042 超えてはならない一線のこと。その13
「まずい」は個性か?

さて、一線を越えてしまった
さまざまな話に戻っていきましょう。

飲食店の商品のコト。
「○○すぎる」商品のコトを、
いろいろ考えてみようと思います。

いろんな「すぎる」が商品にはある。
安すぎる。
少なすぎたり、多すぎたり。
種類が多すぎたり、
あるいは逆に少なすぎたり、
美味しすぎたりと、
いろんな「過ぎた」がある中で、
おそらく唯一「ない」ものが
「まずすぎる」というものじゃないかとも思うのですね。

あの店はおいしい。
あの店はおいしくない。
お店を評価するにあたって、
最も単純でわかりやすいのが「おいしい」という言葉で、
けれどこの「おいしい」という言葉が一番あやふやで、
たちが悪い。

だって、ある人にとっておいしいモノが、
別の人にとってはおいしくはない‥‥、
そういうことが当たり前のようにおこってしまう。
おいしさというのは「好き嫌い」に左右される。



コンサルタントの仕事のひとつに、
お店の商品を評価するというコトがあります。
チェックリストなどを用意して、
いろんなお店の料理の状態をチェックする。
その時、絶対、使ってはならないのが
「おいしい」「おいしくない」という言葉。
主観が入って評価にならない。
だから「おいしい」ということを、
他の基準にかえて料理を評価する。
ボリューム感や香り、
歯ごたえだったり、歯ざわりだったり、
いわゆる食感と呼ばれる要素。
食べやすさとかのどごしだとか、
食べている最中の感覚。
数多くのチェック項目を積み重ねることで
「客観的なおいしさ」を計る努力をするのです。

中でも大切にするのが次の3つの要素。

[1]おいしくみえるかどうか
[2]熱いものは熱く、冷たいものは冷たいか
[3]ひと口目にインパクトがあるかどうか

というこの3点。

盛り付けがただうつくしいというのでなく、
思わず手が伸びる、おいしい予感に満ちた盛り付け。
湯気がでていたり、
サラダボウルに霜が降っていたりすると
食べる前から料理のおいしさが
目から飛び込んでくるような気持ちになる。
熱い、冷たいはどんな人も
大体同じ感度でたのしむことができるから、
料理を評価する上でやはり大切。
本来、料理は全部食べて
はじめておいしいと思う味つけじゃなくちゃダメ‥‥、
と言われるのだけれど、
飲食店に関しては、やはり味の第一印象が大切。
特に大衆的な料理であればあるほど、
ひと口目に感じた印象で
おいしかったかどうかが大きく左右されちゃう。

そしてこれらの事柄は、
個人の好みに左右されることが少ない、
客観的な要素でもあり、
だからいろんなお店を公平に評価することが
できるのですね。

なのだけど‥‥。

こうした公平な評価基準で評価して、
それでもやっぱりこの店の料理は
ちょっとおいしい基準から
外れているんじゃないかというような
お店に出会うようなことがある。
それじゃぁ、その店がすぐに潰れてしまうかというと、
案外しぶとく生き残る。
考えてみればおいしくないお店というのは、潰れてしまう。
ボクがどんなにまずいと思っても、
それは「まずい」のではなく
「個性的」と思ったほうがいいのでしょう。



そういえば「まずい」というコトを「個性的」と考える、
それを逆手にとった戦略を
ある大手外食チェーンが実施したのです。

以前もお話ししたことがありましたね。
某大手回転寿司のチェーンストアが実際に行なったこと。
新規開店するお店のシャリ。
味付けを個性的にするのです。

一味引いて、代わりに残った味の中から一味強調する。
引く味は大抵旨味で、
強調する味は地域によって、
塩味だったり酸味だったり、
あるいは甘みだったりする。
食べた人は、あれ? おかしいぞ、変わった味‥‥
って、ちょっとビックリ。
けれど、お店は出来たばかりでキレイだし、
お店の人も気合満点。
だからこれでいいんだろう、と納得する。
納得すると同時に、その変わった味をまた思い出す。
バランス取れておいしい味より、
ちょっと変わった個性的な味の方を、
人は思い出しやすいようにできてるんですね。
だから気になりやってくる。

やってくるのは大抵、1ヶ月くらい経った頃。
そのタイミングで彼らはシャリの味を変える。
変えるというか、基準の味に戻すのですね。
旨味があって、程よくバランスのとれた味。
食べると「あれ、おいしくなった!」って思うシャリです。
そしてたちまちファンになる。

おいしくないことを武器にする。
そういう戦略が飲食店にはあるほど、
「おいしくないこと」は欠点ではない。
つまり「おいしすぎない」ということを、
ココで論じてもしょうがない。

問題なのはその真逆です。
「おいしすぎる」こと。
さて来週から本格的に、
この世の「おいしすぎる」ことを考えていこうと思います。
また来週。



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その結末とは?
グルメ本でもあり、ビジネス本でもある
一冊となりました。






2016-01-14-THU



     
© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN