糸井 | 志の輔さん、 お弟子さんをとらない時代がありましたよね。 |
志の輔 | そう、そういえば、ありましたね。 |
糸井 | それは、どういう理由でとらなかったんですか。 |
志の輔 | 今は6人いますけど、 あのころは、確固たる理由はなかったんでしょうけど、 たぶん、人の面倒をみてるヒマが なかったからじゃないですかね(笑)。 |
糸井 | いまは昔よりも、そのヒマはないくらいですよね。 でも、お弟子さんはいる。 |
志の輔 | います。 新しい弟子志願者が来たとき、 いつも思い出すのは、 「俺も談志にとってもらったから今があるんだ。 自分が履歴書をもって行ったとき、 あのとき談志から、 『忙しいから、おまえみたいな サラリーマン崩れはいらねえよ』 って言われたら今の自分はないんだ‥‥」 と、これを思い出し、一生懸命、面接してますよ。 |
糸井 | なるほど。 |
志の輔 | でも、そんなこと言ってたら、 志願者は全員とらなきゃいけなくなりますけど、 よくしたもので、 結局、縁のある、ないってことなんでしょうね。 |
糸井 | すっと決まるわけじゃないんですね。 |
志の輔 | いちばん縁のなかった子はね、 『ためしてガッテン』の打ち合わせをしてるときに 「弟子にしてください」って来たんです。 「じゃあわかった、打ち合わせが終わったら、 話だけは聞くから楽屋で待ってなさい」 と言いました。 それで打合せが終わって、楽屋に行きました。 そうしたら、 そこにカラになった局の弁当箱がある。 聞いたら、楽屋にスタッフが 私の弁当を届けてくれたんですが、 ただスタッフが一言 「お弁当です」って来たものだから、 自分の分だと思って食べちゃった、って。 「ごちそう様でした」って(笑)。 |
糸井 | あちゃー(笑)。 |
志の輔 | そんなことあります? コントじゃないんだから(笑)。 この子が、弟子にとるとかとらないとかではなく、 接触時間、最短の弟子志望でした(笑)。 |
糸井 | (笑) |
志の輔 | あきれながらも言いましたよ。 「驚いたよ。君はある意味、すごい」と。 「ただ、そのすごさは、 よそで発揮したほうがいいと思う」 |
一同 | (笑) |
志の輔 | ほんとの話なんですよ、作り話じゃないんですから。 |
糸井 | つわものだなぁ(笑)。 |
志の輔 | まあ、そのあとにも ご縁のない弟子志願は大勢いました。 でも結局は、タイミングとか、 間が大事なんでしょうね、弟子入りにも。 やる気さえあればなれるってもんじゃないんですね。 |
糸井 | そうですね。 やる気だけはありますは、ちがいますね。 |
志の輔 | そういえば、 ぼくが談志に弟子入りする前に、 弟子入り志願者が途切れた時期が あったそうなんですよ。 そしたら師匠談志が、 「そうだ、新聞に募集を出そう」と。 |
糸井 | また、おもしろいことを(笑)。 |
志の輔 | ねえ(笑)。 「新聞にタダで募集を出せるんなら、 『談志、弟子募集』って出せ、おもしれえから」って。 タダならっていう条件が、また師匠らしい。 |
糸井 | ははははは。 |
志の輔 | 何考えても、センスがよかったですね、師匠は。 |
糸井 | すごいですね。 |
志の輔 | あの、急にはなしが飛びますが、 最近しったことなんで、 忘れないうちに言っとかないと(笑)。 あの、トルコという国にですね‥‥ |
糸井 | はい、トルコに(笑)。 |
志の輔 | そう、トルコに、 落語の元のような芸があったという説があって‥‥ 椅子に座っているんですが 杖をついて、ハンカチを持って ひとりで語る落語のような話芸があったそうなんです。 「メッダリク」という芸で、 これがシルクロードを通って、 中国から朝鮮半島を経て、 日本で、落語の形になったんじゃないか、と。 BSの番組の企画で、 私がロケに行くことになるかも‥‥。 |
糸井 | ほおー。 落語シルクロードがあった。 |
志の輔 | でも、残念ながらいまは存在しないそうです。 その理由が、 徒弟制度を確立しなかったからじゃないかと。 〇〇亭とか、〇〇家とか、屋号があるような、 弟子師匠の関係を作っていれば、 今も残っていたのではないか、という説があるんです。 いまでは、「昔こういう芸能があった」という 博物館的に写真や物語が残ってるだけだそうで。 |
糸井 | なるほど。 ある形式で囲まれて助かっている部分が、 実はすごく大きかったということですね。 |
志の輔 | そうですね。 徒弟制度じゃなかったら、 落語も残ってなかったかもしれませんね。 |
糸井 | そうでしょうね。 たとえば、敵同士になりますよね、落語家同士が。 |
志の輔 | そうそう。 考えようによっては、 自分の商売仇を育てているようなもんですもんね。 実におもしろい制度ですよね。 |
糸井 | そうですね。 |
志の輔 | でも結局のところ、師匠談志は 「お茶やお花はみんな金取ってるのに、 なんで落語だけ金取らないんだ、おかしいだろ」 と、立川流に家元制度を導入したのです。 つまりは、弟子から上納金を納めさせたのです。 |
糸井 | あんなに稼いでたのに(笑)。 |
志の輔 | ほんとにねえ(笑)。 |
糸井 | まあ、こうして、 談志さんのことをみんなが面白おかしく、 困った人だとか、理不尽だとか言いながら これだけ語ってるってことは、 「談志」という形式そのものが やっぱり強烈に愛されているんですよね。 |
志の輔 | おっしゃるとおりで〜〜す(笑)。 |
糸井 | イラストレーターの和田誠さんが、 ドキュメンタリーで 談志さんの楽屋を訪ねていくシーンがあったんです。 和田さんって、 ぼくが知ってる人の中では、 きっといちばんの人格者なんですよ。 欠点がないと言えるくらい、いい人なんです。 その和田さんが 談志さんのところに行ってたということは、 それに見合う談志さんっていうのも いらしたということですよね。 困った人、理不尽な人、ということだけじゃなく。 |
志の輔 | そう、そうなんです、いらしたんです(笑)。 とにもかくにも、言動すべてがネタになった人でした。 |
糸井 | ああ、そうですよね。 |
志の輔 | 晩年は 「今日の高座、談志さんやった? 落語」 なんて言われて、公演に予定通り来たか来ないか、 落語やったかやらなかったか、 早い話が「そこにいる」だけでよろこばれる。 生きているときから、もう仏様状態ですよ(笑)。 |
糸井 | よく、「パンダ扱い」という言い方がありますよね。 「どうせ、客寄せパンダだから」とか言うんだけど、 寄せられるパンダはすごいんだと、 最近はよく思うんですよ。 受け手をそれだけざわめかせたり、 よろこばせたりするパンダって、すごい。 「いろいろ言うあなたは、パンダになれないでしょ?」 という気持ちは、ありますねぇ。 (つづきます) |