「気仙沼さんま寄席」ことしもやります記念対談  落語のはなしを しましょうか。

第六回 選び返す時期。
志の輔 この一年ぐらい
師匠談志に教えてもらったことが、
数珠つなぎになって次から次へと浮かんでくる。
自分の弟子を見て思うことも
少しずつ変化してきましたね。
これからは今までにない
大変さが待ってるんでしょうね、
わたしにも、弟子にも‥‥
糸井 違う旅になったんですね。
志の輔 談志がいなくなった、
ということもそうですが、
私も来年、還暦ですからね。
仮に元気にやれるのがあと10年だとします。
糸井 はい、仮に(笑)。
志の輔 年間に100ぐらいの落語会をやるとすれば、
それを10年ですから、
あと1000回じゃないですか。
「1000回しかやれないのか?」
みたいな、あれ?
なんだかネガティブな話になってきましたね(笑)。
糸井 いや、ネガティブっていうか、
それは当然の流れだと思います。
きょうのお話の最初に、
「落語は聴き手がつくるもの」
っていうのがありましたよね。
志の輔 ええ、ええ。
糸井 やっぱりいちばんたいせつな部分というのは、
お客さんの耳があって、落語家の口がある。
その関係なんですよ。
「その関係こそが、ほんとーにすべてなんです」
と言い続けたいですよね。
志の輔 ええ、それは変わらないことですよね。
ただ以前のように
ふらっと聴きに来てくれるお客さんだけ、
というのと違って、
今は娯楽の種類だけでも、
何十とある時代では、
「この人を聴きに行こう」と決めて
チケットを買ってきてくれるお客さんに、
そのお客さんの為だけの、
落語の世界を創っていく、
そういう楽しみと大変さも
併せ持った時代ですよね。
糸井 そのとおりですね。
志の輔 だから、たまたまその日、
一回だけつまらなくても
「ああ、ダメだな、こいつは」って思われたら、
そのお客さまとは、もう生涯会わない(笑)。
糸井 「ダメだな」って思われることは、
ぶつかり合いですよね。
耳と口がぶつかり合ってます。
どっちが耳でどっちが口だか
わからなくなるくらいが、憧れですよねぇ。
志の輔 ほんとうに。
ですからそういう意味では、
あと10年ぐらいしか、
お客さんと戦えないぞ、と思えば、
今までと違う
わくわくがあるような気もしますが‥‥。
糸井 戦うように落語を‥‥。
なるほどぉ。
いまのお話を聞いていて思ったんですけど、
以前ぼくは、志の輔さんのことを
「落語に選ばれちゃった人間だ」
という言い方をしてました。
でも、もしかしたらもう、
自分から「選び返す時期」が来たのかもしれませんね。
志の輔 ‥‥ああーー面白い。
はい、はい、なるほどねえ。
糸井 つまり、悪い言い方をすれば、
落語の奴隷だったんですよ、いままでの人生(笑)。
志の輔 (笑)
糸井 「落語」っていうやつから、
「おまえ、俺のために全力を尽くせ!」と言われてた。
そして不運にも(笑)、
志の輔さんにはその命令を果たす力がすごくあった。
だからずっと、一所懸命に尽くしてきた。
ところが、急に、ハッと、
「落語」っていうやつと正面から目が合った。
それが、いまじゃないでしょうか。
志の輔 なるほどねぇー(笑)。
糸井 そのきっかけもやっぱり
師匠がいなくなってくれたおかげかもしれません。
志の輔 そうかぁ。
糸井 だから、ついに選んでるんじゃないかな。
それは、おもしろい時期ですよねー。
志の輔 おもしろい時期ですかー。
糸井 好きなことをやる10年とはいえ、
「これからどうするの?」
っていう視線もすごく集まりますから。
志の輔 たしかにこのところ、
以前にはなかった、
いろんなところからの視線を感じますね。
これを専門用語で
「プレッシャー」と言います(笑)。
糸井 しょうがないです、これはもう(笑)。
‥‥おっと、
15分だけ対談をと言ったのに、
なんでしょう、1時間をらくに超えています。
志の輔 あらまぁ。
糸井 たいへん申し訳ございませんでした。

またもやあらためまして、
「第2回 気仙沼さんま寄席」
よろしくお願いいたします。
志の輔 こちらもあらためて、
よろしくおねがいします。
糸井 やっぱり、「たのしみです」としか言えません(笑)。
志の輔 わたしもです。
まるで本人のことのように、たのしみです(笑)。


(対談をおわります)



2013-08-10-SAT
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