産手段」よりも、
「市場」を持っているかどうかのほうが、重要な時代です。
人によろこんでもらえること、
人が支持してくれることを、まず、思いつくことが、
できなくなっている企業が多すぎるんじゃないのかなぁ。
「儲かるからやる」というのも、何かをするときの
大きな理由だと思うんですよ、でもね、
「よろこばれて、儲かるからやる」じゃないと、
市場のよろこび、市場の側、お客さんの側に
利益がないじゃないですかねぇ。

今度の仕事では、みんな「できたらいい」
「できるべきだ!」「できる!!」
それをね、曲げないんでやってこられたんです。
調整するだけの大人ばかりいても、
前に進みやしないんですけど、
自分がやらなきゃって人を、いっぱい見られたのは、
ぼくにとってもうれしいことでしたよ。
くどいけど、最初の核になる「夢」が、
とても素晴らしかったということが、大事なんです。
だから、やっぱり、ウオルト・ディズニーという
一人の破天荒なまでのリーダーの背後霊がいたとか、
冗談を言いたくなるわけですよ。

「プロジェクトP」は6月20日に
「ピノキオ スペシャルエディション」が発売されると
また新たな章がはじまります。
そういえば、まだここでは、テレビCMも紹介してないし。
途中ですからね、仕事の道の半ばですから。

読者の方々の気にしてくれている経済的な利益も、
たくさんの人が『ピノキオ』を見てくれたら、
つまりは買ってくれたら、ちゃんと出てくるはずです。
「ほぼ日」を無料でやっていて大丈夫ですか、
と言ってくださるのはありがたいですが、
そっちを有料にするわけにはいかないんで、
「ほぼ日」以外で、「ほぼ日」をつくるような気持ちで
ビジネスをしていけばいいと思うんですよ。
コミュニケーションという難しくてたのしいことを、
どうやって仕事にしていくのか、
いつでも「ほぼ日」という教科書を見ながら
やっていけるのは、ほんとうにありがたいです。

これが、「ほぼ日」以外の
東京糸井重里事務所の仕事です。

今回は、「プロジェクトP」という
直近の典型的な仕事を
紹介してみましたけれど、必ずしも、
こんなふうに幸せなケースばかりでないのは
当然です。
だけど、ぼくらの考え方は、
いつも同じだと言えます。
すこし、わかってもらえたでしょうかね。

東京糸井重里事務所はどんどん進化していきます。
人間の数に比例して、仕事はつくれます。
「やりたいこと・やったほうがいいこと」が
思いとして生みだせれば、はじまるのですから。
もし、いずれ、人を募集したいと声をかけたときに、
夢を信じている実力のある人が、
「その船に乗り込みたい」と思ってくれるような、
そんな仕事をしっかりやっていきたいと思います。

じゃ、また「ほぼ日」のdarlingに戻ります。

文中に登場してしまった関係者の皆さん、
どうもすみません、どうもありがとうございました。

東京糸井重里事務所 

代表・糸井重里

このページに対する激励や感想などは、
メールの表題に「プロジェクトP」と書いて、
postman@1101.comに送ってください。

2003-06-09-MON

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