糸井 | そもそも、冷泉さんは、 オバマさんをご存知だったんですか? |
冷泉 | 大多数のアメリカ人と同じですね。 今回の大統領選挙がスタートする前、 つまり4年前の民主党大会で いきなり基調演説に抜擢されたのが オバマさんだったんですよ。 そこではじめて、知りました。 |
糸井 | やっぱり、いきなり感があった? |
冷泉 | ありましたね。「誰だ?」‥‥って。 聞けば、イリノイ州の一州議会議員で、 次の上院議員選挙に もしかしたら出るかもしれない人だと。 |
糸井 | その程度だったわけですね。 |
冷泉 | ええ。そのときの彼の演説の内容は 「分断するアメリカ」じゃなくて 「ひとつのアメリカにしよう」 というような趣旨だったんですけど‥‥。 |
糸井 | ええ、ええ。 |
冷泉 | わたしの印象としては、 みんな「ほう‥‥」って感じで聞いてた。 |
糸井 | そのときに「オーラ」のようなものは‥‥。 |
冷泉 | ‥‥やや。 |
糸井 | やや。 |
冷泉 | やや、あった‥‥くらいですかね。 |
糸井 | それよりも 「いきなり抜擢された一青年」って感じが やっぱり、強かった? |
冷泉 | うん、そうですね‥‥。 でも、そのわりには「すげぇな」という感じ。 |
糸井 | なるほど‥‥4年前には まだ上院議員でさえなかったんですもんね。 |
冷泉 | で、その民主党大会の基調演説以降、 オバマさんについての報道が じょじょに、増えていったんですよ。 |
糸井 | その後、上院議員にも当選し。 |
冷泉 | アメリカ合衆国の上院議員というのは 100人しかいませんし、 ひとりひとりが一国一城の主みたいなもので、 かなり権力を持っているんですね。 |
糸井 | ええ。 |
冷泉 | その有象無象の‥‥と言ったら失礼ですが、 百戦錬磨の上院議員たちのなかで、 物怖じしないで、対等にやっていくんです。 |
糸井 | オバマさん。 |
冷泉 | それがまた、力まず、自然な感じでね。 だから、これは‥‥なかなかの人物かもと 思ったんです。 |
糸井 | 冷泉さんがそういう情報を得るのって、 おもにテレビを通じて、ですよね。 |
冷泉 | ええ、そうですね。 |
糸井 | それはつまり、一般家庭に住んでいる ふつうのアメリカ人の目に そういうオバマさんの姿が触れる機会も、 同じように、 増えていったということですね。 |
冷泉 | ええ、そうですね。 その4年前の基調演説の時点から、 やがては大統領候補として 擁立されるかもしれないというウワサが じょじょに、高まってきて‥‥。 |
糸井 | はい、はい。 |
冷泉 | でも、それがまさか「2009年」のことだとは、 誰も思ってなかったわけですけど。 |
糸井 | そうか、そうか。 それよりも「ヒラリー大統領」のほうが もっと、想像されてたわけですもんね。 |
冷泉 | そうです。 まぁ、ヒラリーという人は、 元ファーストレディとしての知名度は ばつぐんですし、 外交的には弱腰と非難されるのを警戒して、 かなり戦略的な「タカ派」なんです。 イラクにも行くぞ、 アフガンにも行くぞ‥‥みたいな。 |
糸井 | もう、ギラギラしてますよね。 |
冷泉 | 見え見えの野心が丸出しでしたからね。 はじめは「ヒラリー大統領」でした。 |
糸井 | オバマさんは、そんなヒラリーさんと 予備選を戦ったわけですけど、 「勝負あったな」というタイミングは どのへんだったですか? |
冷泉 | いまから考えると、 やっぱり‥‥ペンシルバニア州あたりが、 ひとつの山だったと思います。 |
糸井 | そこ、ヒラリーが有利だって言われてた‥‥。 |
冷泉 | そうです、そうです。 |
糸井 | そこで、オバマが勝っちゃった。 |
冷泉 | まぁ、それには いろいろ理由があるんでしょうけど、 大きくいうと、やっぱりある時点から オバマさんの言葉のほうに 一貫性を感じるようになってきたんです。 |
糸井 | あの‥‥いま話に出た「野心」と同じで、 「興奮」みたいなものも、 ある程度、表現しないと アメリカの物語としては ドラマティックに感じられないってところ、 あるじゃないですか。 |
冷泉 | ええ、ええ。おっしゃるとおりです。 |
糸井 | ヒラリーも、マケインも‥‥ あるいは、これまでの歴代大統領たちも、 ある場面では、 とても上手に興奮して見せましたよね。 |
冷泉 | 情熱を示すというかね。 |
糸井 | その点、オバマさんという人は、 そういったそぶりを あんまり、見せてこなかったように、 ぼくは思ってたんです。 |
冷泉 | たしかに、終始クールでしたね。 |
糸井 | それどころか、ニュースかなにかで ちょっと困った顔を見せたりして‥‥。 でも、それがまた「この困りかたは誠実だな」って 思えたりしたんですよ。 |
冷泉 | ほう‥‥。 |
糸井 | あのオバマの姿が支持されているのなら、 古き良きアメリカの価値観‥‥ つまり、 カウボーイ的な、男らしい情熱的な価値観も 変わりつつあるのかな、と思いました。 |
冷泉 | なるほど、なるほど。 ただ、 「困った顔をして、たたずむリーダーの姿」 というのも、 じつは、もう一方で「アメリカ的」であると 言えるかもしれません。 |
糸井 | ほう‥‥それは? |
冷泉 | ホワイトハウスに、今もかかっている ケネディの有名な肖像画があるんです。 そのケネディは、両手を組んで、 うつむき加減に、困った顔してるんです。 |
糸井 | ああー‥‥、見たことあるかも。 |
冷泉 | 深く考え込んでいるようにも見えるし、 困ってるようにも見えるんですが‥‥。 |
糸井 | ええ。 |
冷泉 | 歴代大統領の肖像画のなかでも 最も威厳があると言われているんですよ。 その「ケネディの困った姿」って。 |
<つづきます> | |
2009-02-20-FRI |