糸井 | ぼく、前回のブッシュさんのときには、 就任式を観た覚えがないんですよ。 |
冷泉 | まぁ、そうですよね。 |
糸井 | もちろん、その前も、その前の前も。 冷泉さんは毎回観てると思うんですけど、 これまでの就任式と どのような「ちがい」がありましたか? |
冷泉 | やっぱり、今回は「特別」でしたよね。 で、それは、なぜかと言ったら 話してきたように、 やっぱり「人種の問題」が大きいです。 |
糸井 | 政治って、本当は「政治嫌いな人」が やるべきといいますか‥‥。 なんというか、「やりたくない人」が 「どうやるか」を考えるのが、 豊かなんじゃないかなって思うんです。 |
冷泉 | ええ、おっしゃるとおりですね。 |
糸井 | そういう意味で、オバマさんって 「好きじゃないけど、やるんだよ」って人に、 見えたんですよね、なんとなく。 |
冷泉 | そうかもしれません。 |
糸井 | さっきのドキュメンタリーで観たんですが、 若いときのオバマさんって たとえば、ハーバードの学生のときに、 なにか伝統のある 法律の専門誌の編集長になったりするんだけど、 いつでも「仲裁役」にいるんですよ。 |
冷泉 | ああ‥‥なるほど。 |
糸井 | つねに「対立のまんなか」にいる。 |
冷泉 | うん、うん。 |
糸井 | ご自身、ケニアと白人のハーフですけど、 「まんなかにいる人」って 何らかの利益や党派やグループに、 簡単には与することはできないでしょう? |
冷泉 | おっしゃるとおりですね。 |
糸井 | なんか、生まれながらにして、 なかなか キツい場所にいるなぁと思ったんです。 |
冷泉 | なるほど。 |
糸井 | と同時に、どの場面でも、 「好きじゃないのに、任されてる」みたいな 雰囲気があったんですよね。 野心でギラギラしてないから そう思うのかもしれないけど。 |
冷泉 | さっき、百戦錬磨の上院議員のなかで 堂々としてたと言いましたけど‥‥ 調整役だったんですよ、オバマさんって。 |
糸井 | へぇ、上院議員としても? ‥‥おもしろいなぁ。 |
冷泉 | ニュース報道なんかを見ていると 長老議員から、 しかも、民主党じゃなくて、 相手方の共和党の長老議員たちから 可愛がられてたみたいですね。 |
糸井 | ほぉー‥‥。 |
冷泉 | それと、もうひとつ、特徴的なのは‥‥。 |
糸井 | ええ。 |
冷泉 | 今回、オバマを大統領に押し上げた理由は さまざま語られると思うんですけど、 とても大きかったのが インターネットの使いかただと、思います。 |
糸井 | ほう、インターネット。 |
冷泉 | ものすごく「きめ細やか」だったんですよね。 |
糸井 | それは‥‥具体的にいうと? |
冷泉 | まあ、メルマガの配信とかはもう、 ふつうにあるんですけど、 オバマさんのホームページに行くと 郵便番号の登録があるんです。 |
糸井 | ええ。 |
冷泉 | 郵便番号を登録して以降、 そのオバマのホームページを訪れると、 「何月何日、 あなたのお宅から何マイルのところで、 ミニ集会が開催されます」とか 自動的に表示されたりするんですよね。 |
糸井 | へぇー‥‥。 |
冷泉 | あるいは、何月何日、どこどこで、あと3人、 ビラ撒きのボランティアを募ってます‥‥とか。 |
糸井 | なるほど。 |
冷泉 | 実際には、その集会に行かないまでも、 なんとなく、 自分も一枚かんでるような気分に させられちゃうんですよ。 |
糸井 | テレビニュースか何かで見たんですけど、 マケイン陣営は 大口の献金が多かったのに対して、 オバマさんのほうは 数十ドル単位の小口献金が主だったって。 |
冷泉 | はい。 |
糸井 | 大口の人たちの場合は なかなか「もう一回」が難しいのに対して、 オバマの献金者たちは もう一回、お願いしますっていうと 「はいはい、50ドル」って‥‥。 そのちいさな積み重ねが ものすごい差になったって言ってました。 |
冷泉 | おっしゃるとおりですね。 |
糸井 | すごく、今の時代らしいなぁと思ったんです。 少ないエリートが大きな力を動かすんじゃなく、 アリが群がるみたいに、 入力も出力も、 ひとつひとつはちいさな単位のものが集まって、 大きな力を持つようになってる。 |
冷泉 | なるほど、うん。 |
糸井 | 民主主義の本来的なかたちが できあがりつつあるのかもしれないなぁって、 そんなことを、思いましたですね。 ‥‥ええーと、もう4時ですか。 |
<つづきます> | |
2009-02-25-WED |