040 超えてはならない一線のこと。その11
店に点数と順位はつけられない。

お客様は、あくまでお客様であるべきで、評論家じゃない。
評論家を気取るのであれば、
匿名ではなく実名で、
自分の言ったことに徹底的に責任をとる。
お店はいつも実名で、逃げも隠れもできませんから、
まず実名を心がけること。
それであって、はじめて公平。

ボクはだからいつでも実名。
それでも絶対しないように心がけているのが
「順位」と「点数」をつけないということ。
正確に言うと、つけないのではなく、
「つけられない」‥‥、のです。



かつて毎年、その一年で最も印象的なお店のランキングを
ホームページ用に作っていたコトがありました。
最初の年は何の気なしに。
ところが一旦、順位をつけてしまうと、
次の年からはその順位をつけることに
気持ちがとられてしまうのです。
昨日食べたお店と、今日食べたお店を比べてしまう。
どっちが良かったかばかり考えると、
純粋にお店の良さを感じることができなくなっちゃう。
なにより、楽しむことができなくなって、
外食することがつまらなくなってしまったのです。

そもそも、イタリア料理や日本料理を同じ土俵で、
どちらが上か下かを考えようとするから
面倒くさくなるのかも‥‥、と。
それでイタリア料理部門だとか、
中国料理部門だとかで順位をつけてみたりした。
ところが今度は、同じイタリア料理でもピザのお店と、
北イタリアのレストラン、あるいはシシリア料理の店と、
料理のタイプが違うお店を
同じイタリア料理のお店として扱い
順位をつけるのってナンセンス。
そしたらどんどん部門が増えて、
結局、どの店もがそれぞれの料理世界で
一番になっちゃいそうで、結局、やめた。

ならば点数をつけるというのは、どうなんだろう?

実は、飲食店を採点するというサービスを
以前の会社で提供していたコトがある。
依頼主はたいていの場合がチェーン店で、
お店のメニューもお店の規模も、
求められるスタンダードも同じだから、
採点基準も作りやすい。
理想的な状態の何%で営業されているかを、
プロのコンサルタントがチェックする。
うまくいくように思えたのだけど、問題が発生します。

問題のひとつは、見る人によって見方が変わるコト。
2人同時にチェックして、その採点は少々ばらつく。
飲食店を評価するということは、
そこに主観が混じってしまう。
好きや嫌いを完全に排除できればいいのだろうけど、
そんなことはできはしない。
もうひとつの問題は、
同じお店を同じ人が何回かみると、
毎回点数が違ってしまうコト。
人が働く飲食店は、人のレベルはそのときどきの気持ち、
ムードでその状態が変わってしまう。

このチェックシステムでチェーン店の評価をして、
給与水準なども含めて働く人の指針にできればいいな、
と思って試行錯誤をしたのだけれど、
点数だけでは本当の評価にはならないんだ、
ということがわかって、
結局、そのプロジェクトは立ち消えになっちゃった。



チェーン店ですら点数をつけて評価することはむつかしい。
評価する教育を受け、評価のためのチェックリストや
システムを完備させても、
点数をつけて評価することはむつかしい。
なのにこの世には、公平な評価基準を持たぬ人たちが
勝手に点数をつけて平気な、
評価サイトがあったりします。
なんだかすごく、オソロシイ。

衆知の集大成としてのそういうサイト。
お客様の立場で評価されている。
しかもたくさんの人達の意見だから、
お店の状態を正しく伝えるものなんだ‥‥、
と言われてかなり人気があります。

でも、人よって採点の基準がまちまちで、
ある人にとっての3点は、
ある人にとっての4点だったりするのが当然。
にもかかわらず、
そんなまちまちな基準で付けられた点数に
お客様もお店の人も振り回される。
ボクの好きなお店の点数が、あまりに低いと、
ボクまでけなされているみたいな気持ちになって、
哀しくなっちゃう。
いろんなお店があるように、
いろんなお客様もいるんだなぁ‥‥、
と余裕を持って見ることができればいいのでしょうけれど、
やっぱり気持ちがさみしくなる。

しかもタチが悪いことに、
そういうサイトは案外便利で、使い勝手がいいのです。
今度行こうかと思うお店が、
どんな店かを知るのにとても便利にできてる。
住所も電話番号も、地図までそこには用意されてて、
しかも厄介なことに
一見客観的に見える点数までもがついている。
ご丁寧にも、その点数がいかに正当なものか
説明をするコメントまでもがつけられていて、
気づけばそれを読んでしまってる。

ボクはそれをこう読むことにしてる、という
その読み方をまた来週の話題にしましょう。
また来週。


2015-12-10-THU



     
© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN