それにしても不思議な景色だったでしょう‥‥。
最初にボクらのテーブルが
とんでも無いことになっているのに気づいたのは、
近くに座っていたおそらく現地の老夫婦。
テーブルクロスがひかれはじめた途端に、
建物の中をみながら「あら、どうしたの?」みたいな表情。
中が満席じゃないのに、なんでワザワザ、
お外で食事をするんでしょう‥‥、
みたいなコトを言っていたのに違いない。
でも、ボクらの横に調味料をもってウェイター氏が
凛々しく立ってサービスしはじめると、
老夫婦がニッコリしながら、カメラを出して、
パチリとボクらを撮るではないの。
そして「ボナペティ」といい、
ウェイター氏に何かをしゃべる。
早口のイタリア語がまるでわからず、キョトンとしてたら
「本当は私もココでしっかりとした料理を食べてみたいと
ずっと思っていたのよって、おっしゃいました」と。
そしてメインのまずはリゾット。
フルーツ用の小さなボウルにスプーンですくって
3口、4口くらいでしょうか。
あら、小さい‥‥、という母に、
三度に分けてお持ちしますから‥‥、と。
なるほど。
外のテーブルは昼とはいっても涼しくて、
料理がすぐに冷めてしまうからなのでしょう。
まるでわんこリゾットネ‥‥、って笑いながらも、
心憎さに感心します。
母のリゾットの器が小さい分だけボクの、
ビステッカ用のお皿はほどよき大きさで、
ただ肉の大きさに比べて少々小さくて、かなりはみ出す。
だからボクがスゴく大食いのように見えるのでしょう‥‥、
広場を歩く人たちがニコニコしながら手をふってくる。
中には近づいてきて、骨の周りは手づかみで‥‥、
って両手で肉を掴んでかぶりつく仕草をしたり。
すっかり街の人気者(笑)。
都合2時間ほどの食事でしたか。
たしかにカフェの椅子は硬くて、
ずっと食事の姿勢をするのは大変で、
けれど言い出したのはボクらであります。
だから必死にやせ我慢。
料理はとてもおいしかった。
けれど料理の味以上に、お店の人が一生懸命、
ボクらのために工夫をしてくれたというのが
とてもウレシクて、
「ボクたちのためにありがとう」
と言うとニッコリ、こう答えます。
「お客様のためであると同時に、
料理のためでもございました。
それぞれの料理にはそれぞれふさわしい舞台があって、
シェフが作るレストラン用の料理に
ふさわしいテーブルクロスのある舞台だけは、
守らなくちゃいけないだろうと、
それがみんなの意見でした。
料理を粗末に扱うと、
それを召し上がるお客様を
粗末に扱うことになりますから」
カフェの料理はランチボックスに入れて
持って帰るコトができるお料理。
サンドイッチや折りたたんだピザ。
フランス人が好きなステックフリッツだって、
パンに挟めば手づかみで食べることができる
料理でございましょう。
気取って食べるより、
ピクニックで食べてるみたいな
陽気と気軽が似合うのですネ。
あるいは広場に面した建物の、
階段に座って膝にランチボックスをおいて
たのしく食べられます。
そんな料理しか、うちのカフェでは
おいてありませんゆえ」
つまりカフェの椅子は階段のようなモノ。
カフェのテーブルは膝と同じようなモノ。
ボクらはそこにナイフ・フォークを並べて
食事をしたワケです。
それを知らずに、ボクらは何の気なしに
とんでもないリクエストを突きつけた。
もうその注文自体がココのルールに照らし合わせれば
滑稽で、でもその滑稽をバカにしないで
ショーのように仕立ててくれた。
お客様のいうことに、なるべくNoと言わないように。
けれど、自分たちの守るべきスタンダードは
犠牲にせぬよう、その折り合いをつけてもてなす。
それがプロの仕事なのでしょう。
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