さて、ボクが彼の飲食店の開業を手伝うかわりに
出した3つの条件。
ひとつはボクもお金をだすから、
口を出させてくれないか‥‥、というコトでした。
彼は大層よろこんで、けれど逆に
ひとつ条件をつけることを忘れなかった。
いくらでもいい。
でも絶対に借りたお金を
持ち込んだりするんじゃないぞ‥‥、と。
当然、当時のボクの年齢。
ボクの仕事のキャリアでは
金融機関がお金を貸してくれるはずもなく、
ボクはそれまでコツコツ溜めた貯金をはたいて、
彼のビジネスパートナー兼
コンサルタント兼従業員となった訳です。
そして2つ目の条件は、
「趣味で飲食店をしようと思うな」というモノでした。
裕福な人。
しかも豊かな生活をしている人は、
自然とおいしいモノに興味を持つ。
いろんなお店でいろんなおいしい料理を食べて、
おなじみさんとなるコトで、
特別なサービスを受けるコトができるようになる。
それで満足する人もいれば、中にはちょっと違う人もいる。
レストランですばらしい体験を積めば積むほど、
不満を覚える贅沢な人。
他のお客様のためでなく、
自分のために作られた料理を食べたい。
予約をしなくてもいつもフラッと行ける店。
面倒な注文をしなくても、今日一番おいしいモノを、
一番おいしい状態で味わうことができる店。
ないかなぁ‥‥、と思っていろんな店を
探してみるのだけれど、そんな都合のいい店が
この世にあるとは思えない。
そして、とあるアイディアを思いつくのです。
「自分の店をもてばいいんだ!」‥‥、と。
あるいは、自分のとびきりの友人を、
自分の店でもてなしたいという気持ちで
お店を経営したくなる人もいる。
レストランが好きだとはいえ、
レストランの経営のことはわからないからお金を出して、
誰か信頼できる責任者を雇って、
大抵、お店を開くことになる。
いわゆる、パトロンとか、スポンサーとか、
オーナーだとか呼ばれる立場。
自分はレストラン経営のプロではないけど、
食べるコトに関してはプロ。
だからどこにもないような、
いい店を作ることができるだろうと思って
ボクのところに相談に来る人が何人もいた。
食い道楽を極めたような人を満足させる店に、
足を気軽に運べる人が、他にそんなにいるはずがない。
だから集客に困りますよ‥‥、と忠告すると、
大抵、こんなふうにおっしゃる。
「資金は十分用意してるから、
お客様がこなくてもいいんですよ」と。
確かに、聞けば、
お店は自分の持ち物で、家賃がかかる訳じゃない。
けれどお店は生き物です。
眠りから目覚めて活動し、休んで再び運動し、
そしてグッスリ、眠りにつく。
そういう「生き物としてのサイクル」を
正しく繰り返すコトで、
はじめて魅力的になっていくのです。
いつ行ってもお客様がいるかいないかわからぬ状態。
お客様が来ないでは、
厨房で働く人の腕の発揮のしどころもなく、
サービススタッフの笑顔も儚い。
経験を積むことができないお店は、
開店直後がベストな状態。
年を経るごと、成熟するのではなく
どんどん劣化し、駄目になっていくものなのです。
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