ボクらがお店を開業してから、定期的に。
頻度にして、10日から2週間に一度くらいでしょうか。
ひとりでふらっとやってきて、
お酒も飲まず本を片手にニコニコしながら
食事をしていく、年の頃にして60半ばでしょうか。
好々爺という言葉がピッタリくる
おじさんがいらっしゃった。
ここの料理が口にあう。
店の雰囲気が好きで、
なにより若い人が一生懸命がんばっているお店を
贔屓にするのが好きなんだと、
なぜ、うちにこんなに頻繁にいらっしゃって
いただけるのです? と聞いたときに、言っていた。
最初は順調だったボクらの店が、
独りよがりでちょっと不人気に陥ったとき。
そのおじさんが珍しく、
「予約をさせていただきたいんですが」と。
次の週の水曜日。
12名で。
料理に注文はつけないけれど、
おいしいお酒をタップリ用意しておいて
いただけますかな‥‥、と、ニッコリという。
実は、オープン準備のときに気合を入れて仕入れた、
グランヴァンが沢山セラーに眠ってた。
ボクはワインリストを彼に手渡し、
もしこれでよろしければと指示を仰いだ。
えぇ、これで結構でしょう‥‥、とそして当日。
いつもは普段着でやってくる好々爺氏は、
ネットリとした光沢のある上等なスーツに身を包み、
取引先だという人たちを11人連れてやってきました。
それぞれ、シッカリとした会社の社長で、
いい仕事が一緒にできたお礼にゴチソウしようと
今日はやってきたんです。
本当は、ここのことを教えたくはなかったんだけど、
おいしい中国料理を食べたいとみんなが言うので
仕方なく。
たのしく本当によく飲む人たちで、リストを指差し、
これをもらおう、次はこれと、言われるがままに
ワインを抜いていくうちに、
ボクらのセラーの中に寝ていた、
売ろうに売れぬ高価なワインは
ほとんどキレイになくなった。
さてお勘定。
かなりの金額になったなって当然、
クレジットカードでお支払いになるとボクは思ってた。
お勘定書きをジックリとみて、満足気に
「若くて正直というコトはすばらしいコトですな」
といいながら、上着の懐から分厚い封筒を取り出した。
今晩のために銀行でワザワザおろしてきちゃいました。
封筒の中には帯がついたまんまのお札の束があって
そこから、ほぼ半分ほどのお札を数えてボクに手渡す。
カードもお請けできますのに、
と、そう言うボクに彼はこういう。
若い人がはじめたばかりのお店にとって、
カード手数料だけでも大きな負担でしょう。
だからこうして現金払い。
みんなもこうしたお店にきたら、
カードじゃなくて現金で払ってやってくださいネ、と。
おつりを持ってきたボクに、
彼はそこにいた全員分の名刺をまとめて手渡して、
その人達はそれからボクのお店の
馴染みになってくれたのです。
それからも好々爺氏はフラッと予約もせずにくる。
時折、こうしてお客様を紹介してくれ、
そうしていつも現金払い。
あぁ、この人はこの店を育てようとしてくれてるんだ。
いつかはこんな人になりたいと思うと同時に、
なんとかこの人の役に立ってお返ししたい。
そう心から思うようになりました。
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