冷泉 | アメリカというと、どうしても カウボーイ的なイメージが強いと思うんですが、 その「ケネディの肖像画」に見られるような、 言葉の届かない、言葉では表せない 「沈黙の世界観」や「闇」みたいなものが、 反面で、やっぱり、あるんですよね。 |
糸井 | 文学や映画のなかには、 ずいぶん、描かれてますけどね。 |
冷泉 | そう、そうなんですよ。 |
糸井 | そもそも、アフリカ系の大統領なんて、 映画のなかでは ずいぶんまえから登場してましたし。 |
冷泉 | テレビドラマの『24』とか。 |
糸井 | あの人も困ってばかりいたけど。 |
冷泉 | あはははは、たしかに(笑)。 |
糸井 | でも、現実の政治の場面では、 それは「よし」とはされないわけですか。 |
冷泉 | そうですね、ふつうは。 |
糸井 | カウボーイ的な流儀が アメリカの政治だとされてきたけど、 でも、冷泉さんとしては、 「沈黙の世界観」のようなものの面積も かなり大きいと、言えるんじゃないかと。 |
冷泉 | わたしは、そう思います。 |
糸井 | そんな付き合いをしてみたいですね、 アメリカと。 |
冷泉 | だから、アメリカのパートナーとして うまくやっていけるのって、 やっぱり、 日本じゃないかなと思っているんです。 |
糸井 | ほう。 |
冷泉 | たとえば「沈黙の重み」であるとか、 「あうんの呼吸」であるとか‥‥ そういう文化を持っている日本だからこそ、 アメリカの「沈黙」を、 理解することができるんじゃないかと。 |
糸井 | アメリカのほうにも、 そういう思いはあるんでしょうか? |
冷泉 | なんとなく、 気づきはじめてるようなところは、 あると思うんです。 |
糸井 | アメリカから見ると「日本はまぶしい」って 冷泉さん、おっしゃってますよね。 |
冷泉 | はい。日本に住んでいると わかりにくいかもしれませんけど。 |
糸井 | それじゃ、オバマ大統領が生まれことで、 これからは、そういう流儀で アメリカとコミュニケーションできるって 期待しちゃっていいんでしょうか? |
冷泉 | 窓口のクオリティの問題になってきますが、 状況的には、 そういう準備がひとつずつ出来つつある、 という感じだと思います。 |
糸井 | ぼくね、いま急に思い出したんですけど、 ブッシュさんの前で、 小泉(純一郎・元首相)さんが プレスリーのマネをしたじゃないですか。 |
冷泉 | ああ、ありましたね。 |
糸井 | あれって「カウボーイのアメリカ」と それに憧れを抱いてきた日本を なんだか、みごとに象徴してますよね。 |
冷泉 | うん、そうですね。 |
糸井 | うつむくケネディはそこにはいない。 |
冷泉 | いません。 |
糸井 | うーん‥‥あの就任演説のまえの 「オバマの緊張した顔」に どこか、つながってくる話だなぁ。 じゃあ、もうちょっといきましょうか。 ヒラリーさんとの闘いに勝った オバマさんですが、 こんどは共和党のマケインさんとの勝負に。 |
冷泉 | はい、はい。 |
糸井 | 日本から無責任に眺めていたら、 ヒラリーに勝ったおかげで、 もう、はじめから「マケイン不利」みたいに 見えちゃってたんですけど。 |
冷泉 | たしかに、それはありましたね。 そこで、マケインさんは 副大統領候補として、 アラスカ州知事のペイリンさんという ウルトラCを持ってきたんです。 |
糸井 | ああ‥‥そうだった。 |
冷泉 | 一瞬、人気が出たんだけど、すぐダメになって そのあとに ガーンと、リーマンショックが来ましたでしょ。 |
糸井 | ええ。 |
冷泉 | その金融危機の立ちまわりに マケインさんが、しくじっちゃったところで、 もう「勝負あった」でしたね。 |
糸井 | なるほど‥‥そういえばこのあいだ、 オバマさんとマケインさんの ドキュメンタリーをやってたんです、NHKで。 ※BS世界のドキュメンタリーシリーズ アメリカ『オバマVSマケイン』(前後編) |
冷泉 | WGBH(ボストン公共放送局)が つくったやつですね。 |
糸井 | そのなかでは、ふたりの生い立ちが 対比されるかたちで描かれてたんですけど‥‥。 マケインさんを描いた部分で、 ベトナム戦争のとき、 北ベトナムで捕虜になっていたシーンの映像が 流れたりしたんですね。 |
冷泉 | ええ、ええ。 |
糸井 | その映像では、何年も捕虜生活を耐えながら、 「妻に会いたい」とか言ってたんです。 でも、ようやくアメリカに帰れたと思ったら、 待っていた妻とは別れちゃって、 別のきれいな女性と結婚しました‥‥って話が スッと、挟まってたんですよ。 |
冷泉 | そのドキュメンタリーに。 |
糸井 | さっきまでの愛妻物語が吹っ飛んじゃった。 |
冷泉 | ほう‥‥。 |
糸井 | なんか、そのエピソードの挟みかたに、 作り手の意図を感じたと言うか‥‥。 つまり、ペイリンさんという ミス・コンテストで優勝したような女性を 大抜擢しちゃった結果、 みずから、旗色を悪くさせてしまうことの 伏線として、 その話を挟み込んだような気がするんです。 まぁ、はっきりは言わないんだけど、 「マケインさんって 色気に弱いのが弱点なんだよね」みたいな 編集のしかたをしてたんですよ。 |
冷泉 | なるほど‥‥。 |
糸井 | まあ、あのドキュメタリーを見たときは マケインさんは負けかけてたから、 ぼくら野次馬には そう思えちゃったのかもしれませんけど。 |
冷泉 | ええ‥‥本当は、マケインさんって もっと、複雑な人だと思いますね。 |
糸井 | 複雑。 |
冷泉 | やっぱり、彼は彼なりに ひとつの物語を持ってるというか。 |
糸井 | ほー‥‥物語。 |
<つづきます> | |
2009-02-23-MON |