飲食店の経営は5つの要素でできている。
そう言われます。

おいしい料理。
ステキなサービス。
働きやすく居心地の良いお店。
効果的な宣伝。
営業内容にあった立地。

この5つ。

必要なモノは当然、買ってこなくちゃいけない。
つまり仕入れであります。
売上金から仕入れをふくめた
いろんな「支出」を引いたモノがざっくり利益。
利益を出そうと思えば、
まず、仕入れを賢くすることが必要になる。
これはどんな商売でも同じコト。

おいしい料理に関する仕入れは「原料費」。
ステキなサービスに関する仕入れは「人件費」。
居心地の良いお店を仕入れるお金は「建築費」です。
さらに「広告宣伝費」や「家賃」「リース料」。
そして「水道光熱費」などの経費を支払った残りが利益で、
利益をちょっとでも多く出すために必要なことは
売上自体を上げるか、さもなくば支出を減らす。
つまり、「安い仕入れ」をすることとなるわけです。

景気がいいときは、良い料理を作ったり、
良いサービスを提供することで
売上高自体を増やすコトが簡単。
だから仕入れのことはあまり心配しなくてもいい。
ところが景気が悪くなったり、
お客様の消費熱が冷めてくると仕入れを工夫することで、
利益を出すことを考えなくてはならなくなる。
ここ20年ほど。
日本の外食産業の経営努力の大きな部分は
「仕入れを安くすること」だったと言っても、
過言じゃないでしょう。

最近、値下げをしたんですよ‥‥、というお店に行くと、
頭の片隅に一つの疑問がずっと住みつく。
果たして何を安く仕入れるようにしたんだろう? って。

一番簡単なコストダウンは
原料費をカットすることなんだけど、
安直な仕方をすると料理の品質がてきめんに落ちてしまう。
お客様によって評価がわかれる味の工夫で
値下げをするならまだしも、量が減ったり個数を変えたり、
ひと目でわかるような値下げの理由は、
そのまま不人気の理由につながる。
だからお店の人は、あんまりその方法を採ろうとしない。

昔に比べてお店の人が疲れてみえる。
いつもは3人いたサービス担当の人が、
最近ずっと2人しかいない。
経験豊富な正社員ばかりでやっていた店が、
若いアルバイトが目立つようになってきた。
あぁ、人件費を節約することで
値下げを実現したんだなぁ‥‥、ってしんみりします。

ボクがまだかけ出しコンサルタントだった頃。
30年も昔のコトです。
日本中の飲食店が「外食産業」になろうと
一生懸命勉強をはじめた頃のコトでもあります。
飲食店が企業化をはたすためには、
未経験の人たちを即戦力化する仕組みを作り、
アルバイト主体の営業現場を
作らなくちゃいけないんだ‥‥、と。
ボクらはそう教わったのです。
たしかに飲食店は忙しいときと暇なときの差が激しい。
かつて郊外型のファミリーレストランなんて、
平日は休日の半分、
昼は夜の半分のお客様しか来ないのが当たり前。
それまでの飲食店は、
「忙しいときに合わせて」人を雇い、教育してた。
ところがそれじゃぁ、
暇なときには働かなくていい人がでてしまう。
暇なときが続けば人件費がかさんで利益がでなくなる。
忙しいときには多くの人で、
暇なときには最小限の人数で営業できるよう、
そのためにアルバイトを上手に使う。
アメリカで外食産業が発達したのも。
マクドナルドが世界で一番大きな
チェーンストアになったのも、
すべて、アルバイトを上手に使ったからなんだよ‥‥、と、
昔ながらの正社員をメインに使う店は
時代遅れといわんばかりの説明をする。

その考え方には一理ある。
けれどだからと言ってアルバイトに依存するのは、
人件費を下げたい一心。
「人を安く“買い”たい」から、コストのかかる正社員より
アルバイトを都合よく使いたいんじゃないのか‥‥、
なんて、食って掛かったコトがある。
若かったというコトもある。
けれど今でも、人件費を下げることばかりが
上手な会社やお店は好きじゃない。
飲食店はそこで働く人が作り出す、
料理やサービスがあってこその商売で、
だからどうやったら一円でも多くの人件費を
払うことができるかと、一生懸命になるのが本分。

 



人を安く買い叩くお店に限って、
宣伝費をタップリ使って平気だったりするから
なおさら、なやましい。

料理の品質が落ちたわけでもなく、
働いている人もニコニコしながら
いつもどおりに働いている。
広告をばらまいてお客様を大量に集めるコトを前提の、
薄利多売に転じたわけもない店が、
それでも値段を下げるコトができる理由のそのほとんどが、
のこり2つの仕入れ金額。
お店にかけるお金か、立地にかけるお金を
節約するかどちらかなのです。
特に立地にかける仕入れ金。
つまりほとんどの場合が家賃と呼ばれるお金ですけど、
それを節約するというコトは
お客様にほとんど迷惑をかけることのない賢い節約。
迷惑をかけるどころか、ほとんどの場合、
お客様に気づかれることもなく
大家さんに頭を下げるコトで
利益を確保しようとする経営努力。

飲食店の家賃って一体、どうなっているんでしょうか?
飲食店を一軒作るためには、どのくらいのお金が必要で、
それをどうやって回収するのが一般的な考え方なのか、
来週、おはなしいたしましょう。

 

2013-11-07-THU



© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN