志の輔 | 気仙沼では、自分にできる最高のおもてなしを させていただこうと思いますよ。 多くの方のご参加をお待ちしてます。 |
糸井 | ありがとうございます。 もう、「たのしみです」としか言えません(笑)。 |
志の輔 | わたしも、まるで本人のことのように、 たのしみです(笑)。 |
糸井 | ええと‥‥さんま寄席の打ち合わせは、 これでひとまず大丈夫?(ほぼ日乗組員に) |
ほぼ日 | はい。 あとは細かなことを気仙沼のみなさんと話し合いながら 決めていきます。 |
糸井 | そうですか。 志の輔さん、まだお時間はありますか。 |
志の輔 | え? ええ、大丈夫ですよ。 |
糸井 | そうですか。 じゃあ、せっかくですからこのまま、 なんとなく、対談‥‥というとおおげさですが、 もうすこしお話、大丈夫ですか。 |
志の輔 | もちろん、もちろん。 |
糸井 | ありがとうございます。 じゃあ、あと15分くらい。 |
志の輔 | 15分、ええ、大丈夫ですよ。 ‥‥あらためまして、よろしくお願いします(笑)。 |
糸井 | よろしくお願いします(笑)。 |
志の輔 | ‥‥なんのはなしをしましょう。 |
糸井 | そうですね‥‥ まぁ、さんま寄席の打ち合わせだったので、 まずはその流れで質問をさせてください。 「気仙沼さんま寄席」のような、 ちょっと毛色の違った落語会をやるときには、 どうなんでしょう、 志の輔さんでもちょっとした覚悟のようなものが 必要なのでしょうか。 |
志の輔 | そうですねぇ‥‥引き出しを開ける支度ですかね。 その日、どんなお客様か分からないわけですから、 今自分が持っている噺の引き出し、 まあいくつあるのかは自分でもわかりませんが、 よろんでもらえる引き出しを、早く見つけて、 開けられるように頭の中を スタンバイしておくことですかね。 でも一番の究極は 「そこにいる」ことをよろこんでもらえる、 そういう落語家だったら最高なわけなんですけど‥‥。 |
糸井 | 「そこにいる」。 |
志の輔 | いや、究極の芸人論で言えばですよ。 かの古今亭志ん生の逸話にある、 寄席の高座で登場してお辞儀はしたけど、 酔ってて頭を下げたまま、寝ちゃった。 でも起こそうと舞台袖から出てきた前座さんに、 「寝かせといてやれ」とお客が言って、 寝ている志ん生師匠を、 クスクス笑いながら見ていたという‥‥ ここまでいったら、芸人冥利ですよね。 どんな演目をやるかじゃなくて、 「そこにいてくれる」だけで 観てる人が幸せになる。最高でしょう。 |
糸井 | なるほど。 志の輔さんはおそらく、 大学で落語をやっていたときにも 言葉としては同じこと言ってるはずですよね。 「志ん生のように、 いるだけでいいっていうのが理想なんだよ」 それは、23、4のときにも言ってたと思います。 |
志の輔 | かもしれませんね(笑)。 |
糸井 | でも、そのときとはやっぱりちがう。 心の底から、意味とバイブレーションを合わせて そう思えるのは 年齢を重ねてからですよね。 |
志の輔 | そうですね、時代と質が違いますよね。 談志が亡くなって、 本当にいろんなことが沁みてきましたね。 |
糸井 | ああーー。 |
志の輔 | 自分の師匠がいなくなった。 で、今度は自分に弟子がいる。 最近一番弟子が真打になろうという決意を見せ始めた。 評価してくださいと言われて、 この前初めて弟子の落語会を 始めから終わりまで客席で見ました。 いやはや、自分の会より疲れましたね(笑)。 思えば、2007年のパルコ劇場に、 師匠談志が来てくれて、始めから終わりまで、 客席で観てくれたことを思い出しましたよ。 あの時、談志も同じ気持ちと疲れだったんですかね。 評価って何だろう? と思う‥‥。 談志もわたしをどう評価していたんだろう? そもそも芸人の評価って、なんだろう。 ましてや師匠が弟子に下す評価って‥‥ 考えてみれば弟子も師匠を評価して、 弟子入りしてるんですよね(笑)。 考えれば考えるほどわからなくなる。 これがおもしろい。 |
糸井 | わからないから、おもしろい。 |
志の輔 | そう、そうです。 |
糸井 | あの、落語というのは 耳の中に入ってきて、 人体を駆け巡るわけじゃないですか。 そうして落語は、やっと完成するというか。 聞き手のいない落語って、ありえないですよね。 |
志の輔 | そうですね、聞き手がいないと、 「独り言」ですから(笑)。 |
糸井 | ぼくらは「生産と消費は同じものだ」っていうことを ふだんから仕事の中でずっと言ってるんですが、 落語も同じですね。 聴く側がどれだけつくってくれてるか、という‥‥ |
志の輔 | そう! 落語をつくってるのは聴き手です。 |
糸井 | ですよね。 |
志の輔 | だから、その日のその場所の「聴き手」に合う引き出しを、 即座に探し、開ける。 合えば良し、合わなければ、次の引き出しを、と。 とにかく話の引き出しを増やすために、 これでも見聞を広めているつもりなんですが‥‥ これがなかなかねえ‥‥。 (つづきます) |
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