糸井 | 今、ちょうど、午後4時になるんですが 時間がきたから さっと終わっちゃうのも寂しいので、 もうちょっとだけ、おつき合いください。 |
冷泉 | ええ、もちろん。 |
糸井 | ヒラリーに勝ち、マケインを破って誕生した オバマ大統領ですけど、 今後、何が、どうなっていくでしょう? |
冷泉 | ひとつには、歴史的だとか、 新しい時代だとか言われて生まれた オバマ大統領は、 絶対に「失敗できない」と思います。 |
糸井 | ほう‥‥。 |
冷泉 | 初のアフリカ系大統領という宿命ですよね。 意固地になってでも、とにかく最初の4年を、 最終的には8年間を、成功させたいはず。 その気持ちの強さというのは、 過去の大統領とは、ちょっとちがうでしょう。 |
糸井 | それはやっぱり「初」だから‥‥。 |
冷泉 | その気持ちが、どういうかたちで現れるか。 とにかく「やりとげる」と思うんです。 そして、ダメでも、投げない。 うまくいかなかったら、あの手この手で 次から次へと、繰り出してくる。 禁じ手を使うことも、いとわない‥‥。 |
糸井 | そういう感じ、 選挙戦のときもありましたよね。 過激な発言を繰り返すライト牧師と 決別する場面とか‥‥。 |
冷泉 | はい。 |
糸井 | 何十年も「師」と仰いできた人ですから、 すごく悩んだんでしょうけど‥‥ その「悩む姿」じたい、肯定的な感じがして。 あれは、今後に期待させてくれましたね。 |
冷泉 | あの‥‥選挙戦の当初、オバマさんって、 背広の襟に 星条旗のバッジを付けてなかったんです。 |
糸井 | ほー‥‥なんでですか? |
冷泉 | 最初のうちは 「星条旗はこころのなかにあればいい」って、 そういう言いかたをしてました。 |
糸井 | ふーん。 |
冷泉 | そもそも、背広の襟に空いている穴は、 花を挿す「フラワーホール」で、 そこに「帰属集団のしるし」をつけるのは、 朝鮮労働党と 日本の一部上場企業だけだって 田中康夫さんか誰かが言ってましたけど、 とにかく、あの「9.11」以降、 愛国心の高まりからか、 アメリカ人も 星条旗を胸につけるようになったんです。 |
糸井 | その風潮に反発していたとか? |
冷泉 | もちろん、反対派の人たちからは 「愛国心が足りない」とか ものすごく叩かれてたんですけど、 あらためるようすもなかった。 でも、あるとき、 庶民的な感覚を持ってるふつうの人に 「何か考えがあるのかもしれないけど あなたの愛国心は、私には届かないよ」って 言われちゃったらしいんです。 |
糸井 | ああー‥‥。 |
冷泉 | その後、何も言わずに、つけはじめた。 星条旗を、胸に。 |
糸井 | ほう。 |
冷泉 | あなたのような高級な考えかたは 草の根の人には届きません。 そう言われて、なんにも言わずに つけはじめるわけですけど、 それがなんか‥‥すごく自然でね。 あの自然な感覚は悪くないなと 思いましたね。 |
糸井 | なるほど‥‥。 |
冷泉 | それじゃ、これから、実際にはどうなるか。 政治を動かしていくためには、 そういう心理戦だけじゃ乗り切れませんから、 お金も絡んでくるでしょうし、 勝った負けたの話にも、なるでしょう。 そのときに、どうふるまうか、 どういう手を使ってくるかというのは、 興味を持って、見ていくつもりですが‥‥。 |
糸井 | うん、うん。 |
冷泉 | どうあれ、スピード感はあるでしょうね。 先ほども言いましたけど、 なにか政策がうまくいかなかったら、 次の手をくり出してくる。 ダメだったら、軌道を修正する‥‥と。 |
糸井 | うーん、なんだろう‥‥なんとなくですが、 オバマさんが「何がしたいのか」を まだ聞いたことがない感じ、あるんですよ。 |
冷泉 | ああー、なるほど。 |
糸井 | 経済を立て直したいのか、 戦争をしたいのか、撤退したいのか。 ヒラリーさんとかだったら なんか「勝ちたいんだよね」の一言で わかるような気がするんですけど、 オバマさんのやりたいことって‥‥ なんだろうって。 |
冷泉 | もしかすると 「まったくない」のかもしれないですね。 オバマさんには。 |
糸井 | ああ‥‥そうかもしれない気がする。 |
冷泉 | 勝ちとか負けとかの問題じゃなくて、 「終わりのない将棋」を ずーっと指し続けたい‥‥んじゃないかな。 対戦相手も、次から次へとあらわれて、 めちゃくちゃ複雑な戦略が必要で、 だけど、自分の順番がまわってきたら 指さなきゃいけない、そういうゲームを。 |
糸井 | なるほど。 |
冷泉 | 指しまちがいもあるかもしれない。 でも、何手か戻せば 最善手に、戻れるかもしれない。 そういう、終わりのない対局を続けて、 8年間、指し終わったところで、 最初の状態から比べたら、 けっこう良くなったでしょう‥‥というゲームを。 |
糸井 | そういうのって、なんだか新しい気がしますね。 考えかたとしても、リーダー像としても。 |
冷泉 | 問題がすべて解決された状態はないから‥‥。 |
糸井 | ない、ない。 |
冷泉 | 日々、最善手を打っていきたいし、 うちまちがえても、 なんとかリカバーしていきたい‥‥という。 |
糸井 | つねに問題を解決し続けるわけですね。 |
冷泉 | ものすごく先のことまで考えてるし、 理念も持っているんだけど、 終点をイメージしないで、やってる。 |
糸井 | ぼく、そういうタイプのリーダーを 知ってますけど‥‥ やっぱり、その人がリーダーであるおかげで、 なんかみんなハッピーになってますね。 |
冷泉 | そういうリーダーなのかもしれません。 バラク・オバマという人って。 |
糸井 | ああー‥‥なるほど、なるほど。 楽しみになってきたなぁ。 ありがとうございました。 こんなところにしておきますか、今日は。 |
冷泉 | はい、楽しかったです。 |
糸井 | 冷泉彰彦さんでした。 |
冷泉 | ありがとうございました。 |
<つづきます> | |
2009-02-26-THU |