糸井 | 以前、サンデルさんは これからやりたいことのひとつとして、 みんながほんとうに話し合う場所を つくりたいとおっしゃてましたけど、 それは具体的に動き出していますか? |
サンデル | はい、NHKで実験的にはじめているのですが、 東京とボストンと上海の学生たちを 中継で3ヵ所同時につなげて議論する。 それを私が進行する、ということをやっています。 |
糸井 | ああ、そうでしたか。 |
サンデル | はい。糸井さんがおっしゃった、 「みんながほんとうに話し合う場所」を つくるための実験と思ってこの企画をやっています。 これは私のひとつの夢なんですが、 世界中のいろんな場所にいる人たちが たくさんのスクリーンを通してつながって、 お互いのことばもぜんぶわかるようなかたちで 文化を超えて議論する。 そういうことを私は考えています。 それについて、糸井さんはどう思いますか? |
糸井 | すばらしいことだと思います。 ただ、なんというか、その状態すらも、 あとから考えて「過渡期だったね」って 思えるようになったらいいなぁ、 という気持ちもあります。 なぜかというと、 これまでの議論や話し合いというのは、 ことばという道具を持って、 しっかり磨いている人どうしが してきたものだと思うんです。 つまり、西部劇でいえば銃を持っている人、 日本の時代劇でいえば刀を持っている人どうし、 こどばを武器として使える人たちが ディスカッションしてきたという歴史がある。 でも、実際のところ、ほとんどの人たちは、 ことばを武器として使うことに そんなに慣れていないと思うんですよ。 たとえば、議論に参加している 優秀な学生がひとりいるとする。 彼が世界のなにかの問題について 部屋で熱心に考えていると、 「ご飯だからおいで」って 彼を呼ぶお母さんがいる。 「ご飯だってよ」って呼びに来る妹がいる。 「遊びに行こう」って誘いに来る友だちがいる。 で、家族とご飯を食べたり、 友だちと遊んだりする時間や関係のほうが 人の暮らしにおいては現実的だったり 豊かだったりすると思うんですね。 だから、世界中の人たちが議論するという すばらしい場がありつつも、 いずれは、その議論に参加しなかった人たちが つながりあってるということが、 大事になってくるんじゃないかなっていう気が ぼくはしているんです。 |
サンデル | ‥‥なるほど。 そこへ向けて、こういうふうになればいいという アイデアはお持ちですか。 |
糸井 | はっきりとした道筋は見えていないんですけど、 知り合いに聞いたひとつの例があります。 どういうものかというと、 夏休みのあいだに世界中のいろんな国の 小学生を集めて行うキャンプがあるそうなんです。 みんなふつうの小学生で、 特別な勉強をした人たちではありませんから、 よその国の子がしゃべることばはわかりませんし、 習慣も、風俗も、みんな違う。 だけど、そこでことばのわからない子どうしが ひと夏のあいだキャンプをすることで、 友だちになり、関係が生まれて、 意思の疎通もできるようになるそうです。 そして、そのキャンプが終わったあとは、 それまでは知らなかったいくつもの国が、 「友だちの住んでいる国」になる。 そうすると、その国と争ったりしたくないでしょ? っていうのがテーマのひとつらしいんです。 それは、とっても、いいなぁと思ったんです。 そういうふうに関係が自然と 広がっていくのはいいなと思って。 |
サンデル | ああ、そうですね。 |
糸井 | かつてぼくは、ことばを扱う職業を 長くやってきたんですけど、 ことばを扱うことに特化していない人たちが やり取りしている中にこそ、 たくさんのヒントがあって、 そのことにぼくはこれから目を向けていくことが 増えていくんじゃないかなと思ってるんです。 |
サンデル | たしかに、そのキャンプの話というのは、 文化の違う人たちが、日常を共に過ごすことで、 多くのものを得ることができる。 その意味では非常にいいと思いました。 |
糸井 | もちろん、考えるべき人たちが考えるとか、 ことばを使って考えを深めるってことは、 とっても大事なことなんで、 ぼくもそれは、一所懸命、 たのしみながらやっていこうと思うんですけど。 ただ、インテリどうしが ああでもないこうでもないと議論しているときに、 特別な能力を持ってないふつうの人が 「こうやればいいんじゃない?」って言ったら すっとわかってしまった、みたいな例が 実際にはけっこうあるじゃないですか。 そういう物語のほうにも目を向けたいんですよね。 だから、なんというか、両方がいっしょになって、 交じり合って進んでいくようなことが できないかなぁって、よく思ってます。 |
サンデル | そうですね。 |
糸井 | あと、これは思いつきというか、遊びなんだけども、 技術とお金があったらやってみたいなぁと思うのは、 世界の、離れた街と街の真ん中に、 大画面のディスプレイとカメラを置いてつないで 互いがなにかやってるのが見えるようにして、 ただ、放置しておくことなんです。 たとえば、インドと渋谷とニューヨーク、 みたいなところに、 その装置を置きっぱなしにしておく。 そこだけ、突然、外国の街が見える窓みたいにして。 できれば、全身が等身大で映るくらいの大きさが いいなあと思うんですけど。 たぶん、それを街の真ん中に置いておいたら、 目の前のカメラに向かって バカをやるんですよ、誰かが。 インドの人に向かって日本のバカがなんかやって、 それをみたインドのバカが反応したりして。 で、立派なことをやるわけじゃないんだけど、 だんだんそれが、使われ方として 進化していくんじゃないかなって ぼくは期待してるんです。 たとえば、インドで歌を歌ってるのを 渋谷の若者たちが聴いて、 演奏をはじめる、踊りだす、お尻を出す。 そういうことと、サンデルさんの ディスカッションのネットワークっていうのが、 両方、混ざっていくといいなぁと思って。 |
サンデル | それはたいへんおもしろい実験だと思うんですけど、 糸井さんのウェブサイトで 試してみたりしてないんですか? |
糸井 | やりたいです。 やりたいんですけど、まだ思ってるだけですね。 たぶん、ぼくらの力だけではできないし。 ほかの会社に公式に協力してもらうとしたら、 「なにが起こるかわからない」っていうところが たぶん、ネックになってくるんでしょうね。 |
サンデル | でも、ぜひやってみてください。 ぜひ見てみたいと思います。 |
糸井 | サンデルさんにそう言われると なんだか力が出ますね。 そういう、現実のものを進める力が、 サンデルさんにはあるんでしょうね。 |
サンデル | (笑) |
(つづきます) | |
2012-08-01-WED |